第18話 盗賊

別れというのは、いつも寂しいものだ。

出会いがあれば別れもある。それは、相手が人族でなくとも変わりない事だ。

朝、起きてからすぐに支度を始める。今日は、この村から出発する日だ。


「おい明来あくる


いつの間にか俺を名前呼びにしていた高津が、開けたドアにもたれて話しかけて来た。


「なに黄昏てんだよ」


俺は、窓の外の美しい景色を眺めていた。

この村は美しい。

俺も森の方に住んではいたが、ここはまた別の匂いがする。雰囲気とか空気とか、そういう話だ。


「ここは綺麗だなと思ってさ」


エルフ達が生き生きとしている。

基本的にエルフ族は大人しい種族だが、こうして集まって村になるとそれはそれで楽しそうに暮らしているようだった。


「もう少しここに居たかったな......」

「そうだな、確かにここは良い所だ。だが思俺達にはやる事があるだろ?さっさと帰るぞ」

「あぁ」


分かっている。

俺は俺の責任を果たすまで、立ち止まる事は出来ないんだ。

全てが終わったらここへ来よう。

今度は、早瀬さんと一緒に。皆でここに来よう。

そんな事を考えるぐらいは、許されても良いんじゃないだろうか。


「もうお帰りになるのですか」


支度を済ませ、泊まらせていただいていた宿を出ると村長さんとエルフ達が待っていた。

皆、寂しそうに見つめている。

多くは高津へ向けてのものだったが、ここに来た時と違って俺にも寂しがってくれる人が出来た。

嬉しい限りだ。

俺だって寂しい。けど、行かなくちゃならないんだ。


「悪ぃな。また来るからよ。その時を楽しみに待っていてくれや」


何となく、エルフはこういう別れをあまり気にしないと思っていた。

エルフの寿命は長い。だから、俺達にとっての数年もエルフにとっては一週間くらいだろうなどと考えていた。

しかし、どうやら実際には俺のイメージと違ったらしい。


「絶対にすぐまた遊びに来てください!」

「待ってます!」

「今度は皆さんで御一緒に来てくださいね」


見た目と実年齢が一致しない為、もしかしたら全員ご高齢なのかもしれないが、まるで子供のように泣く人も居た。

エルフ族は寂しがり屋なのかもしれない。

いや、村で暮らすようになったからだろうか。

何にせよ、そんな悲しそうにされてしまってはこっちまで泣けて来る。

まだ、たった一日過ごしただけだというのに。


「アクルさん」


落ち着いた声。

たった一日だったが、あれだけ一緒になって闘えば誰なのかすぐに分かる。


「シェレミナさん......」

「ありがとうございました。アクルさんが居なかったら、私達はここには居なかったでしょう。アクルさんのお陰で、今日も一日を過ごすことが出来ます」

「そんな......俺の方こそ助けて貰いました。でも、こんな俺でも誰かの役に立てたのなら嬉しいです」


シェレミナさんはニコリと笑う。

優しい笑顔。

そうか、俺はこの笑顔を守ることが出来たのか。

それは......それは、凄く嬉しいことだ。


「絶対にまた来てください」

「ええ、もちろん。あ、そうだ。早瀬さんも、絶対に行くからと言っていましたよ」


そう言えば早瀬さんのことを伝えるのをすっかり忘れていた。

一日だけだったが、早瀬さんがここへ来たがっていた理由が分かった気がする。


「本当ですか!?」

「今回ここへ来れないことをとても残念がっていました。友達......なんですよね?」

「......ミズキは私にとって、人族の初めての友達です」


シェレミナさんは早瀬さんのことを聞いてより一層笑顔になったような気がした。

人族初めての友達......あまり人族と関わる事が無いのだろうか。

割と近くに国があるはずだが......村の外へ出る事は滅多に無いとか......?

