第15話 エルフの村、シルトゥス

「それじゃ、皆それぞれ頑張ろう!」


翌日。

朝早くから、俺達は各々の役割を確認していた。ミッシェルには、昨日解散した後に一度話をしに行っている。

勇者パーティーは目立ち過ぎる。屋台のおじさんの近くには、今の所ミッシェルだけを配置することにしていた。

しかし、勇者パーティーが居ることを知っていて、パイの製作者は再び会いに来るだろうか。

まぁ、これから四人も出て行くのだ。

勇者パーティーが去ったという情報を聞けば、安心して近付いて来てくれるかもしれないな。


「明来君、気を付けてね。エルフの人達は、初めて見る人への警戒心がとても強いから」

「早瀬さん。ありがとう、早瀬さんも頑張って」


嬉しい。

俺なんかの心配をしてくれるなんて、早瀬さんは天使だ。間違いない。


「そうだこれ、ミッシェルに差し入れ。一緒に食べてくれ」


きっと長くて退屈な任務になるだろうから、おやつを買っておいた。

大したことは無い。膨らんでいないパンみたいな、甘いやつだ。


「えぇ!?ありがとう!ミッシェルちゃんもきっと喜ぶよ」


まぁ一応、他の奴らにも渡しておいた。

二人だけ特別というのは、なんだか気持ち悪い感じがしたからだ。

お礼を言ってくれたのは早瀬さんと如月だけだったがな。


「そうだ明来君、村に着いたらシェレミナによろしく伝えといてくれる?私も、絶対に行くからって」


シェレミア?シェレミヤ?

エルフ族の友達だろうか。早瀬さんの頼み事ならお易い御用だ。


「分かった。伝えとくよ」

「ありがとう」


行ってきますと言うと、皆それぞれ別々の方向へと向かって行った。

残念ながら俺は、俺の事が嫌いな男と二人旅だ。


「おい」


馬車で、コプティラ王国から南東へ向かう。

そう遠くない場所にあるらしいが、俺は初めてだから詳しい場所は知らない。

森林の中にあるらしいのだが、その森林はとても広く深く続いている。下手すると、迷子になってしまうだろう。


「おいっつってんだろ」

「なんだよ」


高津たかつ 豪一ごういち

俺の事が嫌いで、俺が勇者パーティーに居ることをずっと不満に思っている奴だ。


「お前場所知ってんのか?」

「知らない」

「そうか」

「......」


馬車は、森のすぐ側で降りることとなった。

馬車で森には入れないし、普通の人はエルフの村へ行く事は無い。

用が無いというのもそうだが、それよりもエルフ族は他の種族に嫌われているらしい。

それは人族も例外ではなかった。

ならなぜ、こんなにも近くに村があるのか。

それは、はるか昔の名残りらしい。暮らす場所を簡単に変えられないのは、どの種族も同じのようだ。


「......」

「......」


馬車を降りて森に入るまで、高津との会話はあれだけだった。

お互いに何も話さない。

気まずい時間が、とても長く感じた。


「なぁ」

「......なんだよ」


高津から話しかけて来た。

向こうも気まずさに耐えられなくなったのだろうか。

そういう事を感じるようなタイプじゃないと思っていたが。


「お前の回復魔法って、結構魔力食うのか?」

「......」


唐突な質問だ。

魔力を食うというのは、魔力を使うという事だろう。

まぁ固有魔法だし、魔力消費はそんなに無い方かな。


「いや、燃費は良い」

「そうか」


......何なんだ?

なぜ急にそんな事を聞いたんだ?

今まで気にしたことも無かっただろうに。


「橋田がよぉ、魔力の消費は低いが魔法が便利過ぎてどんどん使っちまうんだ。それこそ、常に使っているくらい。そんな訳で、普段から結構魔力切れを起こしていた。あぁ、お前がいる時もそうだったか」


橋田さんの名前が出て、一瞬驚いた。胸がキュッと締め付けられる感じだ。また嫌な事を思い出す。

だが、それなら知っている。

橋田さんはよく魔力切れしていた。如月にも注意されてはいたが、楽しくなってつい使い過ぎてしまうとかなんとか......まぁ、強過ぎて魔力切れする頃には全て片付いてしまっている場面ばかりだったがな。


