第16話 エルフ族の狩り

俺は、再びフラディアさんの所へ訪ねに来た。


「あら、どうかなさいましたか?まだサナティオの特定は......」

「すみません。少し、言い忘れていた事がありまして」


俺だってずっとこのままではいけないと思っている。

だから、覚悟を決めた。

話す覚悟を。


「これは、絶対に高津......いや、勇者パーティーには内緒にしていて欲しい話です」

「え......?」

「あの実は、俺の家の庭で発見しました」

「......はい?」


フラディアさんに、全てを話す。

ここで情報を隠していてもサナティオは見つからない。

だが勇者パーティーにはまだ内緒にしていて欲しい。

まだ、俺はここで終わる訳にはいかないのだ。


「レーヴァン王国の更に北に位置する辺境の地。

やや丘になっている場所の上に家があります。サナティオは、その家の庭で見つけました」

「......」


俺は、ほぼ全ての事を話した。

どうやって見つけたのか、どうやって育てたのか。

そして、どうやって広まってしまったのか。村が襲われ、盗賊によって奪われてしまったという事実を話した。


「これが、俺が隠していた事です。黙っていてすみませんでした」

「......なぜ、タカツ様に内緒にしているのですか?」

「それは......俺はまだ止まる訳にはいかないからです。勇者パーティーに知られれば、俺が原因だとして捕まってしまう。そうなれば、俺はもう関われない。出来るなら、俺がこの手でサナティオをどうにかしたい......どうにかしようとしているんです」

「話を聞いた限りでは、百パーセントあなたが悪いとは言えません。ですが確かに、原因の一つである事は間違いありません。その責任を取りたいと......そういうことですね」

「我儘だとは分かっているんです。ですが、どうかお願いします。全て終わったら必ず、俺の知っている限りを全員に話します。だから、どうかそれまで......お願いします。共犯者にはしません」


フラディアさんは、真剣な眼差しでこちらを見ていた。

だが俺も負けじと、目を離さなかった。

俺も真剣だったからだ。

本気で挑んでいるからだ。


「......分かりました。私にも協力させてください。全てが解決するのであれば、何だってやります」

「良いのですか......?」

「その代わり、必ず終わらせてください。私......いや、私達の望みはそれだけですから」


あぁ......終わらせてみせる。

この手であのサナティオの苦しみから、全ての者を助ける。

そうする事でしか俺の罪は償えないのだ。

元はと言えば、俺が村へ持って行ったのが原因だ。偶然とは言え盗賊に襲われ、サナティオを奪われて利用されてしまった。

奴らの本当の目的も、奴らの正体すらも分からない。もしかしたら、盗賊ですら無いのかもしれない。

だが、俺がサナティオを見つけたから始まってしまった事だ。

俺が責任を取って、全てを終わらせる。


「本当に......ありがとうございます」

「それらの情報を踏まえて、似ている植物を探してみます」

「お願いします」


これで俺のやれる事は無くなった。

後は結果を待つだけだ。

こんな俺に付き合ってくれるフラディアさんは、本当に女神様のようだった。


フラディアさんの小屋を出ると、近くで高津が他のエルフと話していた。

俺を待っていてくれてるのか?

驚いたな......二人きりになってからというもの、やけに優しい部分が見える。

少し気味が悪い。


「待たせたな」

「待ってない」


ツンデレなのか?


「あいつらはもう先に行っちまったぞ。すぐそこにある湖だから、早く行くぞ。付いて来い」


......ツンデレなのか?

