第23話 航海
船はあった。
しかし喜ぶことは間違いだ。船があるということは被害を受けたという事であり、白い煙が上がっているのも無事では無かった事を表している。
「ぐえっ、だ、大丈夫ですか!!」
俺達は船へと降り立った。
というより、落とされたという方が近いが。
大声で呼びかけても返事は無い。
船の損傷からして、事故などではなく明らかに人為的なものを感じる。
俺の予想通り、ガイレアス教の仕業だろう。
「誰かいませんか!」
船には大きな穴がいくつも空いていて、まだ沈んでいないのが不思議なくらいだった。
船の外には人が一人も見当たらない。
不気味だ......これは幽霊船か何かか?
「明来、警戒しろ。この穴......下からだ」
下から大きく空いた穴。
覗き込むと、確かに船の下まで続いていた。
不気味なくらい静かな船。
魔物も見当たらないし、襲われた訳じゃない......のか?
「降りてみよう」
階段なんてものは破壊されて無かったが、そこまで高い訳じゃないので穴から降りた。
上からじゃ暗くてよく見えなかったが、中に入ってすぐに分かった。
血だ。闘ったような形跡が、あちこちに付いている。
そして、巨大な触手。いや......これはツルか?
まるでアナコンダのような大きさのツルが、そこら中に伸びていた。
植物型の魔物だろう。船に穴を開けたのはコイツらのようだ。
ただ、枯れている所を見るともう動くような心配は無さそうだ。こうして俺達が近付いても何も起こらない。
この植物......ガイレアス教で間違いない。
そしてツタの近くには、何人もの人が倒れていた。
「大丈夫ですか!?」
急いで回復魔法をかける。
が、そんな事は意味ないとすぐに気付いた。
体が微動だにしない。
呼吸も脈拍も、詳しく調べる程でもないくらいに静かだった。
「誰か......誰かまだ生きている人は!?」
「明来!こっちだ!」
高津が呼ぶ方へ急いで向かうと、一人倒れている人がいた。
全身に大きな切り傷と打撲。まるで巨大な何かが船を持ち上げで強くシェイクしたかのような大怪我だ。
しかしまだ息がある。
微かだが、生きている。
「急いで回復を!」
「分かっている!!」
どんなに急いだって、俺の固有魔法ではかすり傷を治すのにも数秒かかる。
刺傷や切り傷なら数分だ。
ここまで瀕死だと、俺の回復が間に合うかどうかも怪しい。
「やれるだけの事はやってみるが......」
両手のひらに魔力を集中し、固有魔法を発動する。
みるみるうちに......とまではいかないが、少しづつ回復し始めた。
その間、高津と小森さんには別の生き残りを探してもらう。
「もし見つかっても無理には連れて来なくていい。下手に動かすと、症状が悪化する危険がある」
回復を初めて約五分くらい経った頃だろうか。
いや、気持ちも焦っていたし、集中していたのもあって実際には十分くらいは経っているかもしれない。
やっと目立つ傷口が塞がって来て、打撲痕も少し薄らいだ。
「明来」
「高津か、どうだった?」
「駄目だ......生き残りはいなかった。どれも少し前じゃない、ずっと前に死んでいる」
「こっちもよ。亡くなっている事が一目で分かるほどに大きなダメージを負っている人ばかり。皆武器を持って......闘ってたみたい」
「そうか......」
ゴホッゴホッと咳き込む声が聞こえた。
見ると、死にかけだった人が血を吐き出していた。
これは回復の途中で起こる事だ。先に肺が回復して、中に詰まっていた血を吐き出しているのだ。
「大丈夫ですか!?」
良かった......ちゃんと回復しているようだな。
残念ながら、この船で唯一の生き残りになってしまったようだ。
早い所オーラッサへ戻りたい所だが。
「二人とも、回復魔法は使えるか?」
「全く」
「......少しくらいなら」
「内蔵と、最低限の回復だけにしておくから、外傷を治して欲しい。俺は船を直さないと、今にも崩れそうだ」
船を直せるのは俺だけ。
ずっとこの人を回復し続けていても、船は進まない。俺の回復が遅い分、早めに直し始めなければいけないのだ。
申し訳ないが、この人にはもう少しだけ苦しい思いをさせてしまうな。
「う......」
血を吐き終え、意識が戻って来たのか目を少しだけ開けた。
回復魔法というのは、時間を早送りして身体の回復速度を大幅に向上させるようなものだ。
そのせいか、回復したとしても体の疲れなどの反動がある。
対して俺の固有魔法は、どういう訳か反動があまり無い。
そうだな......そう思うと、回復する場所も傷跡やカサブタが出来たりするはずだが......俺の場合はその過程をすっ飛ばしているように見える。
回復が遅いというのが関係しているのだろうか。じっくり治している分、綺麗に治るとか......?