「んで、その対策として魔力回復のポーションを飲んでたんだけどよ」

「あぁ」


俺が居なくなってからの話だな。

魔力の回復方法は主に二つ。一つは自然回復だが、それなりに長い時間がかかる。二つ目は魔力回復のポーション。

ポーションというと、怪我を治すような回復ポーションが一般的だが、魔力を回復したり痛みを緩和したりなど、色々ある。

まぁ、よく魔力切れを起こすような人には打って付けのアイテムだな。


「飲み過ぎて、頻尿になっててよォ」


うひゃひゃひゃと笑う高津。


「は?」


どうやらポーションの飲み過ぎで、頻繁に用を足す人になってしまったらしい。ポーションも水だから、おかしな話では無い。

だが、そんなに面白くもない。何を馬鹿笑いしてるんだこいつは。


「なんだよ」

「そんなに笑うことじゃないだろ。それに今する話じゃない」

「別にいいだろ?女子もいないんだし」

「そういう事じゃなくて......」


はぁ......何を考えているんだか。

俺の事が嫌いだから、話したく無いのかと思っていたが......なぜ向こうから話を始めたんだ?

......もしかして今、面白い話をしようとでもしたのか?

この気まずさを無くす為に、笑える話を。

だとしたらチョイスが悪い。

自分の話ならまだしも、橋田さんの話じゃないか。

むしろ気まずくなってしまっている。


「......もし回復ポーションが固形だったら、今度は頻便になってたかもな」

「あ?そりゃねぇだろ。汚ぇ話すんな」

「あぁ!?」


お前から振った話題だろ。

せっかく合わせてやったのに、何なんだその態度は。


「冗談だよ。気にすんな」


ハハハッと、高津は笑った。

絡みづらい奴だな。正直腹が立つ。

いや......不器用なだけなのかもしれないな。

高津は高津なりに、俺を気遣ってくれているのかもしれない。そう思うことにした。


「......はっ」


俺も合わせて笑う。

引き攣ってはいないだろうか。



──────────



エルフの森には俺も行ったことがない。

何せこの前の山で脱落したからな。もうここからは初めての事ばかりだ。

しかしエルフか......楽しみだな。

ファンタジー世界ではお馴染みのエルフ。

まさかこの目で見ることが出来るとは。


「この辺だな」


この辺?何がだ?

まさかエルフの村じゃないだろうな。

こんなに森々としている場所に、村なんてあるとは思えない。

周りを見渡しても、それらしいものは全く見当たらない。


「どこだ?」

「んー......居た。あそこだ」


高津が指をさす方を見ると、木の上に人が居た。

言われなければ気付かなかった。木の陰に身を潜め、すぐに動けるような体勢で弓を持っている。


「よォ、久しぶり」

「タカツ様!」


木の上の人は、高津を見るとすぐにこちらへ駆け付けて来た。

それどころか、別の場所の草むらや別の木の裏、様々な場所から、初年少女達が五人ほど集まって来た。

驚いた......こんなに隠れていたのか。全く気が付かなかった。

どうやら村はここから先にあるらしく、この人達は門番として見張りをしていたようだ。


「お久しぶりです。タカツ様」

「あぁ、皆元気そうで良かった」

「あの......この方は?」

「同業者だ」


同業者......まぁ間違ってはいない......か?

しかし嫌な言い方だな。嘘でも、仲間とかパーティーメンバーだと言って欲しいものだ。

これでもクラスメイトなんだぞ。


「まぁいいか。二人だな?村に来てくれ、歓迎するぞ!」

「そのつもりだ」


若い男の人が、俺達を村まで案内してくれる。

皆若く見えるが、一体何歳なのだろうか。

エルフと言えば......


「すみません。失礼ですが、おいくつですか?」

「ん?俺はまだ九十五だ。それが何か?」


九十五歳......!