行くぞと言われて来たのはいいが、着いたのはまだ村の中だった。

神樹様と呼ばれる大木の前。狩りに行くと言っていたエルフ達も、そこに居た。

神樹様の前で屈み、両手を合わせて握っている。


「何してるんだ?」

「お祈りだ。エルフ達は、狩りの前に必ずここで神木に祈るんだ」

「無事を祈ってるのか」

「違う。森のものを頂きますと、感謝してるんだとさ」


なるほど、感謝か。

俺達が食事をする前にいただきますと言っているのを、狩りの前にしているという事らしい。

例に倣って、俺達も両手を合わせて目を瞑った。

郷に入っては郷に従えという事だ。


「そして無事でもありますように」


これは、神樹様では無く俺の中の神様に祈った。どんな神でも良い。なんなら、神ですら無くてもいい。

とにかく、今度は今度は大怪我をしなくても済むように。願った。



──────────



シルトゥスの近くには湖があるそうで、森で囲まれた場所ではオアシスのように他の動物も群がる。

結構巨大な湖らしく、それによって森の中で生態系が上手く形成されているようだ。


「ここら辺はミディアムテリトリーだ。下級の魔物もいるが、基本的には中級の動物が多いと思っていい」

「分かった」


湖に着くと、エルフ達は釣りを始めた。

あまり見ない光景だ。

エルフと言えば、イメージするのは魔法や弓などの飛び道具だったり、自然と共に生きる姿だが。

まぁ、釣りぐらいしてもおかしくは無いか。


「ふぅ......」


釣りをしているエルフを眺めるだけの事が面白いはずもなく、しばらく何も無いまま時間は過ぎて行く。そのまま草むらの中で寝そべってみた。

良い天気だ。

こうして大自然に囲まれながら寝転がるのは、とても気持ちの良いものだな。

思えば、こうしてゆっくりするのは久しぶりかもしれない。


「おぉ......」


チチチ、と鳴きながら近くまで鳥が寄って来てくれた。

チミライミという鳥だ。

湖の水を飲みに来たのだろう。サイズは燕ぐらいで、体より大きな尾を持つ。

警戒心が強い動物で、どこの森にも大体いるが、こんなに近くで見る事が出来るのは相当珍しい事だ。

エルフの森なだけあって、人型への慣れというものでもあるのだろうか。


「......おい」

「何だよ」


また話しかけて来る高津。

俺の横に、当たり前のように寝そべっていた。

こいつマジで何なんだよ。一体何がしたいんだ。


「俺は───────」


高津の声を遮るように、ズシン、ズシンと大きな音がした。

地面が揺れる。だが地震では無い。

驚いて飛び起きると、近くまで大型の動物が来ていた。

猪のような見た目で、体長はボロスディア程では無いが車より少し大きいぐらいだ。


「フォスタボレだな」

「ホス......え?」

「フォスタボレだ。中級の動物」


ほぇー......高津から初めて有益な情報を聞いた気がする。

フォスタボレか、覚えておこう。

ここまで近く動物が居るのに、全く襲って来ない。

猪の見た目の割に、結構温厚な性格なのだろうか。


「ん......お二人ともお気をつけください」

「え?」


急にエルフがそう言った。

釣りを‪止め、警戒する姿勢を見せる。

何だ?何かあるのか?

