第8章 カフェコメットは彗星とともに

2023年8月13日、カフェコメット屋上


その日は夕方から集まった。私と麻子さん、リリアさん、姉さん、そしてセイタくんと先生。カフェコメットの屋上からの視界は開けていて、満天の星空が良く見えそうだ。セイタくんは先生に車椅子を押してもらいながら、首にかけた重い双眼鏡を覗き込んだ...はずだった。


「...え、セイタくん?セイタくん!?」

セイタくんはいつの間にかぐったりしていた。容態が悪化したのだろうか。顔は真っ赤、息は切れてしまっていた。

「大丈夫、すぐ治る...ね?先生。」

「...うん、大丈夫。」

セイタくんの背中をさする先生の横で、姉さんが見つめていた。

「先生...私、実は医学部志望なんです。参考にしてもいいですか?」

「ああ、もちろんだよ。私をよく見ていて。...いい医者になれるといいね。セイタくんの代わりに。」

「セイタくんの、代わり?この子の?」

「セイタくんは医者になるって夢を諦めたんだ。余命の関係で。――だけど、新しい夢ができた。それが今日なんだ。」

姉さんがセイタくんの顔を覗き込むと、いつの間にか気分が良くなっていてニコニコしていた。セイタくんはため息を吐きながら上を向いた。瞬間、

「あ...」


流れる星の雨だった。彗星のカフェに落ちる流れ星。近年稀に見る、大流星群。世界は次第に暗く、月明かりと落ちてくる光たちが、私たちを包んだ。...夢のようだった。

「あ、流れ星!いっぱいだぁ!!...やった、やったよ先生!麻子姉ちゃん!...ぼくの夢、叶った!」

「ほんとだ。...はぁ、きれい。」

車椅子の上ではしゃいでいた。そりゃそうだ。セイタくんの唯一の夢が叶った瞬間なのだから。流れ星にお願いなんてしなくても、もう十分すぎるくらい、私たちは報われた。


「...ぼく、ずっとみんなに変な人だと思われてた。それで自分が分からなくなって...絶望したこともある。...だけど、今は違う。先生がいる、麻子姉ちゃんがいる。みんなだって...ぼくを、ぼくのままのぼくを愛してくれるんだ!」

セイタくんは流れ星にうっとりして、最後まで目を離さなかった。セイタくんの夢に、私たちは溺れそうだった。


「――"星屑とブラックホール"。それは...あの頃のぼく、そのものだったんだよ。」

せいたくんの涙とあの流れ星が、心做しかリンクしているように見えた。いつの間にか、せいたくんは椅子に腰掛けたまま、寝息を立ててスースーと寝てしまっていた。私たちは夜通し星を見て...セイタくんの終わりも、この目で見たのだ。

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