それか、出会いはあるが友達にはなれない......とか。そういう事だろうか。


「よろしければ、どんな出会いだったのか聞いても良いですか?」

「はい、もちろんです。勇者パーティーがこの村に来た時、最初我々はとても警戒していたんです。何しろ、ここへエルフ以外が来るのは滅多に無いことですので」


恐らく、その理由はエルフ族が他の種族から嫌われているからだろう。

その話は聞いたことがある。

詳しい理由は分からないが、昔からエルフという種族は他の種族に嫌われていると。

だから近くにある人族の国とも、交易をしないのだと。


「私の固有魔法は、加速させることが出来るって言いましたよね」

「ええ」

「その魔法を目に使っていたんです。相手の動きをゆっくりに見て、正確に矢を当てる......しかし、普通なら止まっているかのように見えるはずがミズキは普通の速度がそれ以上で動いていました」


早瀬さんの固有魔法だ。

高速移動。

高速で動ける魔法と加速させる魔法か。

似ているな。


「ミズキは言っていました。『私の事を追えるのはあなただけ』だって。それから意気投合して、仲良くなりました」


そういう事だったのか。

どうやら早瀬さんは、自分の速度に付いて来れる人が居て嬉しくなってしまったらしい。

俺も加速系の魔法だったら......などと考えてしまう。

いや違う。仲良くなれたのはシェレミナさんの人柄もあるんだ。

固有魔法が似ているからというだけでは無い。


「次は、必ず連れて来ます!」

「はい!楽しみに待ってます!」


俺達は、最後に神樹様にお祈りを捧げた。

この旅の行く末......無事に全てを解決したいと願う。

そして、森をめちゃくちゃにしてしまったことに深くお詫びをした。


「また来ます」


大勢のエルフに見送られながら、俺達は村を出る。

人族の国を出る時も見送られていたが、ここの方が随分と温かさを感じた。

それは勇者パーティーとしてではなく、高津と明来という二人の人間として見送ってくれているからだろう。


「ありがとうございました!!」

「とても楽しかったです!!」

「待ってますから!!」


とても嬉しい声を背中に受け、俺達はシルトゥスを出た。

しばらく歩いて森を抜けると、馬車が待っていてくれた。

予定通りだ。このまま職務放棄されていたらどうしようかと心配していた所だ。

何せあの国は色々とやる事が雑だからな。

まぁその話はいいか。


「コプティラ王国まで戻るぞ。なんちゃらパイがどうなったのか全く分からないし」

「ペラムパイな」

「オーラッサまで一足先に行った如月と小森も、どうなったのか分からねぇ」

「そうだな。早く帰らないとな」


楽しんだみたいで凄く申し訳ない気持ちになった。

いや、ウルザバンには苦しめられたし目的も果たせた。

成果こそ無かったが、新たな目的地も分かった事だし、ここに来た意味はあった。


「そうだお前、何かサナティオに関しての情報は分かったのか?」

「え?」


そう言えばこいつ、サナティオに関して何にも行動してなかったな。

一緒に説明はしたが、結果を聞いたのは俺だけだ。

そして今更になって、思い出したかのように俺に聞いて来た。高津......お前、勇者パーティーとしての自覚はあるのか?


「いや、お前が何か色々聞いてたみたいだからよ。任せていいかなって」

「いい訳ねぇだろ。自分だけエルフとイチャつきやがって......ちゃんと仕事しろ」


少し腹立ったので、強めに言ってみた。

前ならブチ切れて拳が飛んで来てもおかしくは無かったが、認められた今はどうだろうか。


「......すまん」


これは驚いた。

素直に謝るとはな。てっきり、謝るのが苦手なやつだと思っていた。

まぁ、頭を使うのは比較的苦手そうだし、情報を知ってもすぐに忘れそうだもんな。

いいよ高津。お前は目の前の事だけに集中してくれ。

勇者パーティーにはそれぞれ役割がある。

高津は戦闘、俺は雑用でいい。

適材適所ってやつだな。


「いや、俺も考えを改めたよ。で、結果は情報無し。エルフでもサナティオの正体は分からなかった」

「なに!?じゃあどうすんだ!?」

「代わりにもっと情報が手に入る場所を教えてもらった。パーンヴィヴリオって言う魔法の大図書館らしい」

「はーん......聞いた事あるな」

「だよな。全然知らない......なに?」


今、聞いた事あるって言ったか?