やはり、エルフは見た目が実年齢よりも極端にに若い。確か寿命は五百年程と、長命な種族。

しかしその数は少なく、絶滅危惧種のようなものだと聞いた事がある。


「いえ、ありがとうございます」

「おいおい、初めて会う種族だからって失礼な事するなよ?」


高津は、腹立つ顔で言って来た。

確かに気を付けなければならないが、「俺は既に知っているけどな」みたいな感じを出すのがムカつく。


「勇者パーティーの皆様はいらっしゃらないのですか?」

「あぁ、今は俺とコイツだけだ。色々事情があってな。また今度ゆっくりお邪魔したいって、早瀬が言ってた」

「是非!こちらとしても、お待ちしております」


何やら楽しそうに会話しながら、村まで歩いて行った。

なんだろう......この最後尾を歩く感じ。

久しぶりに感じた気がする。孤独感と、寂しさ。

ついて行っているはずなのに、置いて行かれているような......。


「本日は、ようこそおいでくださいました。勇者パーティーのタカツ様と、えー......」

「明来です」

「アクル様ですね。村の長をお呼びしますので、お待ちください」


俺達は、木の上にある部屋へと案内された。

中は暑くもなく涼しい感じで、木の匂いが心地良い。客室のようなものだろうか、ソファーも用意されている。


「凄いな......」


ここがエルフ族の村、シルトゥスか。

中身をくり抜いたらそのまま住めそうな程巨大な木を中心に、森そのものを利用して村となっていた。

家は、背の高い木に建てたツリーハウスとなっている。オシャレだ。

木漏れ日によって作物も育てられているようだし、まさに自然と共存しているといったような感じだ。


「あっ!タカツだ!!」

「お帰りなさい。またいらしてくれたんですね」

「会いたかったぜ!友よ」


高津が来たという噂を聞きつけたのか、エルフ達が次々に高津に会いに来た。

全員耳が尖っていて、美男美女ばかりだ。

これがエルフか......噂通りの種族のようだ。

勇者パーティーがこの村で何をしたのかは知らない。だが、こんな高津でも人気が出る程の事をしたんだな......。

何だか俺だけ歓迎されていないようで寂しかった。

場違い感があって、とてつもなく帰りたい。


「お待たせ致しました。再び会えるとは嬉しい限りですタカツ様。まずは、魔王を倒してくださったお礼を」


長と呼ばれた人が登場する。

見た目で分かる通り、長老って感じだ。

エルフ族も、歳を重ねればそれなりに見た目も老いるのだな。

ずっと若いものかと思っていた。


「いいよそんなの。もう充分お礼は貰った。むしろ、また来ると言っておきながら一年も来れなかった事を謝りたい」

「いえいえそんな、一年なんて我々にとってはほんの一瞬の事ですよ」


はっはっはっ、とエルフの長は笑う。

見た目より元気そうだ。

高津の奴、俺と居る時はあんなに喋らなかったのに。人が変わったように口を開くようになったな。


「おっと。こちらの方は初めましてですね。この村の長のフェンデル=ウッデンです」

「どうも。明来です」

「この村を、軽くですが説明致しますのでどうぞごゆっくりなさってください」


ここシルトゥスは『神樹様』と呼ばれる巨大な大木を中心に森を利用したエルフの村だそうだ。

シルトゥスの民は『自然と共に』をモットーに、少人数で平和に暮らしている。

何をするにも感謝の言葉を忘れず、森と共存している。

普通は群れない習性のエルフが集まる、珍しい集落なのだ。なぜ集まったのか、長寿のエルスでさえも詳しい事は誰も知らないらしい。

エルフ族は長寿だが、子孫繁栄の本能が乏しい為数が少ない。

その代わり一世帯の家族の人数は多い。聞けば、百歳程に子供を産むエルフが基本らしく、平和に暮らしていれば孫の孫まで見ることが出来るそうだ。

だが、子供を産むエルフの方が少ない事に変わりは無いようで、もうこの村にしかエルフ族は存在しないと言われている。


「このままだと絶滅してしまうと分かっているのに、なぜ子孫繁栄を考えないのですか?」

「さぁ......何故でしょうねぇ。そういう気持ちにならないのですから、仕方ないです」


仕方ないって......そんな事で良いのか?

自分達の種族が、全て居なくなってしまうかもしれないんだぞ?

俺なら、自分の種族が絶えるなんて寂しいと思うがな。


「昔から他の種族にも嫌われていますし、もうそろそろ終わりなのでしょう。こんな場所でひっそりと生きている我々ですが、少しでも勇者パーティー様のお役に立てれば幸いです」


嫌われている......か。

エルフ族は、何故か他の種族からのヘイトが高い。理由は様々だ。長生き故の達観したような態度が気に食わないとか、森に引き篭ってばかりで世の中の役に立たない老人だとか。そんなような事を聞いた事がある。そしてどうやら、エルフという種族は昔から嫌われているそうだ。

長老は、諦めている......ように感じる。

そう思える発言だ。エルフ族の長が、こんな調子で良いのだろうか。


「なら、そろそろ本題に入りたい」


と、高津が話を切るように割り込んで来た。

今、大事な話をしている所だっただろう?