疑問に思っていると、段々と大きくなっていく音があるのに気づいた。

チミライミ達が一斉に飛び去る。

そして、ドドンドドンと馬が走るような力強い音がこちらへと近付いて来た。


「ブオオォオオオオ!!!」

「うわぁああ!!?」


複数のフォスタボレが、遠くから凄い勢いで走って来ていた。

草も木も関係ない。全てをなぎ倒して、真っ直ぐ突き進んで来る。

猪突猛進。

まさにその言葉通りの光景だ。


「逃げろ!!」

「早く行け!荷物なんか置いてけ!」

「急げ急げ!!」


全員でその場を離れる中、ただ一人高津だけが落ち着いているように見えた。

高津だけ走りもせず、ゆっくり歩いている。

しかも、フォスタボレの向かってくる方へ。


「高津!?お前何やって......」


フォスタボレの群れの内一頭が、真っ先に高津目掛けて走って来た。

もう駄目だ。間に合わない。


「悪い。少し痛いかもな」


高津はフォスタボレ達に向けてそう言うと、姿勢を落として右腕を引いた。

まさか......そう思ったのも束の間。

フォスタボレの頭に、右ストレートをぶちかました。

高津は右手の拳を突き立てた状態で少し地面を抉りながら押されたが、フォスタボレの勢いは止まり、そのまま横へと倒れた。

......驚いた。

まさか正面から一撃で止めてしまうなんて。

それを見た後ろの大群は、高津と俺達を避けてチリジリに逃げて行く。


「うぉおお!!流石はタカツ様だ!」

「ありがとうございます!!」


勇者パーティーの名の通り、高津も充分に実力者だ。

中級くらい余裕で仕留められるのだろう。

倒れたフォスタボレは気絶しただけのようたが、こいつも食うのだろうか。


「フォスタボレが、こんな群れで生活するような事はありません」

「妙ですね......」


何かあったに違いない......か。

向こうから、まるで逃げて来たかのような感じで走って来ていた。


「......ん?」


ズシンズシンと、重たい足音が聞こえる。

フォスタボレの最後尾から追いかけるように付いて来た。その人型の影は、人間やエルフよりもずっと大きかった。

こいつが......フォスタボレが恐れていた生物か。

俺達が視界に入ると、威嚇するように吠える生物。見た目は熊に近いが、フォスタボレに負けない程の大きさをしていた。

そんなのが立ち上がれば、それこそ巨人のように大きい。

この世界はデカい奴ばっかだな。


「ウルザバン......何故こんな所に......?」


どうやらウルザバンという名前の熊らしい。

しかしエルフ達が驚いているのが少し気にかかる。

もしや、ここにいちゃいけないような動物なのだろうか。


「ウルザバンは、上級の動物です」

「何!?」


ここはミディアムテリトリーのはずだ。

確かに、テリトリー事に仕切りでも付いているという訳じゃない。だが、別のテリトリーの動物や魔物が入って来る事など滅多に無い。

しかも───────


「二体......か」


ウルザバンは二体居た。

そりゃあ逃げるよな。上級なんて一体でも恐ろしいのに、二体も居ちゃ敵うわけが無い。

ウルザバンは歯を剥き出しにして、こちらを威嚇して来る。

狩りの邪魔だと言いたいのだろう。

気持ちは分かるが、あんまり暴れて貰われては困る。

テリトリー違いの動物が紛れるという事は、パワーバランスが崩れるという事。

その場所での生態系が成り立たなくなるのだ。

だから、発見次第討伐するようギルドから依頼されていたりする


「我々でも、あまり闘った事がなく......倒せるかどうか」

「だが、やるしかない......か」


もう逃げることは出来ないだろう。

エルフ達も闘う気だ。

それに、何よりこちらには勇者パーティーの高津がいる。

言ってしまえば、俺も勇者パーティーだ。

何とかして見せる。


「おい、お前はエルフ達と向こうをやれ。こっちは俺が片付ける」

「......分かった」


高津は、一体を一人で相手するようだ。

まぁ高津なら大丈夫だろう。

問題は俺だ。全く知らない動物に対して、どれだけやれるか......。


「怖いですか?震えていますよ」

「え?」


ウルザバンと対峙する俺に、エルフの一人が話しかけてくれた。

確か、初めて会った時に俺が年齢を聞いた人だ。


「震えて......ますね。自分でも気付きませんでした」

「大丈夫です。我々だって、いつもやっている狩りですら恐ろしくて堪らない。それでも、明日を生きる為には闘わなくてはいけないんです」


......そうだな。

それが、狩りというものだ。

何かを殺して、命を頂くというのに。

楽をして生きようとすること自体、間違っているのだ。


「やりましょう。手伝ってくださいますか?」

「勿論です。俺、これでも勇者パーティーですので」


改めて、ウルザバンと対峙する。

これから俺は、闘うのでは無い。狩りをするのだ。

今までの俺とは違う。

成長を見せる時だ。



──────────



思えば、エルフ族の闘いというのを見た事が無かった。

今回の戦闘員は五人で、男女二人が槍、また二人の男女で杖で、残りの女性一人が弓という編成だ。勿論、俺は剣と盾。

普通、パーティーは前衛と後衛に別れて一人がサポートというのが多い。しかしエルフのパーティーは遠距離が多めのようだ。魔法が得意だというエルフ族にはそれが最適だったのだろう。