「知ってるのか?」

「あぁ。ま、名前を聞いた事があるってだけだけど」


何だよ。

......まぁいいか。どうせ行くつもりだ。

パーンヴィヴリオなら、もしかしたらサナティオの情報が載っているかもしれない。

サナティオがどんな植物なのか、正体を知ることが出来れば対策する事も可能かもしれない。

自分達で調べるという方法もある。というか、新種ならそうするしかない。

だが、今は一つ一つ丁寧に研究している時間も労力も無い。

情報があるなら、それを直接取る方が早い。


「次の目的地は、恐らくこの図書館になりそうだな」


パーンヴィヴリオ。

一体どんな図書館なのだろうか。




──────────




行きよりも、帰りの道の方が何故か早く感じるものだ。

それが何故なのか俺は分からない。

その現象はこの世界でも同様に起こった。

シェレミナさん曰く、パーンヴィヴリオはこの世界の全ての事が分かるそうだ。

なら、この帰り道の方が早く感じる現象の事も分かったりするのだろうか。


「はぁ......向こうは空気が上手いと感じたけど、別にこっちに来ても空気が不味いなんて思わないよな」

「確かにな。俺はどっちも思わなかったけど」


国に入る所まで馬車で送って貰った。

朝早かったはずが、もうすっかり昼前だ。

さて、二人が何処に居るのか分からないし、取り敢えず前に集合した場所まで歩いてみる事にした。噴水の所だったか。


「エルフの村、行ってよかったな。初めて狩りを見ることが出来たし、料理も味わわせて貰った」


本当に良い場所だった。

やはり人族以外の種族と会うと、異世界に来たって感じがする。

森に住んでいるってのも、ファンタジーな感じだ。


「エルフって釣りするんだな。何か、意外だったよ」


印象に無いってだけで、現実的に考えれば釣りくらいしてもおかしくは無いか。

そもそもエルフに現実的というのが、変な話だと思うが。


「あぁ、教えたからな」

「え?」

「......覚えてるか?アイツのこと」


高津が話し始める。

もうすっかり慣れたものだ。あの時の気まずさは一体何だったのだろうかと思う程に。


「アイツ?」

「あの眼鏡の......偉そうなやつだ」


偉そうなのはお前もそうだろう。

しかし誰の事を言っているのか......眼鏡という事はこの世界の人では無いだろうな。

眼鏡が存在しない訳では無いが、一般的に定着している訳では無い。

眼鏡という特徴だけで結構絞られるものだ。

偉そうな奴......眼鏡......か。


「あぁ、もしかして守山もりやまの事か?」

「そう。そいつだ」


守山もりやま一保かずほ

俺達のクラスメイトで、眼鏡男子だ。

ただ、それを聞いてもやっぱり偉そうなイメージは湧かない。

守山と言えば、雑学大好きな物知り眼鏡という印象しか無いな。

あぁそれでか。よく他人がする事に口を出したり、聞いても無いのに豆知識を教えて来ていた。俺はそれを面白いと思っていたが、高津にとっては鬱陶しかったのだろう。

偉そうに物事を語るやつだと思われても、仕方がない。


「でも守山の話なら、寧ろ────」

「そうだ。この世界に初めて転移して来た時、アイツが言った事だ」


『この世界を変えてはいけない』

今までの雑学のひけらかしとは違う。

守山の、本気の言葉だった。

世の中にはそれぞれの生態系がある。

それはこの世界でもそうだ。そんな中に突然、他所から俺達がやって来た。

外来種のようなものだ。

俺達が関われば、その生態系が崩れてしまうかもしれないと言っていた。


「例えば、俺達はこの世界よりも進んだ時代を生きている。その進歩した技術を教える事は簡単だ。だが、それはこの世界が進歩したとは言えない......ってやつだな」


教えるのではなく学ばせる。

自分達で成長しなければ、何もかもこちらが教えてしまっては何も成長しない。

そうなれば、世界は衰退すると。そんなような事を言っていた。

難しい話だ。

だが分からなくもない。

失敗があるから成功がある。

もし俺達がこの世界に関わった事で、壊してしまったとしたら。その時に俺達は責任を取れるのだろうか。


「エルフの釣りも、俺達が教えたんだぜ」

「なに?」

「大丈夫だ。俺達はただヒントを出しただけ。それに釣りなんてものはこの世界に元々存在する訳だしな。少し便利にしただけだ」

「......そうか」


そんな調子で、出来るだけ影響を与えないように生きている。

なぜそんな面倒な事をするのか。それは気持ちの問題だ。


「アイツが言ってた事、まだ今でも正しいのか分からないな」

「......あぁ」


彼は死んだ。

守山は、知識は豊富だしこの世界にいち早く適応していた。

だが、向こうの世界での知識はあまり役に立たなかった。無駄に知識を持っているせいで、危険度を見誤ったのだ。

その結果、転移者の中で最初の死亡者となった。

この世界では、人類が食物連鎖の頂点では無い。

ここで言う人類というのは、『人』が付く全ての種族という意味だ。

この世界では『人間』という言葉は存在しない。

だから、俺達は一般的には『人族』と呼ばれている。

人類とは、知性を持つ人型の種族を総称して言うのだ。つまりエルフ族、獣人族も、人類だ。


「きっと正しいさ。だって、この世界はこんなにも美しい」

「そうだな。それを俺達で汚しちゃ悪いもんな」


俺達が関与してはいけないのは、どうやら知識方面らしい。

例え魔王を倒したとしても、パワーバランスが崩れるという事が無いのだろう。寧ろパワーバランスが悪いからこそ、俺達が召喚されて魔王を打ち倒す事になったのかもしれない。

