第5話 雨が降った時、あなたが傘をさしてくれる
「そっか。喜んでくれているんだ。良かった……にゃーん」
「にゃ、にゃあっ、ちょ、ちょっとくすぐったいかな」
「こ、この体勢……かなり恥ずかしいよね」
「で、でも、あなたがしたいなら、どんなことでも……させてあげる」
「つ、次は……どうしよう? ……にゃあ? にゃあにゃあ」
(突然、雨の激しく降る音)
「えっ!? 雨が降ってるのっ!?」
(立ち上がって、ばたばたとベランダへ駆け寄る)
「せ、洗濯物が濡れちゃう!」
(ベランダの窓を開ける。雨の音がよりクリアに聞こえる)
「早く取り込まなきゃ……ど、どうしよう~!」
「張り切ってたくさん洗ったのに!」
「え? あ、あなたも手伝ってくれるの?」
(ベランダへ移動する)
「あ、ありがと」
「ごめんね? 全部うちの洗濯物なのに……」
(洗濯物を取り込んでいく音)
「量が多いよね……」
「あっ、それ、わ、わたしの下着……!」
「え、えっち!」
「わ、わたしがしまうから……!」
(ばたばたと作業する)
「……ふうっ」
「一通り片付いたかな。ありがとね」
「さっきまで、いいところだったのにね?」
「でも、こんなふうに洗濯物を片付けるのも……家族みたいでいいよね?」
「片瀬さんとは違うんだから……」
「も、もちろん、わたしとあなたは最初から家族みたいなものだけど……今はそ、その、ちょっと夫婦みたいだなって思ったの」
「べ、別に結婚したいとか、そんなこと言ってないんだからね?」
「で、でも……あなたとなら結婚してもいいかも」
「ふ、深い意味はないからね?」
「服をたたまなきゃ……」
(服をたたむ静かな音)
「……わたしは、あなたといつまで一緒にいられるんだろう」
「ずっと一緒で、お隣さんだったよね」
「喧嘩したこともあったけど、楽しいことの方がずっとずっと多くて」
「いつもこうやって一緒に過ごして、あなたのお父さんもお母さんもわたしを家族みたいに扱ってくれて」
「中学生のときはちょっとだけ疎遠になったけど、あなたからわたしに歩み寄ってくれた」
「……昔もさ。中学の帰り道、こんなふうににわか雨が降ってきたこと、あったよね?」
「あなたはみんなにからかわれても、恥ずかしくても、わたしに傘を差し伸べてくれた」
「相合い傘で一緒に帰ったよね」
「今も、もし雨に振られたら一緒に帰ってくれる?」
「なんて、ね」
「……え?」
「『絶対、傘を差して一緒に帰る』って……そ、そっか。嬉しい。ありがとう」
(耳元に唇を近づけ、至近距離で)
「わたしの心に雨が降ったら、傘を差してくれるのはあなただけなんだよね」
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