第12話 山を越える
もう町を出るのかと、ディプノスの市民には悲しまれてしまった。申し訳ないが、急いでいるのだ。
まだ解決していない事が分かると、俺達はすぐに町を出た。
見送られる時、スレッツさんも来てくれた事には驚いた。
一晩中泣いていたのだろう。目の周りがパンパンに腫れて真っ赤だった。
娘は......直接俺達が殺した訳では無いが、要因の一つではある。
本当に申し訳ないことをしてしまった。
悪人だった......とは言い切れない。
確かに、町に魔物を放ったり、サナティオを広めたりはしていたが、だからと言って死んでいい事にはならない。
彼女には、生きて罪を償ってもらいたかった。
スレッツさんには、慰謝料として少しばかり硬貨を渡した。
しばらく何もしなくても生きていける程のものだ。似たような事を勇者パーティーは、ずっとやって来ていたと聞いた事がある。依頼で貰った報酬を、親のいない子供達などによく配っていたらしい。
魔王や魔物を倒す事だけが勇者の仕事では無いと、如月は言っていた。
まるでヒーローのようだと、俺は尊敬しながらそう思った。
「次はコプティラ王国。明来君は、初めて行く所だね」
そう。
そこへ向かう途中の道で、断念したのだ。
これ以上は行けないと、そう判断された。
いや......先に言われてはいたんだ。
だが認められなくて、無理矢理連れて行って貰った。
だがそこで思い知った。俺は勇者パーティーには付いて行けないと。
「何だ?アクルも行ったこと無いのか。私も初めてだな」
「コプティラ王国は、ここから山を越えてずっと南に向かった先にある。山の上にはハイテリトリーがある。つまり、上級の魔物が生息しているという事だ。俺は、付いて行けなかった」
コプティラ王国への最難関である山。
標高はそれ程高い訳では無いが、遭遇する魔物が強過ぎる。
普通はロー、ミディアム、ハイとテリトリーのレベルが上がっていくものだが、この辺はローテリトリーばかり。
山に登るだけで、いきなり上級魔物と出会うことになるのだ。それが初心者冒険者達を苦しめる要因の一つである。
「にゃはは。ま、今ですら中級の魔物で手一杯だもんな」
ミッシェルは、モゴモゴしながら言った。
何かを口に咥えている。
普通に言われるより、少しばかり嫌な気持ちになった。
「何食ってるんだ?」
ガッシガッシとゆっくり噛んでいるところが猫っぽくて可愛いが、それ程硬いものと言うと鰹節だろうか。
この世界に鰹節ってあったっけ?
結構似合っているぞ。
「さっき村で貰った。よく分からんらけど、干した何かだな」
干した何かか。
そりゃ怖いな。分からないものをよく食べられるものだ。流石はミッシェルと言ったところか。
「どんな味だ?」
「甘い」
サトウキビのようなものだろうか。
色は茶色っぽいが......全く分からんな。
「何か口に含んでると、紛れんだ」
「何か紛らわせたいものがあるのか?」
「あぁ、空腹とかだ」
とかってなんだ。空腹以外に何かあるのか?
まぁいいか。
それよりも俺は、もっと気になる事がある。
町を出てから、ずっと気になっていた事だ。
もう今更遅いかもしれないが、どうしても言わずにはいられない。
言わせてもらおう。
「なぁ、まさかこのままずっと歩いて行くつもりか?」
町を出てからずっと歩きだ。
コプティラ王国へは山を越えなければならない。だが、その山までも結構な距離がある。
ここら辺はまだテリトリーレベルが低いし、馬車だって通れるはずだ。
「あぁ......考えないつもりだったのに」
「え?」
「実は、ディプノスで馬車を借りられなくてね......『力になりたいのは山々だが、貸せるものが何も無い』だそうだ。まぁ、無いものは仕方ないね」
仕方ないで済ませられる事か?
ディプノスが不親切な訳では無いのかもしれないが、これはあまりにも酷な事だ。
いくら勇者パーティーだと言っても、歩く速度は人並みだ。まぁ多少速かったところで、次の目的地までどれほどかかるのか分からない。
ゆったりスローライフじゃないんだぞ。
「......そうだね。確かにこのままじゃ、あまりにも遅いかもね」
「そうだろ?どうにかして足を手に入れないと」
「仕方ない......この手は使いたく無かったけど」
如月は、とても嫌そうな顔でゆっくりと
そして見られた小森は、苦虫を噛み潰したような顔で返す。
何だ?使いたくない手というのは、一体なんだろうか。
「えぇ......嫌なんだけど」
「すまない!だがこのままだと、コプティラ王国まで相当な時間がかかってしまうんだ。せめて山の
如月が、必死にお願いをしだした。
あまり見ない光景だ。いつも落ち着いていて、高校生ながら大人のような雰囲気をしていた如月。
それが今は、一度裏切ってしまった元彼のように懇願している。
......我ながら嫌な例えだったな。
「頼む!