しかし前衛が槍という事もあり、盾役が居ない。

そこをどう補っているのかが腕の見せ所となる。


「はァッ!!」

「せいっ!!」


まずは槍二人が、距離を詰めて攻撃する。

槍の先端がギリギリ届く距離。一人が回り込み、前後から挟み撃ちの形となる。

こういう巨体の動物は、決まって小回りが利かない。だが熊なだけあって、二足歩行状態で人のように動き回る。

そこを、魔法士が強力な魔法で追撃する。


「ウッドバインド!」

「アイシクルスティンガー!!」


地面を樹の根が這い、ウルザバンの脚に絡み付く。

動きを止めた所で氷のつららが上から襲いかかった。だが硬い皮膚によって、つららは防がれてしまう。

樹の根も爪で切り裂かれ、再び動き出す。

まるでノーダメージだった。


「硬い......!」


だが、傷は付いているようだ。

サイのように皮膚が装甲みたく硬い訳じゃない。ヴァリアレプスも硬かったが、あれは毛が丈夫過ぎた結果だ。

だが今回は傷が付いている。それにこの身体を捻ったり、人のような動きから予測するに皮膚は分厚くて柔軟性があると見える。

例えるなら、ラーテルのような。


「もう一度!もう一度全方向から攻撃を仕掛けてください!」

「分かった!」


エルフ達は俺の指示通り、先程と同じ攻撃をする。

勿論、攻撃は防がれてしまうのだが、お陰で確信を持てた。

やはり......ウルザバンの弱点は腹部だ。

身を守る際に、腕で前方を守って丸くなるようにして背中で攻撃を防いだ。

それこそマングースと同じように、背中の皮だけが分厚いようだ。

背中で防御するのは生物の基本。わざわざ守りにくい場所を弱点にするような奴はいない。

だがボロスディアと違ってウルザバンは二足歩行の為、小回りが利く。それに長い腕と爪で、リーチもある。

何とかして懐に入り込まなくては、倒せない。

俺達は、ウルザバンの攻撃を躱しながら作戦を立てる。

攻撃自体は大ぶりの為、回避することはそう難しくない。ただ、一撃でも当たれば即死も有り得る。


「恐らく弱点は腹部です!腹部の皮なら、背中に比べて薄いはず。斬撃より刺突......一点集中で貫通力の高い攻撃方法でいきましょう!」

「了解!」

「任せてください!」


もう一度挟み撃ちにする。

正面から槍と魔法で防御姿勢を取らせ、その隙に俺が背中から首に乗り上げる。

ここまで近づけさえすれば、もうこっちのものだ。頭を狙って剣を突き刺そうとするが、勿論ウルザバンも抵抗する。両腕の爪で肩車させている俺に反撃して来た。

だが、本命はその両手を上げさせる事。

少し爪が刺さったが、俺はいくらでも回復出来るから問題ない。


「シャイニングアロー」


防御姿勢を解いたウルザバンの腹に何かが当たった。

見ると、光の矢が腹部に刺さっていた。

一瞬、何が飛んだのか分からなかった。

なんという速度......まるで銃弾のような速さの矢だ。

そして次の瞬間、辺りは光に包まれた。

高威力の魔法。なるほど......槍と魔法で牽制し、弓矢でとどめを刺すという戦法か。

俺もギリギリ脱出し、既に回復を開始している。これぐらいなら、すぐに完治出来そうだ。


「......なっ!?」


煙が引くと、未だに立っている影があった。

倒せていない。

腹部は流石に焦げたような痕が残ってはいるが、そんなんじゃ死なないと言わんばかりに吼えるウルザバン。熊も吼えるんだな。

やたらタフな奴だ。確実にダメージは入っているようだが、倒し切るには至らなかった。

思っていたより皮膚はずっと分厚く、表面を傷付ける程度が限界で致命傷にはならない。

流石上級......こんな簡単な作戦じゃ倒せないってか。


「効いてはいる!今のを繰り返します!」

「了解!」


流石に、全く同じ作戦が通用するとは思えない。その証拠として、背後に回ろうとする俺達に強い警戒を示した。

当たり前だ。同じ手段が二度通用するようなら、上級動物なんてやっていない。

ウルザバンは、先程までと同様に爪でエルフに向かって攻撃を仕掛けて来た。

あの距離なら避けられる。

そう思ったが、すぐに俺の勘が働いた。

何となく、ただ何となくだ。

大した回避運動もせずに避けられるような距離から、ウルザバンが攻撃を出すとは思えなかった。


「──────ッ!!」


魔力を使った斬撃。

赤と黒の魔力が、ウルザバンの爪から伸びていた。


「ぐぅっ」


咄嗟に盾と剣でカバーする。

珍しく俺では無く、別の人が狙われた。勇者パーティーに居た時には滅多に無かった事だったもので、少し反応が遅れた。