魔王を倒す為に召喚された勇者。

ならば、それ以上の事をしてはいけない。

如月達もそういう風に決めたようだった。

彼の意志を継いで、出来るだけこの世界を変えないように心掛けているらしい。


「ちゃんと考えてたんだな」

「当たり前だ。勇者パーティーだぞ」


そうは言いつつも、どこか誇らしげな高津だった。

こういう所は可愛げがあるんだけどな。

どうも当たりが強かったり、口が悪かったり態度が悪かったり......早瀬さん達も最初の方は苦労しただろう。


「見えて来たな」


噴水だ。

昼前だと言うのに、この辺にも俺達が歩いて来た道にも人が少ないな。

一昨日は、ペラムパイの影響で人が多かったのだろう。この町は、普段はこんな感じなのか。


「あ!アクルぅ!!!」

「ミッシェル!」


可愛らしい獣人の娘が、両手を広げながら噴水の近くから走って来た。

俺も両手を広げて迎えると、そのまま勢いよく抱きついてきた。

まるで犬のようだ。ミッシェルは猫だけど。

久しぶりに会えたのが相当嬉しかったのか、中々に熱烈なハグをしてくれるじゃないか。

珍しいな、こんなに大胆な行動は。そんなに寂しかったのだろうか。


「にゃっはぁー、元気だったかアクルぅ!」

「おう!うぐっ、ミッシェルも......元気過ぎて何よりだな」


少し見ない間に幼くなってしまったな。まぁそんな訳無いが。おそらくエルフを見て来たからだろう。

エルフ族に比べると、ミッシェルは幼く見える。エルフ族も、見た目は若いが中身は大人だったという事だろう。


「ん?」


おや?早瀬さんの姿が見えない。

ここで二人で、屋台のおじさんの見張りをしてもらっていたはずだが。

ここにはミッシェルしか居ない。


「早瀬さんは?」

「まだ見張ってる。実は、未だに動きが無くてな。ずっと『ただのオッサンをガン見してる美少女二人』だぜ」


そりゃいけない。

必要なのは『美少女二人』って所だけだ。

早くオッサン要素を取り除きたいものだな。


「なら俺達も合流しよう。このまま張り込み続けても仕方ないし、最終手段として尋問というのもある」


ここで時間を浪費し続ければ、その分サナティオが広がるだけだ。

動かないのなら動かせばいい。

あまり手荒な真似はしなく無いが......もう既に汚れた手だ。泥を被るくらい、俺一人でも十分だ。


「早瀬さんと合流しよう」


ミッシェルに、早瀬さんの張り込みしている場所へとこっそり案内してもらった。

屋台のおじさんは、屋台があった場所から結構離れた場所に居るようだった。

昨日と今日はもう屋台をやっていないようで、ずっと町をぶらついているだけらしい。

満足する程金が貯まったのか、ペラムパイの在庫が切れたのか......どちらにしろ雇主と合流するはずだ。

例え雇われた訳ではなく、仲間だったとしても構わない。まさか、一人でこの商売をやっている訳では無いだろう。サナティオの入手先に繋がれば何でも良い。

ミッシェルに連れられて、ボロい建物の中にはいる。どうやらここが張り込み先のようだ。

中に入って三階にまで上がると、美しい少女の姿があった。


「早瀬さん」

「うわっ!明来君と豪一君!?おかえり!寂しかったよぉ」


早瀬さんは相変わらず元気だった。

パンを片手に、窓から外を眺めていた。

昭和の刑事ドラマか。

その笑顔が見れるだけで、俺も疲れが吹き飛んでしまったよ。


「シルトゥスはどうだった?」

「とても良い村だったよ。けど、成果は......実は何も分からなかったんだ。ごめん」


俺は、フラディアさんとの話以外は全て隠すことなく伝えた。

早瀬さんもミッシェルも、残念そうな顔をするもすぐにまた笑いかけてくれた。


「謝らないで。別に全てを掛けてたって訳じゃないでしょ?まだまだ他にやれることもあるし、そんな事で挫けてちゃ駄目だよ」

「そうだぜ。むしろ、結果だけ見ればただ遊びに行っただけって事を恥じた方が良いな」


にゃははと笑うミッシェル。