「私にしか......」
その言葉が聞いたのか、眉間に皺を寄せてしばらく悩んでいた小森さんは、ため息をついて「分かったわ」と一言。
「ディモルン」
と、いつも肩に乗せている魔物の名を呼んだ。
小森さんの能力は、ストロイム。
縁のある物を媒介に、関係の深い魔物を召喚する。簡単に言えば、強力な召喚魔法だ。
テイマーと違うのは、通常は自分より強い魔物はテイムすることが出来ない。しかしこの魔法は、自分よりも格上だったとしても、召喚された魔物なら命令に従わせることが出来るという所だ。
つまり、強い魔物と何か関連性の高いものを使って召喚すれば、簡単に強い魔物を手に入れる事が出来るという事だ。そして現在だけでなく過去に存在した生物を召喚する事も出来るらしい。しかも、一度召喚した魔物は異空間にいつでも出し入れ出来る。魔物のサイズで困ることも無い。
因みに、小森さんが召喚した魔物で俺が知っているのはこのディモルンと、ケルベロスのサーベだけだ。それ以外は何体居るのかすら知らない。
「ディモルンごめんね。ちょっと嫌かもしれないけど、あの山までで良いから皆を連れて行って」
小森さんは、ディモルンと交渉している。
なるほど、魔物に乗って行くという手があったか。ペットみたいにずっと肩に乗っているものだからすっかり忘れていたが、あれは元のサイズでは無かったな。
「お願い」
ディモルンはとても嫌そうに首を振るが、小森さんの頼みによって気合いの入った叫びを上げた。
そして魔物らしい雄叫びと共に、体がバキバキに大きく膨れ上がり、みるみる大きくなっていった。
筋肉が膨張し、頭も体も全てが巨大化する。
そしてあっという間に、マスコットキャラクターから約十メートル程の翼竜へと変化してしまった。
「ありがと」
鋭い牙、冷たい眼差し、いかにも肉食ですって感じの恐竜顔に、毛の生えていない翼。鎧のような鱗を纏い、長いしっぽと鋭い爪をも持つ。
実は、ここまで大きくなるのは知らなかった。
俺が最後に見た時は、まだ最大で五メートル程度だったし、複数人乗せられる程の大きさも力もなかったはずだ。
だから、ディプノスで人を持って来た時には驚かされた。成長したようだ。
こんな事が出来るのなら、初めから乗って行けば良かったのでは?
「気が変わらない内に乗って!乗ったら、振り落とされないようにちゃんと掴まってよね」
「何だ?そんなに急ぐ事か?」
「あぁ、明来君は知らなかったね。ディモルンは野乃にしか懐かない」
「おう」
「そして他人を乗せるのがめちゃくちゃ嫌いなんだ」
なるほど。
つまり、俺達を乗せて飛ぶのを拒否していると。だからあんなに頼んでいたのか。
言われた通り、俺も素早く背中に乗り込んだ。
乗り心地は、決していいとは言えない。硬い鱗が尻に刺さりそうだ。掴まってと言われても持つ所とかある訳じゃないし、全員乗ると意外と狭かったりする。
まぁ嫌々とは言え、こうして少しの距離でも乗せてくれるのならありがた「グオォオオオオオ!!!」
「ッ!!?」
急に叫び出したかと思えば、間髪入れずに飛び立った。
突然過ぎる。
最初から全開の速度で、合図も無しに飛び立つものだから、掴まっていなければ負荷によって振り落とされていた。
「─────!!」
まるで飛行機の外から直接上に乗っているような気分だ。
風が凄いとかそんなもんじゃない。
目も口も開けていられない程に、半端ないスピード。耐えてるだけでもやっとだ。
かろうじてだが、少しだけ目を開ける事に成功する。
だがそこで見えた景色は、早送りの映像のようたった。
数十秒も経たないうちに、目の前に山らしき色が見えた。形なんてハッキリとは分からない。ただ、一面緑色だった視界の奥に急に黒い大きなものが見えた。恐らく、それが山だろう。
だが一向に速度が落ちる気配は無い。
「ちょ、ちょっと!」
まずい。
全然減速しないぞ......おいまさか、このまま......!?
