遠くに感じる季節の音

CHOPI

遠くに感じる季節の音

 ――パチリ


 ふと、目を覚ます。ほんの数秒前まで見ていたはずの夢は、もう何も思い出せなかった。やけに頭がすっきりした目覚めだった。

 

 体を起こして窓の外に目をやると、今日も高い青空が広がっている。モクモクとした入道雲が夏のそれだった。少しだけクーラーで冷えた体が動かしにくい。喉が渇いたな、と思ってベッドから這い出し、扉を開けてキッチンへ向かう。


 寝室以外クーラーを入れていないから、キッチンはムワッとした湿度と共に温められた空気で満ちていた。空気に質量を感じるのは、この湿度のせいだと思う。クーラーで冷えた体はすぐにこの温められた空気で元に戻っていくけれど、比例してジットリとした空気に包まれてあまりいい気分にはならない。空気を入れ替えようと、キッチンにある小さな窓を開け放つ。


 ――フワッ……


 思いのほか風がしっかりと吹いていて、キッチンに籠っていた熱気をかき回していく。吹き込んできた風を、昨日よりほんの少しだけ『涼しい』と感じた。風が涼しく感じられるようになってきたのか、と頭の片隅でぼんやり考える。少なくともこの時間はもう、熱風が吹いてくることは無いんだろう。


 水を飲みながら、朝の空気がどことなく、夏の強さが薄まっているように感じていた。とはいえ、スマホの天気予報には、今日も熱中症アラートが入っている。まだまだ夏は続くけれど、だけど、なんだか。


 窓の外、スーッとトンボが飛んでいった。ジージーとアブラゼミの声が響き始める。まだまだ夏は終わらない。わかっている。……だけど。


 少し前までの、限りなく白に近い青色の強さとか、目に痛かった黄緑色が本当に少しずつ。鮮やかな青色や深い緑に、そしてそれから少しだけ落ち着いた黄色や、麦わら色に変わってきていて。


 ――……終わりの音が、近づいてくる。

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