「あ、あんた達は......」
「意識が戻りましたか。もう話せますか?」
「少しくらいは......」
「無理しなくて大丈夫です。ちゃんと話せるようになったら、ここで何が起こったのか教えてください」
小森さんに、この人を見ておくように頼んだ。
唯一の生き残りだ。絶対に死なせる訳にはいかない。
俺は、そのまま回復も小森さんに任せて船の修復に移る。
今までは、盾や剣などの装備を直していた。
こんな大きな物を直したことは無いが、やるしかない。
俺が、救うのだ。
「うぉおおお!!!」
船の真ん中で屈み、両手のひらを船体に付ける。
そして固有魔法を全力全開で発動した。
その瞬間、ゆっくりとだが壊れた船の部品が戻って来る。
海に散らばったそれぞれが、宙を待って船にくっ付く。
完璧に直す必要は無い。
動かせるくらい、動いても問題ないくらいにまで直ればいい。
時間はかかるが、確実に船は元通りの形へと近付いていった。
「これぐらいで大丈夫か......」
しばらく直すと、ボロボロだが崩れる心配は無いくらいには元通りになった。
こんなに固有魔法を連続で使ったのは久しぶりだな。
もう魔力も限界だ。
「体調はどうですか?」
唯一の生き残りの人に話しかける。
苦しそうな表情をしていたが、俺の言葉を聞いて少しだけ目を開けると頷いてくれた。
大丈夫では無さそうだが、何とか一命を取り留めたようだな。
さて、話は後でゆっくりとして貰うとして、今はどうやって帰るかが問題だ。
船を直したは良いが、生憎俺達は船の操縦が出来ない。
そもそも風が無ければ、前へ進むことも出来ないのだ。この時代の船は不便なものだな。
「高津、船を動かす良いアイデアでも無いか?」
「んー......海に潜って押すとか?」
論外。
お前のバタ足が船のスクリュー並なら考えてやらなくも無い。
「小森さんは?」
「風魔法で風を起こせば進むんじゃないの?」
まさかそれ、船から帆に向けて風魔法を放つって事か?本気で言ってるんじゃないだろうな。
船から帆に向けて風を放っても、前へ進むことは無い。風を放つ力が、帆に受ける力と釣り合ってしまうからだ。
......コイツら、本当に高校生なのか?
ボケなら分かるが......。
「強力な風魔法を船の後ろの方から吹かせば、船に乗っていても進めるはずよ」
「おぉ、なるほど。そんな事出来るのか」
「出来ないわ。私は風魔法使いじゃないもの」
何だよ。
まるで「そんな事簡単でしょ?」みたいな言い方しやがって。
「もう少しマシなアイデアを頼む」
「なら自分で考えればいいじゃない」
考えてるさ。
考えてるが......こんな大きな船を三人で動かすなんて。
昔の人達は、風がない時はどうしてたのだろう。
「お前は風魔法使えないのか?」
高津が聞いて来た。
ということは、高津は風魔法を使えないという事だろう。まぁ期待はしていなかったさ。
高津は肉弾戦を得意とする格闘家だ。自己強化魔法以外知らないと見ている。
「使えなくは無いが......俺のレベルだと長くても持って数分しか風を吹かせられない。それでも無いよりはマシなのだろうが、当分帰れないな」
俺だって風魔法使いでは無い。
体力も魔力量も特別多い訳でも無ければ、効率の良い使い方も知らない。
この大きさの船なら、相当な時間がかかってしまう事だろう。
そもそも、船の操縦だって出来ない訳だしな。
「小森さんって召喚士だろ?ならイルカの召喚獣とかいないのか?」
「いない。お前、テイマーと勘違いしてないか?」
魔物を扱うという点に関しては、同じようなものだろ。
魚系の召喚獣でもいれば楽だったんだがな。
ディモルンで引っ張るというのも考えたのだが、ディモルンに負担がかかり過ぎる。
元々、人を乗せて運ぶことに適したような生物じゃないと言っていた。こんな大きな船を一匹で長時間牽引するのは厳しいだろう。
どうやらディモルンは潜水も出来るらしいが、空も海も変わらないな。
「いや待て小森、お前自身では無く、あいつなら出来るんじゃないのか?」
「あいつ?」
「そうだ。制約無しだって、喜んでただろ?」