「うぉおおおおおお!!?」
ドォン!という音と共に、視界が真っ暗になった。
山に突っ込んだのだ。ディモルンは一切のブレーキをかけずに、山へと一直線。しかも、到達する直前に急旋回し、頭に乗っていた小森さん以外、背中に居た俺達のみを振り落としてみせた。意図的な不時着。
全く、どれだけ嫌われているんだ。
「ぶはっ!危ねぇ......ギリギリでシールドが間に合ったな」
「皆......大丈夫かい?」
「うぅ......頭がクラクラする......」
「にゃはは......アクルぅ、回復魔魔法を頼む」
痛そうにしているミッシェルと早瀬さんに、回復魔法を掛けてあげた。
最悪な移動方法だ。二度とごめんだね。
「皆ごめん!大丈夫だった?」
ディモルンと小森さんが帰って来た。
小森さんは流石にディモルンを咎め、謝罪させた。魔物の謝罪と言うのは頭を下げるだけであり、何となく、ちゃんと謝っているように見えなかったのは俺だけだろうか。
「大丈夫。無理言って頼っちゃったのはこっちだしね。むしろ、ここまで載せてくれてありがとう」
まぁ何はともあれ山に到達する事は出来た訳で、長い道のりを短縮出来た事には間違いない。
そこは、礼を言っておこう。
「それじゃ、回復を済ませたらまた出発しようか。山は天候が荒いから、ここも早めに突破したい」
徒歩旅の再開だ。
──────────
「ねぇ、明来君」
「は、早瀬さん!?な、何?」
ずっとボーッと歩いていたものだから、話しかけられて少し驚いてしまった。
「ディプノスでさ、メリアスさんが犯人だってよく分かったね。結果としては騙されちゃった訳だけど、そこまで辿り着けたのは凄いよ」
早瀬さんは、近くに寄って話してくれる。
装備が重たくてノッシノッシと歩いていた俺も、少しだけ姿勢が良くなった。
「急にどうしたんだ?俺は別に、何も凄い事なんかしてないよ」
「凄いよ。地下水だなんて、私なら思いつかない」
あぁ、あの噴水の事か。
メリアスが研究室に地下通路を作っていない理由として、俺は地下水を挙げた。
正直、あの時は四割くらいが勘だった。
それが上手いこと噛み合っただけだ。
でも、確かに地下水の事は俺だから気付いたのかもしれないな。
「俺も普通なら思い付かなかった。けど、辺境の地で暮らす時に井戸を作りたくてさ。色々勉強したんだ。たまたま田舎暮らしが、活きたってだけだよ」
「それでも凄いよ」
「ありがとう。でも、早瀬さんの方がもっと凄いさ。俺じゃあ、あんなに魔物を倒すことは出来ないからな」
褒めたつもりだったのだが、何故か早瀬さんはあまり嬉しそうにはせず、笑顔だがどこか寂しげな......暗い表情をしているように見えた。
「ありがとう。でも、私にはそれしかないから......あっ、ごめんね。別にこんなつもりじゃなかったのに。ただ、今までパーティーから追い出しちゃってた事を謝りたくて」
「あぁ......いいよ。あれは俺の実力不足なだけだったし」
そう。あれは俺の問題だ。
別に気にしてなどいない。
お陰で、こうして多少は強くなる事が出来たのだから。
「と、とにかく、明来君は凄いよ。私はそう思う!」
「あぁ、ありがとう」
早瀬さんとの話を終えると、ミッシェルと目が合った。
ミッシェルは無言で親指を立ててグッジョブのポーズを取る。
からかわれているようで、何だか恥ずかしかった。
「そろそろだね」
「あぁ......」
かつて俺は、ここで断念した。
山の主とも言える超強力な魔物。ハイテリトリーに相応しい強敵。
その名もヴァリアレプス。
全長約十五メートル。尻尾を含めなくても、十メートルはある巨大な狼。
ドレント大陸を真っ二つに割るようにそびえ立つこの山は、岩場が多くて比較的木々が少ない。
そのせいか、岩に擬態したり、堂々と正面から闘っても負けないような戦闘力を持つ生物が多い。
ヴァリアレプスは、その後者だ。
