第5話 予言に従って
その頃学校では、、、。
「僕、本当にこれを読むんですか」
星崎勇音は困惑していた。
「ああ、当たり前だろ。代読なんだから。せっかくゴードン君が頑張って書いたこの文章を君はないがしろにすると言うのかね」
担任の
「なんだよ、せっかくイケメンティーチャーとして女子高生にモテまくる予定だったのに、こんな塩顔イケメンの担任にしやがって、ぜったいに堕とす。それからゴードンとか言う異世界人もだ。俺の存在感が薄れるだろうが」
「先生、私怨なら影で言ってください。そんな大声で。それから異世界人って内緒ですよ」
「はぁ?知ったこっちゃねぇ。防衛省なんざ二流官僚に俺は負けねぇ、女子高生にモテる方が重要だ、そうだろう?」
「そうじゃないです。あの、アドリブでいいですか?」
「ダメだ、一字一句違わずに読め、じゃないと俺がママ活してやってる校長に頼んで退学にしてやる」
退路は断たれた。
そして入学早々自分が間違った学校を選んでしまったと後悔した。
時は過ぎ、新入生代表の挨拶。
「、、、、、、、、、はぁ、、、、、最悪だ、、、、、、ぁあぁ、、、、我の名は星崎勇音、、、、。名前なぞ覚えなくてもよいような、矮小な一匹の男に過ぎない、、、、。だが我は知っている。この世に悪も正義もなく、あるのはただ異なる信念の下に住まう民草のみ。争いは悲惨だ。しかし、争いを避けられぬほどに我らはそれぞれ異なる美しさを持ち、衝突し、削り合い、問いかけ、応答することによって宝玉のように磨かれてゆく。ゆえに、、、、ゆえに、、、我らは大いにぶつかろう、戦おう、そしていつの日か認め合うのだ。そしてこの学び舎に勇猛で輝かしい歴史を積み上げるのだ」
保護者、生徒がざわつく。
校長やら教員やらはもう、パイプ椅子から腰を浮かしてこちらに走ってきそうな勢いだ。
「あいつ、なに言ってんだ?」
「あれだろ、中二病」
「顔はかっこいいのになぁ」
「でもなんか照れてない?そこがかわいい」
「罰ゲームじゃないの?」
ああ、もう、どうにでもなれ、と勇音は続ける。
「ある小国の話をしよう。マンダリオン公国はかつて、滅亡の危機にあった。強大な隣国が出来の悪い第4皇子を公国の長女に嫁がせようとしたのだ。公国には男子が生まれなかった。そしてその隣国は第4皇子を次期王とし、傀儡とせんとした。この第4皇子は、、、、、、、、、、、、、、、」
「おいおいおい、どうしたあいつ」
「マン、、、なんだって?」
「彼は絶対、われらが西欧フィクション同好会に入れるぞ、まれにみる逸材だ」
なんか変な同好会から熱い視線を受けている。
帰ったらゴードンの大好きなプリンを全て食ってやる、といつもの冷静な自分を失い始めていることに、勇音は気づかない。
「、、、、、、、、、その時、公国の王女は言ったのだ!第4皇子を愚か者だと蔑み、排斥せんとする貴様らは、果たして次は自分の番だと思わぬのか。愚か者を1人排除すれば、また次の愚か者がのけ者とされる。そんな国に我はしたくない!全ての人は尊く、そして愛おしい、誰1人として、我はこの公国から排除しない!!それが嫌な、己は有能だと思っている浅慮な民なぞ、我は欲しない!」
「え、、、なんかちょっと感動してきたんだけど」
「ねぇ、やっぱりカッコよさ損なわれてなくない?」
「お前が王子だろって、ツッコんでいい?わたし」
「そして、その王子は母国の傀儡となることなく、王女とともに全ての民草に居場所を与えた名君として、今もその国を治めている。分かるだろうか!?この素晴らしさを。我はここをそんな公国のような学校にしたい!ゆえに安心して我に従え、ついてこい!皆が我に与えた物以上のものを、我は皆に返すと誓う!!!共に行こう!果てしない戦場へ!!さぁ、立て、立つのだ!!皆の者!!!叫ぼうぞ!!!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「きゃぁあああああああああああああああああああああああああ」
その日、1つの伝説が生まれた。
1日にして学年をまとめ上げたその演説は、額に入れられて燦然と校長室に飾られた。
そして、星崎勇音のあだ名はその日からSHOGUNとなった。
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エイレーネーは神と天使の子供であった。
その動きといえば、まさに神速。
「ふんんんんんんんんん!」
ゴードンの脇腹に刺さった光る槍。
背後に隠した類を庇って
「グおおおおおおおおおお久々の痛みだあああああああああああ」
ゴードンは唸る。
「いつかの焼増しのようですわね、ゴードン様」
「ああ、お前が裏切ったとき以来だな」
エイレーネは槍を引き抜く。
ゴードンの腹からは人と同じく血が滴る。
彼は純粋な人間であった。
「あのときは油断しましたわ、私の速さについてこれないと高をくくっておりました」
