第3話これやこの・・・。

「夫を裏切る事になるんです。」八代の夫が羨ましかった・・・。

「幾ら結婚していても恋愛するべきだと、メディアが推奨していてもですよ?」

 甲の方を向きながら甲の眼を見詰めて諭す様な口振りで言い伝えた。

何も言えなかった。

 言い終わるとまた前を向いてハンドルを握っていた。

流石に聡明な八代らしく、話の切り返しは鮮やかでそれでいて全うな意見だったから誰もが肯定する諭し方のお手本の様だと、遠退く意識を捕まえもうこれで良い、戦い破れた敗残兵の様にさ迷い居場所を探していた。

 とどめを差された気分に打ちひしがれていたが、前を向き、一つ頷いて八代を振り向きニコッと、微笑むこれが最高のリーサルウェポンだったが、八代は運転に夢中で甲の方を振り向く余裕など無く唇を真一文字に結びハンドルをハの字に手を掛け、真剣に運転をしていた。

 篠山からのメールの報告をする序でにどさくさに紛れて、告白し、八代に了解を取り付ける算段を見事に論破され、意気消沈していた。

 これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関。

ポツリと百人一首を語る。

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