本題に入るのはその後でも良いじゃないか。


「おい。そんな事でいいのか?エルフ族の問題を解決しなくても」

「それはもう終わった事だ。その問題は今に始まった訳じゃねぇ。前に俺達がここに来た時に、充分話し合った」

「でも......」

「良いか?ここに来たのはお前が初めてじゃねぇ。先に俺達、勇者パーティーが来ている。あの勇者如月が、人助けしようとせずに立ち去ると思うか?」


......確かにそうだ。

あの如月が、こんな問題を見過ごすはずが無い。

という事は、もう解決出来ないと諦めた問題なのか。


「物事には優先順位ってもんがある。今世界中で起こってる問題と、昔から今までジワジワと起きている問題。どっちを優先すべきか、分かるよな?」

「......」


エルフ族が絶滅の危機なのは昔からの事で、今すぐにでも絶滅してしまうという訳では無い。

寧ろ、今すぐ対処しなければならない問題はサナティオの被害を受けている者達だ。

サナティオのせいで人生を狂わされ、サナティオが無ければ苦しむだけの人々。

優先順位は明白だ。


「......そうだな。すまない」

「あぁ。エルフ族の事は、全てが終わったらいくらでも頑張ってくれ。ただ今は......コイツだ。ここには、コイツの事を聞きに来た」


ドンッと、机にサナティオを置く。

サンプルとしていくつか持っている内のひとつだ。

このサナティオがなんなのか、植物に詳しいエルフ族なら知っているはずだ。


「それですか......」

「知っているのか!?」

「いえ、何も」


何だよ。まるで知っているような反応だったじゃないか。

エルフ達は、サナティオを見た途端に暗い顔をしだした。

何も......か。

この実を全く知らないと言うのか。


「実は少し前、人族が訪ねて来まして......その際に同じような事を聞かれました。彼らはこれと同じ物を取り出して『この果実を知らないか』と。しかし、それは我々も知らない果実でした。初めて見る物で、どんな植物なのかどんな特性を持つのか、何一つ分かりませんでした」

「そいつは誰だ?なんて名前だ?」

「名前は聞けませんでしたが、装備からして恐らくは冒険者だったと思います。五人ほどのパーティーで来ました」


既にサナティオを知っている者が、訪ねて来たのか。

まぁ、植物に詳しいエルフ族に聞きに来るというのは分かる。俺達と同じ考えだ。


「沢山欲しい。群生地を教えて欲しいと」

「なるほどな......既に中毒だったという事か」

「我々も、その目を見て正気では無いと気付きました。この実が、何かをしたのだと。しかし暴れられても困るので、取り敢えず言う事を聞いて実を調べる事にしたのです」


結果は、何も分からないということが分かった。

植物を調べても毒性は分からず、どういう実なのか一切不明だったようだ。

しかし、食べなかった事は賢明だ。

普通のアホなら取り敢えず食べようとするだろうが、流石はエルフ族。毒があるかも分からないようなものを食べたりはしない。

まぁ魔法に長けているエルフ族なら、解毒魔法くらい持っていそうなものだが。


「我々の村でも特に優秀なエルフをご紹介します。ここでは一番植物に詳しい者です」


村長が案内してくれたのは、一つの小屋のような家だった。

中に入ると、シンプルな外観とは裏腹に観葉植物でオシャレな空間となっていた。

緑が多くて落ち着く。

メリアスの研究室と違って、デタラメに置いてある訳じゃなく見た目を意識しているように思える。

多くの植物が飾られているが、それ以上に本棚が気になった。

まるで図書館のような巨大な棚に、本がギッシリと詰まっていた。


「いらっしゃ......うわあっ!?た、タカツ様!?」


中に入ると、本を持った女性のエルフがいた。

この部屋に相応しい服装だ。見るからに清楚で、まるで女神様かと思ってしまうくらいに美人だ。


「よぉ、久しぶり」

「お久しぶりです!あ、こちらの方は初めましてですね。フラディア=プラトーと申します」

「明来です」


高津が既に知り合いだというだけで、なぜこんなにもテンションが下がってしまうのだろうか。

全てにおいて一歩出遅れているというのは、結構心が痛い。常にマウントを取られている気分になるのは、俺だけだろうか。


「では、説明させてもらいます」


外見が全く異なるが同じような性質を持つ植物があるかもしれない。

エルフの人達も、もしかしたら忘れているだけかも。

だから、サナティオについての詳しい情報を教える。


「これはサナティオという名前の植物の果実で、強い依存性を持ちます。依存性というのは、一度食べてしまうとずっと欲しくなる、やめたくてもやめられない。それが依存です」