「まさか、マギーの事?」
マギー。
何やら聞いた事の無い名前だ。
召喚獣の事なのだろうが、俺は知らないな。
「確かに、マギーなら出来るかもしれないけど......魔力が強過ぎて船ごと壊しちゃうかもしれないわ」
「なぁ小森さん」
俺は、小森さんの事を真っ直ぐ見た。
相変わらず俺の方は絶対に見ない。
話す時だって、いつも不機嫌そうに返事をするだけだ。
今回、話を聞いてくれたのは奇跡だとしか言いようがない。
だが───────
「そうやって毎回、一旦躊躇わないと召喚獣ってのは出せないものなのか?俺に嫌がらせする為だけにわざと出し惜しみしているのか?」
「......チッ、うるさいわね。こっちにも事情があるのよ。確かにマギーは強力な魔法使いだけど、魔法が強すぎてこっちじゃ上手く制御出来ないよのよ!また船がぐちゃぐちゃになって、取り返しがつかなくなるかもしれないでしょ!?」
「だが今は緊急事態だ。それ以外に方法も思い付かないし、俺の二人の事をちゃんと知らない。だから、何でもいい。手があるなら使って欲しい。俺の為じゃなく、今はこの唯一の生き残りの為に」
小森さんは、どうも召喚獣を出すことに躊躇いがあるようだ。
ディモルンは相棒のように常に出ているが、他の召喚獣はあまり外へ出さない。召喚しないのだ。
これでは、小森さんはただの少女だ。
「分かってるわよ......あんたに言われなくたって!」
小森さんは俺への怒りを露わにしながら、両手を床へ勢いよく叩きつけた。
そんなに怒る?と、始めは少しビビったが、魔法陣が出て来てすぐに驚きへと変わった。
「召喚!出て来て、マギー!!」
小森さんの手のひらを中心に、発光しながらゆっくりと回転する大きな魔法陣。
その上から、小森さんの呼び掛けに応えるように、黒い人型の何かが魔法陣から現れた。
全身に黒い布を纏った、恐ろしい雰囲気を感じさせる人型。
尋常じゃない魔力が溢れだしているのが、俺でも感じ取れる。
只者ではない。
「マギー、風魔法でこの船を動かして欲しいの。出来る?」
「......」
マギーは答えない。
何も言わない。だが、小森さんも高津も焦った様子は無かった。恐らくこれが正常な反応なのだろう。
「うん。大丈夫そう」
「えぇ!?ど、どこが......?」
全く分からなかった。
うんともすんとも言わないのを見て、なぜ出来ると思うのだろうか。
召喚した本人にしか分からないようなサインがあるのか?
でもまぁ、大丈夫なら良いか。
問題は、船の方だったな。
「もし船が壊れるようなら、俺が直す。だがなるべく帆にのみ風を集中させるように指示して欲しい」
「分かったわ」
「俺は何をすればいい?」
高津が、寂しそうな顔で俺に聞いて来た。
まぁ確かに。今の所、これといった目立つような事をしていないな。
魔物やガイレアス教と闘う前提での役割だったが、ガイレアス教はおらず、魔物も既に死んでいた。
何事も無ければそれが一番なのだが、高津にとっては何か役割が欲しいらしい。
「高津は......そうだな。その瀕死の人を頼む。何かあったら、すぐに教えて欲しい」
「了解」
俺と小森さんは甲板へ上がる。
こうして、直接的に協力し合うのは初めてだ。
このたった一人を救う為に、勇者パーティー三人が手を合わせている。
だが、このたった一人も救えないようじゃ勇者とは言えない。
この旅が始まる前に、如月が何気なく言っていた。
『例え可能性が低くても立ち向かう、勇ましい者』。それが勇者だろうと。
その通りだ。
だから俺は立ち向かう。これでも一応、勇者パーティーだからな。
「マギー、あそこに向かって風魔法を放って欲しいの。この船を向こうまで動かしたくて」
マギーと呼ばれた黒い魔法使いは、小森さんの言葉にゆっくり頷いた。
理解しているのか。
言語は分かるが、自分では発せられないといった所だろう。見た感じ明らかに人の形をしているが、人族では無いのだろうか。
「準備はいい?」
「あぁ、頼む」
俺は甲板に両手を当てた。
この船のどこが壊れようと、これで対処出来る。既にボロボロの船だ。もう直し始めなければ、俺の固有魔法のスピードでは回復が間に合わなくなる。