だが、ギリギリ間に合った。

盾も剣もボロボロになってしまったが、助けられたのなら良かった。


「アクルさん!?」

「俺は大丈夫!早く距離を取って!」


リーチが長く、高威力の爪攻撃。これが、ウルザバンの魔力を使った技か。

貫通力、速度に優れ、尚且つ飛び道具の魔法を使って来たヴァリアレプスに比べれば、幾分かマシだ。

だが、それでも脅威である事には変わりない。

それに、ヴァリアレプスは攻撃の際に前足を上げるモーションがあった。

しかしウルザバンの場合は常に構えを取っているような姿勢の為、攻撃までの動作が少ない。

そして攻撃も薙ぎ払い。横範囲に優れた攻撃のせいで、人数で押すことも難しい。


「どうしたものか......」


矢の攻撃では、一撃で倒し切れなかった。

なら、もう一撃......それも他の魔法と合わせて攻撃すれば、流石にあの分厚い皮も貫通するのでは無いだろうか。

だがその為には、動きを止めなくてはならない。

同じ場所を、最大火力で攻撃する。

それが俺達の勝利条件だ。


「アクルさん......でしたよね?」

「ええ。合ってます」

「タカツ様が、あなたの事を作戦係だと仰っていました」


作戦係ぃ?参謀と言いたいのだろうか。

それは、奴なりの皮肉なのか......それとも素直に褒めているのか。

どちらにしろ、確かに今の俺は参謀のポジションだと言えてしまうだろう。それが適任かどうかは置いておいてだが。


「我々が気を引くので、その間に何か作戦を!」

「りょ、了解!」


槍と魔法士の人達が、ウルザバンのヘイトを買ってくれた。

頼まれてしまったからには仕方ない。

エルフ達は、俺の事を頼ってくれているのだ。

それは嬉しくして仕方のないことだが、今はこいつを倒すことが優先だ。

いつまでも逃げ回っている訳にもいかない。

何とかして致命傷を与えられなければ、殺る前に殺られてしまう。


「私の固有魔法はどうでしょうか」


弓使いのエルフの人が、そう言った。


「えと......」

「シェレミナです」


シェレミナ?

どこかで聞いた事あるような......


「あぁ!早瀬さんの!」

「ハヤセ......って、ミズキの事ですか!?」


この人が早瀬さんの友達か。

よろしく伝えておいて欲しいと言われたが、この闘いで生き残ってからだ。

それよりも固有魔法と言っていたな?


「早瀬さんの事は後で、先程固有魔法と言いましたよね?」

「はい!私は、自身と自身の触れたものを少しの時間だけ加速させる事が出来るんです」


加速......ということは、さっき放っていた矢が超高速で飛んで行ったのは固有魔法だったのか。

矢にはずっと触れている訳では無いし、それを見る限り触れていなくても少しは持続するようだ。


「......なるほど、とても良い能力ですね。俺の固有魔法とも相性抜群です」

「固有魔法をお持ちなのですね」

「ええ。俺の魔法は物の時間を巻き戻す......つまり、壊れた物などを元通りにする能力です。ただ、時間がかかってしまうのが欠点だったのですがどうやら解決しそうですね」


俺とシェレミナさんの魔法が合わされば、欠点の無い最強の魔法になる。それを上手くりようして、何とかウルザバンの動きを止める事は出来ないだろうか。


「作戦はどうですか!?」

「何とかなりそうです!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


と、シェレミナさんは焦ったように俺を止めた。


「私の魔法は、まだ人に使った事ないんです。物や植物でしか......」

「なら、今回で初めてですね」

「き、危険です!」

「大丈夫です。俺なら回復出来ますので」


それこそ、体がどうなってしまっても巻き戻せば良い。

全て元通りだ。


「俺だって、思いついたのは確実に成功するとは言い切れないような作戦です。でも、これしか思い付かない......やってみなくちゃ、分からないんです」

「......」


シェレミナさんは、この今の状況を見て決心してくれたようで「分かりました」と強く頷いた。

ありがとうございます。

俺の無理に付き合わせてしまって、申し訳無い。


「それで、私は何をすれば良いのですか?」

「この森には申し訳無いのですが、巨大な木を探して欲しいです」

「巨大な木?」

「そうです。ウルザバンでも簡単には壊せないくらいの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る