「速ければ近づけばよいからな」
そう、ゴードンは刺さった槍を今まさにつかもうとした、その瞬間にエイレーネーは槍を抜いた。
「なんてことないですわ、遠くからずっと刺し続ければいいんですの」
ほくそ笑むエイレーネー。
「ちょっと、近藤君、なんで、、、」
類は血に慣れている。
ただそれが即死の傷に見えればうろたえもする。
「いや、なんで、だめ、絶対にだめ、、、、なんで、近藤君は味方なのに、やっと見つけた味方なのに、、、」
類はゴードンの前に仁王立ちになって、異色の女に立ち向かう。
何が起きているのかはさっぱり分からない。
分からないが、とにかく彼女は敵だということだけは分かる。
「許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない」
類は自分の髪を搔きむしりながら言う。
「類の世界にはね、敵と味方しかいないの。あいつは敵」
そういって類はエイレーネーに向かって吠える。
「出て行ってよ、くそ女!なんなの、あんたいったいなんのよ!」
エイレーネーは長い髪をなびかせて、
「私?私はね、ゴードン様と結婚するの、そうしなさいって予言が言ってるのよ」
★★
名前:エイラス・エイレーネー
年齢:18歳
体形:身長178センチ、体重不明
職業:ウィーバー配達員
「あのね、大司教様がぁ、予言でエイレーネ―とゴードン様の子供がいずれ世界を和平に導くって言ってたのよ、子供の名前は、ゴードンとエイレーネ―から取って、ゴネなんだって。そしてね、エルザイヤ大司教区の郊外に、少し小さな領地を貰って、お家はね、白い家で、大きな犬を1匹飼ってね、そしてね、朝はまずぅ、一緒に領地を散歩して、帰ってきたら外でお花を見ながらお紅茶を飲むの、それから朝ごはんはもちろん私が作るわ。それから、お昼までは一緒にゆっくりベンチに座ってご本を読むの、、、それからそれから、夜はね、少しお酒も飲んで、そしたらゴードン様が我慢できなくなってね、それで天蓋付きのベットに行くの、私はだめよって、ゴネが起きるわって言うんだけど聞いてくれなくてね、、きゃーきゃー」
光る槍がほとんどライブ会場のペンライトのようにあちこちに振られている。
「あの人どうしたの?」
類は冷静に突っ込まざるを得なかった。
「エイレーネ―は非常に優秀な戦士なのだが、時よりああやって煩悶することがあってな」
エイレーネ―はそのモデル並みの体形をくねくねさせながらまだ何事かを呟いている。
「類、知ってる、あれ」
「あの病をか?」
「うん。厄介限界ファンだ」
その言葉にエイレーネ―のペンライトがぴたと止まる。
「厄介ですって?」
「うん。ちなみに生態としてそうやって
「嘘!?嘘ですって!?大司教様の予言をなんてこと!?」
そこでゴードンがはっと気が付く。
「そもそもおかしい気がするな。エイレーネ―は神と天使の子であり、ほとんど神に近い存在だ。むしろ予言を大司教に伝える存在だと思うのだが」
「ばっ、違うわい、おかしいこと言うのね、ゴードン様、パパじゃない他の神の予言よ」
エイレーネ―は槍を類の額に向ける。
「とにかくこの女よ、この女と結ばれると厄災が!そうよ厄災が起きるから防ぎに来たのよ!」
「目的が変わってますが」
類は額の槍をもろともせずに言う。
エイレーネーの人間的な部分が見えて怯えがなくなったのだろうか。
「ともかく!!さっさと離れなさいこの、この、この、、、アバズレ!!」
その言葉に、類は少しびくっとしたようだった。
「エイレーネ―、とにかく落ち着いて話そう。こちらの世界には警察という方々がおってな、、、」
その時、エイレーネーのスマホがけたたましく鳴った。
「ちっ、何よこんな時に、、、、、」
エイレーネーが電話に出ると、そこから男の大声が漏れた。
「おい!!あんたどこにいんだよ!俺の【ローストビーフ男爵に麗しいピンチョス歌劇団を添えて】がとどかねぇんだがぁ!?????????」
「は、はぃぃぃぃぃぃ、申し訳ございませんんんんんんんん、今すぐ届けますので、はい、はい、大変申し訳ございません、、、低評価だけは、低評価だけは、、っ!」
通話の終了する音が、蛙飛び込むなんとやら、部屋に響く。
エイレーネーは、「う、うん!」と咳払いして、
「じゃ、そういうことですのでっ!!」
と片手を上げて部屋から出ようとした。
「いや、どゆこと?」と類。
「おう、また会おうぞ」とゴードン。
「そこのアバズレ、夜道には気を付けることですわ!震えて眠りなさい!!さらば!」
エイレーネーは一条の光となってその場から消えた。
あっけに取られた類は一言、
「あれ、ウィーバー配達員天職なんじゃない?」
ゴードンは頷きながら、
「天使の天職はここにあったのか。使命があることほど、幸せなことはないからな」
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