「なるほど......やめられなくなるのですか」

「そうです。そして厄介なのは、このサナティオは何よりも優秀な回復効果を持っている所です。即死でなければ、どれほどの重症でも一瞬で回復させてくれます。他のどんな回復魔法よりも優秀です」

「本当ですか!?そんなものが......」


そう、そんなものか出回ってしまっているのだ。単に回復効果だけだったらどれだけ神アイテムだった事か。

その代償が依存症というのは、あまりにも大きなものだ。


「種は、真ん中にあるものですよね」

「そうだと思います。真ん中の大きい奴ですね」

「はい。試しに育ててみていますが、成長速度は普通。成長の仕方も、他の植物とは特に変わりありません」


......ん?そうだったか?

この短期間でここまで人々にサナティオを食べさせられたのも、尋常じゃない成長速度のおかげだと思っていたのだが。勘違いだったのだろうか。

まぁ、どの道このまま依存症の人が増え続ければその内追いつかなくなって、サナティオは絶滅するかもしれない。

そうなれば、依存症の人々がどうなるのかは想像するまでもない。

今まで理性を失って暴れ回る人を見て来た。

コプティラ王国でも......ペラムパイの販売が終わった町は、どれ程正気を保っていられるのだろうか。


「依存症と言いましたが、人によって発症までの個人差があるようです。実際に俺は、既にいくつか食べましたがまだ依存は感じられません」

「なに!?そんなこと俺は聞いてねぇぞ......マジで言ってんのか?」

「あぁ本当だ。理由は不明だが、効き目みたいなのがあるようだ。俺は依存症にはならなかったが、回復効果も得られなかった」

「それも初耳だぞ」

「これは前の洞窟で初めて知った事だからな。言うタイミングを失ってて言えなかった」


そんな重要なこと、早く言えよと言われればご最もだ。

しかし、これらもまだ不確定な事に過ぎない。

あまり余計な情報を与えて混乱させたり、無茶をさせてしまうことを避けての事だ。

だが今、このサナティオについて調べてもらう状況においては、情報を開示した方が良いと判断した。


「私も個人的に調べてはみましたが......そんなに情報は集まりませんでした。流石は勇者パーティーの皆さんです」

「そんな事はないですよ。まぁ、俺達が知っている事はこれぐらいですかね」


今は、これぐらいだ。

果たしてこの情報でサナティオを、どんな植物か特定することが出来るのだろうか。

そこは任せてみるしかない。


「ありがとうございます。有益な情報でした。改めて探してみます」


そう言うとフラディアさんは、本棚から本を抜き取る。

まさかとは思っていたが、やはりここから探すようだ。この巨大な棚からどうやって目的の本を探し出すのか俺には分からないが、取り敢えず時間がかかるということだけは分かった。

インターネットが無い世界は不便だな。


「さて、探してもらってる間は暇だし、どうすっかなー」


帰る予定は明日。馬車の迎えは明日の昼頃に来る予定だ。森の前まで来てくれる。

こうして信用してくれるのも、勇者パーティーだからこそだ。金を積んだのもあるが。

実は、大金を払っても余裕がある程には稼げているのだ。ここに来るまでに倒した魔物や動物の死体で、使える部位を素材として売っている。前のヴァリアレプスも、結構な金になった。

中々手に入らないだけあって、毛皮と爪は高級品のようだった。


「お?もしかして今から狩りか?」

「ええ、釣りに行こうかと」


部屋の外に出ると、エルフの人達十数人が列をなして歩いていた。

時間帯は、まだ昼頃。

俺の勝手な偏見だが、エルフ族が釣りだなんてイメージ湧かないな。


「俺も同行しよう」

「なら高津、俺も連れて行ってくれ」

「あ?何だよ。別に要らねぇよ」

「分かっている。お前の為じゃなく、エルフ達の為について行くんだ」


このままここに居ても暇なだけだ。

どうせならエルフ族の狩りというものを見せてもらいたい。

森で闘うことも少なくないし、何か勉強になる事があるかもしれない。


「チッ、好きにしろ」

「ありがとう」


エルフ達は、高津が同行すると聞いてとても喜んでいた。

勇者パーティーほど心強いものは無いだろう。

実は俺も少しだけワクワクしていた。

エルフ達と協力出来るなんて、ファンタジーっぽさがあるじゃないか。

冒険という感じがして、楽しみだ。


「あ、悪い。その前に少しだけ準備させてくれ」

「何だよ。早く装備して来い」


俺は、一人でフラディアさんの所へ向かった。

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