真っ赤な目と、暗い灰色毛並みに筋骨隆々な肉体。身体のあちこちに生え揃った角に、目を見張るほど大きくて立派な爪。そして長細く、振れば先端が音速を超える程の凶器となる尻尾が特徴だ。
そんな、山の王者とも言われる狼に、俺は全く歯が立たなかった。
一撃でも食らえば致命傷となり得る攻撃を、岩場を利用した自慢の機動力で繰り出してくる。
それに、俺は適わなかった。
回復魔法は間に合わず、それ以外に攻撃手段も持たない俺はただの足でまとい。
自然界では、弱い奴から先に死んでいく。
転移者の俺も例外では無い。
ヴァリアレプスは、俺を真っ先に狙って来た。
そうして俺はお荷物となり、パーティーに多大な迷惑を掛けてしまった。
勇者パーティーを抜けるには、充分な理由だ。
「はぁ......思い出しちまったな」
嫌な思い出だ。
まぁ、そんなヴァリアレプスも流石の勇者には勝てなかった。
標的を勇者に変えたのが運の尽きだ。
俺の損傷のみで、見事に討ち取ってくれたのだ。
だから、ここで成長した俺がリベンジするなどという事は起こりえない。
だとしても、安心して通ることが出来ないのがハイテリトリーなのだがな。
「............」
まずハイテリトリーは、魔物や動物の何もかもがデカい。
ほら、あぁやって飛んでいる鳥すらも。
山に降りてからずっと俺達を狙って、頭上をグルグルと飛んで回っている。
いや......正確には俺のみを狙っているのか。
あれは......なんという鳥だったか。
確か中級の魔物にも余裕で勝つほどの強い鳥だって──────
「うおっ」
ガクッと、世界が傾いた。
いや、俺の視界が揺れただけだ。それも、足の痛みと同時に。
「あっ」
気付いた時には、俺は転んでいた。
上ばかり見ていたから、足下の岩につまづいてしまったのだろう。
しかし、場所が悪かったみたいで、俺はそのまま転ぶだけにとどまらなかった。
「え?な、ちょっ......!」
落ちる。
どうやらすぐ横に穴が空いていたようで、俺は吸い込まれるように落ちて行く。
ただの不運の連続だった。
たまたまミッシェルが、俺と話していない時。
たまたま俺が、最後尾をダラダラと歩いて居る時に。
そしてたまたま、つまづいた先に人ひとり分落ちてしまう程の隙間が出来た所で。
俺が落ちてしまっただけの事だった。
「いでっ」
真っ暗な視界。
反響する声。
どうやら俺は、完全に穴に落ちてしまったようだ。
「サンライト」
小さな光の玉を、手のひらから出現させる。
辺りを照らすことの出来る魔法だ。
この強い光によって、周りが見えるようになる。
どこか骨折していたのかもしれなかったが、驚いてアドレナリンが出たのか痛みはそんなに無かった。
それに回復魔法ですぐに完治したため、体は問題無い。
「はぁ......マジかよ」
こんな事があるのが異世界だ。
まるで嘘のような不運の連続。
だが、足場の悪い岩場では、人がすっぽり埋まってしまう程の隙間や穴なんて結構あるし、飛び出ていた岩につまづくことも少なからずある。
本当に不運だったのは、誰も俺を見ていなかったという事だけだ。
ボーッとしていたのも、ただの俺のミスだ。
恥ずかしいから、バレる前に戻るとしよう。
落ちて来た穴は結構上の方にあるな。
とてつもなく深い。
このくらいなら、強化魔法で跳躍力を上げれば問題は無─────
「ッ!?」
突然、何かに脚を引っ張られた。
とても強い力で、転ばされると同時に引きずられる。
「おぉぉおおお!!?」
穴は奥深くへと続いていたようで、ものすごい速さで引きずられる。
掴まるところもなく、脚も動かせない。
ならばと思い、取り出しやすい短剣を腰から引き抜くと、脚を引っ張っている何かに向けて下から突き刺した。
「ふんっ!」
その何かは、甲高い鳴き声のようなものを発すると、すぐに俺の脚を離してさらに奥へと逃げて行った。
「はぁ、はぁ、はぁ、何だったんだ......?」
再びサンライトで脚を照らすと、硬いもので引っ掻いたような傷があった。
爪......いや、牙か?
