さるかに作戦

さるかに作戦

 むかしむかし、あるところにサルとカニがおりました。


 サルは柿の種を持っていました。カニはおにぎりを持っていました。


 サルはおにぎりがほしくなったので、カニにずるいことを言いました。


「この柿の種をまけば、美味しい実がなるよ。どうだ、おにぎり交換してあげようか」 

「これはどうもありがとう」


 カニは家にかえると、さっそく柿の種をお庭にまきました。

 

 そしてせっせと水をやり、

「はやく芽を出せ柿の種

 出さぬとはさみでちょんぎるぞ」

 と言いました。すると芽が出て、ぐんぐんと育ちました。


 カニはその木にむかって、

「はやく実がなれ柿の木よ

 ならぬとはさみでちょん切るぞ」

 と言いました。するとあっという間に柿の実がなりました。


 カニは下から柿の実を見上げて

「巧そうだなあ。はやく食べたい」

 と言って手を伸ばしましたが、背が低いので届きませんでした。木に登ろうとしてみても、カニは横ばいですから上手く登れません。


 とうとうあきらめて柿の木をくやしそうに見上げていると、サルがやってきて言いました。


「立派な柿が実っているじゃないか。よしよし、かわりに取ってやろうじゃないか」


 サルはするすると登っていくと、赤く熟した柿を「美味い美味い」とむしゃむしゃ食べ始めました。


 カニはしばらく羨ましそうに眺めていましたが、サルがいつまでも食べているので、 

「ずるいよサルさん。自分ばかり食べてないでこっちにも投げてよ」 

 と言いました


 するとサルは、 

「うるさい。そんなに投げてほしいなら望み通りにしてやるよ」

 と言うと、まだ青くてかたい柿をカニに投げつけました。


 カニは投げつけられた柿に押しつぶされて死んでしまいました。

  

 🦀



――数日後、同盟軍駐留基地ブリーフィングルーム

 

「状況を説明する」


 子ガニ少尉が言いました。


「知っての通り、カニ中佐が営舎付近で殺害された。武装勢力の一員であると目されるサルによる犯行と考えられる。これに対し、同盟軍はサルの殺害作戦を行うことを決定した」


 カニは同盟軍の中佐でした。駐屯地内で殺害されたため大問題となり、同盟軍は容疑者の殺害に踏み切りました。


「本作戦のため、ここにいるクリ、ハチ、𦥑の諸君と子ガニからなる諸兵科混成特務部隊が臨時編成された。作戦目的はサルの殺害、内容は事前配布した資料のとおりだ。何か質問は」


 クリが手を上げ――ようとして手がなかったので「質問よろしいですか」と切り出しました。


「子カニ少尉殿は任官前の士官候補生だったはずですが、いつの間に少尉になられたので」

「野戦任官だ」

「野戦任官……」

「法務官の見解では、現状における野戦任官の適用は解釈上可能であるとのことだ。つまり問題なしということである。よってこの作戦中に限り、私は少尉で部隊長だ」


 野戦任官とは、役職に合わせて階級を一時的に変える制度です。本来戦闘中の指揮官の戦死などを想定して作られたものですが、規則とは解釈するものです。合法と解釈できるのであれば一切の問題はありません。

 

 子ガニは士官学校在学中であり、その階級は准尉(少尉の下)です。同盟での作戦部隊の指揮官は士官(少尉以上)であることを要件としています。つまり、准尉では階級が足りないため、作戦指揮官に任命できません。軍隊におけるルールは絶対です。


 そこで、野戦任官の制度を利用して少尉にすることで、子ガニを指揮官にすることができます。


 ところで、軍隊の制度とは歴史であり文化です。国によって全く異なり非常に複雑怪奇。みんなも自分の国の軍隊の制度を調べてみよう! 軍隊のない平和主義国家に住んでいるみんなは、戦車とか戦闘機をたくさん配備している不思議な組織(自衛のための必要最小限度の実力であり、断じて戦力ではありません)について調べよう。

 

 野戦任官という制度は現代ではめったに見ることはありませんが、この世界での同盟軍では柔軟に活用されています。お話でつかうと雰囲気が出てかっこいいのです。


 次に臼が手を上げ――ようとしてやはり手がなかったのでドスンと音を鳴らしました。


「作戦名は」

「さるかに作戦だ。これは上層部の命名である」


 作戦名は大切です。


「他にないか――では全員配置につけ」

了解Roger


 クリ指向性散弾ハチ機関銃兼弾薬𦥑臼砲弾、子ガニからなる諸兵科混成特務部隊が作戦実行のためサルの家の中作戦区域に展開しました。


 そうしていると、なにも知らないサルはのんきに帰ってきました。


「目標の帰宅を確認。作戦を開始せよ」

「了解。作戦を開始する」


 帰ってきたサルは、いろりのそばに座ろうとしました。


「目標接近……点火Fire


 クリ指向性散弾が弾けてサルに降り注ぎました。


「あついっ。みずっ、みずはどこだ」


 サルは水がめのところへいきました。


 そこにはハチ機関銃が待ち構えています。


「目標射程圏内。斉射する」


 サルは蜂の巣にされました。


「いたい、たすけてくれ」


 サルはたまらず家から逃げ出します。


 家の裏手では、臼が間接照準砲撃のために待ち構えています。


臼砲、こちらFDC射撃指揮所。射撃命令。方位角3323サンサンフタサン射角1302ヒトサンマルニ効力射、射撃開始」

「FDC、こちら|臼。了解、射撃を開始する」

「射撃用意――撃てFire


 臼による効力射が開始されました。

 

「弾着五秒前――――弾着、今」


 家から飛び出してきたサルに、曲射で臼が降り注ぎました。


「部隊各員、こちらCP戦闘指揮所。目標沈黙を確認。繰り返す。目標の沈黙を確認。これより作戦を最終段階へと移行する。おわりOut


 最後に小ガニが出てきて


「親のかたきだ」

 

 と言い、サルの首をはさみでちょきんとはさんでしまいました。


「部隊各員、こちら隊長。作戦は終了した。この後作戦区域に対する空爆が行われる。全員速やかに帰投せよ」


 こうしてさるはこらしめられ、部隊の帰投後に空爆によってサルは殺害されました。

 

 🦀

 

 「子ガニ隊長、どうせ空爆するなら、どうしてあんな作戦を行ったんですか」


 帰投したあと、ハチが尋ねました。


 子ガニは一枚の写真を取り出しました。サルの首を挟んでいる子ガニが写っています。


「さっき記者会見に同席させられたよ。要するに、今回の作戦目的は、広報PRだったわけだ。あの奇妙な作戦も、作戦名も、昔話になぞらえたわけだ」


 ハチは複雑な感情を抱きました。

 

「――ということは、最初の事件の段階から……いえ、それならきっとこう言うべきですかね。

 

 『おしまい』」

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