俺が早瀬さんに謝りたかったのはまさにそこなんだが、先に言われてしまったせいで冗談っぽく言えなくなってしまった。


「......ごめん」


そんな訳で、お互いに何も成果が無いまま張り込み継続中だ。

誰も住んでない建物の三階から、誰も通らないような薄暗くて狭い通路にいるおじさんを見張っている。ファンタジーでは定番の、あの狭い通路だ。女の子の悲鳴が聞こえると、だいたいこういう場所で絡まれているものだ。

屋台のおじさんは、二人のおっさんと喋っている。知り合いのようだが、特に秘密の会話という訳でもないようで、しょうもなさそうな話でゲラゲラ笑っている。


「朝からずっとこんな調子で、人目につかない場所を選んで動いてるみたいなんだよね。あ、別れた」


話を終えたようで、二人のおっさんは別れて行った。残ったのは屋台のおじさんだけだ。

そこからまた暫く、何も起こらなかった。

そろそろ問い詰めてやろうかと考えていた頃、おじさんの元に人が現れた。

先程の二人とは違う。誰だ?

顔がよく見えな──────


「あ」


忘れもしない。

モヒカン頭とハゲ頭、そして角刈りの三人組。

ミッシェルを襲い、ボロスディアの頭を奪った盗賊だ。

あいつらは俺達の仇であり、俺が一番有力だと思っているサナティオを広めた犯人候補だ。

三人の盗賊はそれぞれ武器を持っているし、辺りを軽く警戒しているようだ。

つまり、これから人に聞かれたくないような話を始めるつもりなのだろう。


「ミッシェ「皆、どうか手を出さないで欲しい」

「......?」

「あ?何言って──────」


俺達は気付いた。

ミッシェルの表情が、とても冷たいものになっている事に。

目を見開き、瞳孔も大きく開いている。

そこに笑顔は全く無く、目の前の事にしか集中していない。

本気の目だ。


「......分かった。だが無理はしないでくれ、一人傭兵が混じってたんだろ?」

「安心しろ。殺しはしない」


俺の声も脳まで届かず、耳を通過して行っている。

心ここに在らずと言ったところだ。


「行ってこいミッシェル」


バリンッと、豪快に窓を突き破って外に出るミッシェル。

何度も言うが、ここは三階だ。しかしそんな事は気にしていないようで、猫のように着地した。

振り向くおじさんと三人の盗賊。

だが、振り向き終える前にミッシェルは一人を仕留めた。

どこをどうしたのか分からない。だが、いつの間にかモヒカン頭が倒れ始めたのだ。倒れ方から見るに、おそらく顔面を殴られた。

なんという速さだ。

俺の目には、早瀬さんもミッシェルも大差ない程のスピード。

一緒に狩りをしていた頃とは比べ物にならないくらい強い。

そのまま二人目に向かうミッシェル。

ハゲ頭も攻撃を出すより速くミッシェルのパンチが腹に命中する。

そして三人目の角刈りは、攻撃を躱してそのまま顔面にカウンターパンチ。

瞬殺だ。殺してはいないが。

この間、およそ三秒程だろう。

一瞬にして三人を気絶させてしまった。

「ひぃっ!」と言って逃げようとするおじさんもついでに捕え、ミッシェルは戦闘を終えた。


「スッキリしたか?」

「いいや。でも、少しくらいは」


にゃはは......と、元気無さげに苦笑いするミッシェル。

だが、お陰で捕らえる事が出来た。

本当に強くなったな、ミッシェル。いや、元々の強さに戻ったのか。

これがミッシェルの本来の強さ。

よく今まで、俺に付き合ってくれていたものだ。


「さて......ここからは結局、尋問するしかないという事だな」


遂に......遂に見つけた。

こいつらが村を襲い、サナティオを盗んで栽培し、世界中にバラ撒いている犯人だと俺は見ていた。

こんな所にまで来ていたとは......だがやっと追い付いたな。

これで、全てが終わる。

終わりへと近付く事が出来る。

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