そして気になるのは、粘着質の白くて細い物体が、脚に巻き付くように付着していた。
蜘蛛の糸......のようだ。
「この洞窟に住む蜘蛛か......?」
蜘蛛型の魔物だろうか。
だとすれば厄介だ。
こんな狭い場所で奇襲されればひとたまりもないし、この山はハイテリトリー。間違いなく強い魔物だ。
さっさとこの場所から抜け出したい気持ちは山々だが。
「結構引きずられたな......」
どれぐらいの距離を引っ張られたのだろうか。
というよりも、思ってたよりずっとこの穴は深く続いていたようだ。
穴というよりも、洞窟か。
恐らくだが、他にもいくつか穴が空いている場所があって、そこから落ちて来た生物を巣穴へと持って行って捕食しているのだろう。
周りを見渡しても、死体が見当たらないのがそれを現している。
「さて......どうやって出るかな......」
この程度の傷なら、俺の魔法でもすぐに治る。
毒があっても完治できる。
だが、少し妙だ。
ハイテリトリーの魔物のはずだ。なのに、俺の短剣で一撃食らわせただけで引いて行った。
致命傷になったとは思えない。
確かに、ハイテリトリーの動物や魔物が全て上級かと言うとそういうわけでは無いが、それにしても弱過ぎる。
「ん......?」
カサカサという音が、洞窟の奥から聞こえた。
一つ、二つ......いや、もっと沢山。
どんどん近付いてくる。
「フレイム!」
拡散型の火属性魔法。
前方に炎を出すというシンプルな魔法だが、ファイアーボールよりも威力が高い。
近付いて来ている奴らは、恐らく先程の蜘蛛。
仲間を連れて来たのだろう。随分と足が速い。
「うぉおおおお!!!」
だが幸いにもここは一本道。
フレイムが全弾ヒットする場所だ。
流石がに俺でも、正面から来る魔物に対して何も出来ないという訳では無い。
「嘘......だろ......?」
効かない。
俺の魔法が、全く通用していなかった。
よく見ると蜘蛛の体は岩のような装甲で出来ており、先程の短剣は腹に当てた為に通った攻撃だったようだ。
つまり、接近して懐まで潜り込まなくては攻撃が通らない。
こんな遠距離からの範囲攻撃では、ノーダメージのようなものだった。
「ぐぁっ!!」
為す術なく囲まれる。
魔法が通じず、絶望状態だった俺に、次々と襲いかかってくる蜘蛛共。
一体一体がデカい。
脚を含めなくても、俺の胴体程の大きさはある。
そんな蜘蛛が、大量に押し寄せて来たわけだ。激しい嫌悪感と、痛みに襲われる。
「ぐっ、クソッ!ぐぁあああ!!」
気付けば、全身を糸で巻かれて身動きを取れなくされ、再び洞窟の奥へと引きずられていた。
「んー!!」
しかも今度は、口まで糸を巻かれている。
これでは詠唱ができない。
人間対策。
今度な知能を持った魔物だ。
為す術なく、俺は奥のさらに深い場所へと持って行かれた。
──────────
「............ッ!」
ここは......?
気付くと、周りの蜘蛛は居なくなっていた。
どこだ?まだ暗いが、目が慣れて来たのか薄らと見える。
引きずられている途中で頭でも打ったのだろう。気絶してしまっていたようだ。
「......?」
いや、蜘蛛が居ないわけじゃない。
俺から離れただけだ。
身動きはまだ取れない。少し動くと、身体が揺れる感覚がする。
......蜘蛛の敵、そして連れていかれた先。
考えられる事はひとつだ。
「ぐ......く......」
吊るされている。
何の抵抗もできないまま、俺は上から吊るされているようだった。
そしてその理由ももちろん、捕食に他ならない。
「......!」
目の前にある八つの赤い光。
とても大きなものだ。
段々と目が暗闇に慣れていくにつれて、その全貌が明らかとなっていく。
巨大な蜘蛛。
察するに、先程俺をここまで連れて来た奴らはこの蜘蛛の手下か何かだろう。
つまり、この蜘蛛は女王蜘蛛。ここを拠点として、巣を作っている訳だ。
と、そんな事を考えている間にやっと気付いた。
この場所、とてつもない大きさだ。
一つの部屋のように、巨大な場所。
ドーム状になっていて、足場が張り巡らされている。外壁にはいつくもの穴が出来ており、そこから小蜘蛛が出入りしている所を見ると、働き蜘蛛達の部屋のようなものだろうか。
そしてど真ん中に堂々と佇んでいる巨大な蜘蛛が、この巣の女王という訳か。
「ん......」
ぐちゃぐちゃとさっきから音がしているが、これは目の前にいる女王蜘蛛が食事をしているのだろう。
何を食べているのかまではハッキリとは見えないが、そのお陰で俺は未だに食べられないでいる。
だが、時期に俺もあぁなってしまう。
このままでは時間の問題だ。
「............」
どうする......俺。
このまま何もしないで食べられるのは嫌だ。
だが、どうすれば......ミッシェル......早瀬さん......。
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