手に魔力を込め、船へと魔法を放つ。
そして散らばっていた船の部品が集まり始めたところで、小森さんが言った。
「マギー、ウィンドブラスト!!」
すると、黒い魔法使いは両手を広げる。
周囲に風が吹き始めたのが分かる。
心地よいくらいのそよ風が、髪を揺らす。
そして後方から吹き込んで来る風は、段々と強くなっていく。
「進めッ!」
小森さんの掛け声と共に、ズバァアンッ!と水飛沫が上がった。
視界が一瞬揺らぎ、衝撃と共に船が前方へとぶっ飛ぶ。
段々と強くなっていたそよ風は、一瞬で暴風へと姿を変えた。
ちょっとだけ、むち打ちになった。
「うおっ!?」
高速で進む船。
まるでジェットでも付けているかのような速さだ。
帆に風を当てている所では無い。
船全体を、無理やり風で押しているのだ。
「うぉぉおおお!!?」
電車の外に張り付いているような気分の中、バキバキッという音が聞こえた。
まずい......!
荒れ狂う暴風に船が耐え切れず、崩壊し始めている。
だが、それを治すのが俺の役割だ。
「間に合うか!?」
全力で固有魔法を発動する。
船の部品は少しづつ本体へ戻り始めるが、それと同時に風で壊されていく。
信じられない程の速さと引き換えに、俺の体力と魔力と船のパーツを大幅に奪っていく風。
頼む......早く着いてくれ!
「うおぉおおお!!!」
直し続けた。
もう、何も考えていない。考えられない。
とにかく直し続け、とにかく魔法を使うことに集中した。
風は俺の周りの甲板を剥がし、帆も破く。
それでも速度が落ちないのは、マギーの風魔法の操作が上手いからだろう。
暴風で閉じてしまっていた眼を無理やり開け、前方を確認する。
「ッ!!」
岩が遠くの方に見えた。
ここからでは少し見えただけだが、衝突する可能性がある。
だが船は、真っ直ぐ進むことしか知らない。
「高津ぅううう!!!前の岩を破壊してくれぇえええ!!」
「任せろォ!!」
必死に叫んだ俺の声を聞きつけ、待ってましたと言わんばかりに高津が飛び出す。
恐らく魔法の詠唱をしたのだろうが、風によって何を言っているのかはハッキリと分からなかった。
ただ、目の前まで接近していた岩が粉々に砕け散った所を見ると、やはり高津を連れて来て正解だったと思った。
「小森さん!!魔法はもういい!陸が見えて来た!」
「え!?何!?」
「陸が見えて来たから、もう魔法は要らない!!」
「何だって!!?」
全然聞こえていない。
高津はよく聞こえたな。
仕方なく、俺は持ち場を離れて小森さんに駆け寄る。
「陸が見えたから風はもう要らない!」
「了解!!」
──────────
風の勢いを落とし、通常の速さで陸地まで航行する。
やっとだ......時間にしても約半日くらいだったか?そう経っていないはずだが、随分と長く感じた。きっと始めのディモルンに捕まっている所が長かったのだろう。帰りは船で帰れ他とは言え、新幹線並みの爆速を出す船と飛行機に掴まれているのとでは、あまり大差無かった。
陸地が近付くにつれて、港に人集りが出来ている事に気付いた。
よく見ると、皆手を振っているようだ。
「見ろよ。俺達、成功させたんだぜ」
「え?」
そうか......俺達に向けて手を振っているのか。
船はまだボロボロで、唯一助けられた人もたった一人。
だがそれでも、皆は待ってくれていた。
早瀬さん、ミッシェル、そして如月の姿も見えた。
「おーい!戻ったぞー!」
船の止め方なんて全く知らないので、出来るだけ速度を落としたのだが......ちょっと乗り上げてしまった。
だがそんな事よりも、船が戻って来たことを市民達は喜んでくれているようだった。
盛大な歓迎を受ける中、まずは助け出せた一人を休める場所へと移した。
「よくやってくれたね。明来君」
「いや、俺よりも小森さんだ。小森さんのディモルンとマギーが居なければ、こんな事出来なかったよ」
「そうだな、野乃は頑張ってくれた。でも明来君もだ。俺が情けないばかりに......皆に無理をさせてしまったね」
