第3章 怪しげな光を知る者

2023年 7月24日、各駅停車の電車内にて


高校の最寄り駅へと走る電車の中で、私、向坂陽菜は店長、水瀬麻子さんに言われた通りにカフェコメットのホームページを開けてみた。...ふむふむ。意外と口コミが多い。案の定、「おかしい店」だとか「雰囲気が独特」だとかいうワードはちらほら見つかった...が、意外と高評価。星4.2。なんで!?

(...異世界に迷い込んだような気分になれる。不思議の国のアリスを彷彿とさせる...へぇ。変な人ばっかり。あそこのどこがアリスだよ。カオスの間違いじゃなくて?)

我ながら上手いな。え?下手なくせにイキんな?黙れ!


そんなこんなで、気がつくと学校に着いてしまっていた。

「おはようございます。」

軽く礼をして体育館に入る。いつもと同じ、女子バレー部。ウォーミングアップをして、ボールに触って、練習試合をして。...いつも通りお昼を食べようとした、その時だった。


「こんちゃ〜っす!みんなお久!みんなに会いたすぎて見に来ちゃった☆」

ギャル口調で突然入口から入ってきたのは、3年生の先輩たち。その中に、私ととんでもなく仲がいい、流川七華るかわななか先輩の姿を見つけた。

「せ、先輩!!??」

「...あ!ひーちゃん!お久!元気してた〜?」

「あぁ、今は元気です。コンディションもいい感じですし。このサポーターも良いやつ買ってもらっちゃって。」

「え、うらやま〜!...あ、そうだ!今日ね、お姉ちゃん来てるよ。」

お姉ちゃん?まさか、いや、違うよね。

「お姉ちゃん?」

「うん。ゆなちん。今日は来てくれるらしいよ!ひーちゃん良かったね〜!」

「ゆなちん...げっ...」

――ゆなちん、向坂結菜さきさかゆな。私の姉だ。"受験勉強が忙しい"だとか散々ほざいてたくせに、よりによってなんでここに来るわけ!?

「わお。陽菜いるじゃん。よかったぁ、サボってなかった。姉ちゃん安心だわ。」

「...サボるわけないでしょ、そっちこそ、受験勉強サボってなんでここに?」

「サボってないよ!七華から誘われてきたの。」

「来なくて良かったのに!!帰れ!!」

「あらやだひどぉ〜い。」


この後、七華先輩や姉さんや他の3年生と合同で練習した。...先輩たちには悪いけど、やっぱりフォームが少しