第6話 今度はあなたがワンチャンね?


「ふふっ。照れないでよ」


「わたしも、あなたにとっての傘になれれば嬉しいな」


(沈黙と息遣い)


「……そうだ。ご飯を食べたお皿も洗い物しなきゃ」


「といっても、食洗機に入れるだけだけど」


「え? あなたがやってくれるの?」


「で、でも……」


「そっか。甘えて良いなら甘えちゃおうっかな」


(歩いていく。皿を置く音と水の音)


「わたしが料理を作ったから、片付けはあなたがやってくれるってことね。……そんなこと、気にしなくていいのに」


(がちゃっと食洗機の扉を閉め、ピッとボタンを押す)


「ふふっ、ありがと」


「ねえ、もう一つ甘えてもいい? あの……ご褒美がほしいの」


「犬の真似をしたご褒美。わたしも楽しかったけど、今度はあなたになにかしてほしいの」


「ね? いいでしょ」


「あのね……勉強を教えてほしいの」


「あなたって勉強が得意だから……一緒の机で隣に座って、教えてほしいの」


「わたしは成績もあまり良くないし……」


「付き合ってくれるんだ。良かった」


(二人で勉強部屋へと向かう。扉が開く音)


「この椅子に座って」


(二人で並んで座る。椅子を引き、本を机に置く音)


「えっとね、教えてほしいのは、数学なの。このページの……」


(本を開く)


「そうそう、このあたり」


(筆記具と紙がこすれる音)


「……ふーん、そっか。なるほど」


「わかってきた……気がする!」


「えっとね……次はここを教えてほしいの」


(ふたたび筆記具と紙がこすれる音)


「うん、うん。へえ、そっか! わかったと思う」


「ありがと!」


「すごい。あなたの説明って本当にわかりやすい」


「昔から、頭いいよね」


「すごく助かるな……」


「あとは……」


(そのまましばらく机で教える。)


「こんなところかな。ありがとう。助かっちゃった」


「わたし、もうちょっと頑張ってみる。まだ受験までは時間があるし……あなたと同じ大学に行けるようにしたいな」


「もちろん、わたしがあなたのレベルについていけるようにするんだから」


「あなたは妥協したりしないでね?」


「頭が良くて、かっこいい、頑張っているあなたが、私は好きだから」


「ふふっ」


「え? 他にもお願い、聞いてくれるの?」


「うーん」


「あんまりお願いしたいことはないんだけどね」


「だって、あなたはいつもわたしのお願いを聞いてくれるから」


「ふふっ。あなたは優しいから」


「でも、せっかくだから……今度はあなたがワンチャンになってくれない?」


「あなたが犬の真似をして、わたしがご主人さま」


「でも、ご奉仕するのはわたしだよ?」


「つまり、わたしが……あなたを可愛がってあげる!」

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