「仕方ねぇよ。お前が居ても、やる事は変わらなかった。でも、もっと早くに気付いていれば......もしかしたら、もっと助けられたかもしれない」
俺達が最後に見た如月は、落ち込んでいて、ずっと暗い表情をしていた。
けど今は、もう元気になったようだ。
いつも通りの、優しい笑顔で言った。
「助けられなかった人より、助けられた人の事を考えよう。君達は、素晴らしいことをした。もし明来君が思い付いていなかったらあの人を助けられなかったし......船も戻って来なくて次の大陸へ行けない所だったんだ」
「そう......かな」
「だからって、元気を出せとは言わない。けど、まだ一つ大きな事を成し遂げたと胸を張って欲しい。おそらくこれはガイレアス教のシナリオには無い事だ。ずっと手のひらの上だった俺達が、やっと抗えた。俺はそう思っているよ」
そうだ......そうだな。
確かに、そうかもしれない。
ここでまた悩んでいても仕方がない。
そうやって如月を元気付けていたのに、今度は俺が同じような事になってしまっては意味が無い。
前へ進もう。
「明来君!!」
タッタッタッと大きく手を振りながら走って来たのは、なんと早瀬さんだった。
嬉しそうな表情をさて、俺の目の前で停止する。
「お帰り!やっぱり明来君の予想通りだったね」
「あぁ、良かった」
「ま、私は明来君の事信じてたし、分かってたけどね。凄い勢いで飛び出して行っちゃうし、言うタイミングなんて無かったから言えなかったけど、あの時めっちゃかっこよかったよ!」
「え......?」
「これからも頼りにしてるね」
元気な笑顔を見せてくれる早瀬さん。
俺は今、一番の幸せ者なんじゃないかと思うくらいに、嬉しかった。
少し離れた場所でミッシェルが軽く手を振っているのを視界の端に捉え、俺も手を振り返す。先程の早瀬さんの言葉が、まだ脳内で響き渡っている。
顔に出ていたのか聞こえていたのか、ミッシェルは俺を見て笑った。
ミッシェルの隣では、レナートさんが本当に安心したような表情で胸を撫で下ろしていた。
良かった......一人でも助ける事が出来て。
だがこれで一件落着とも言い難い。
これから船を直して、すぐにまた向こうの大陸へと向かわなければならない。
直すのは、俺も手伝おう。
俺に出来る数少ないことだ。
「すみません!勇者パーティー様......ですよね?」
一般的な服にしては少し固く、だが冒険者という訳でも無さそうな服装の女性が話しかけて来た。
如月のファンか?それにしては、あまり嬉しそうな顔では無い。
「あぁ、受付の......」
「はい。あの、先程ギルドへ連絡が来たのですが......王国騎士だと仰っていました」
「王国騎士が、連絡?」
「はい。現在、ギルドでお待ちしていただいております」
何だろう。
受け付けと如月が言っていたし、この人は受付嬢だったようだ。
王国騎士は、レーヴァン俺達が出発してすぐその後を追ってくれている。
中毒者や、被害者の保護を頼んでいる訳だ。
もう追い付かれてしまったのか......しかし、わざわざ直接会ってまでする話があるのか?
「すぐに向かう」
俺達は、おかえりなさいのムードも置いてすぐにギルドへ向かった。
休んでいる暇は無いことは承知だが、何やら嫌な予感がする。
サナティオの使用者の、症状が悪化したか?
それともサナティオに関する重要な情報でも手に入ったのだろうか。
疲れた体もそのままに、ギルドへ到着した俺達は、待っているという王国騎士の元へと案内された。
「お待ちしておりました」
待っていたのはラッジさんだった。
俺を国まで連行した、王国騎士の一人だ。
何だか久しぶりだな。
当時会った時よりも礼儀正しいのは、相手が俺じゃなく勇者パーティーだからだろう。
俺に対してはもっと無骨な感じだった為、凄く違和感を感じる。
こういう所で、如月という勇者の偉大さを味わうんだよな。
「急いでいる事でしょうし、早速本題から入ります」
「ええ、頼みます」
「エルフ族が、絶滅しました」
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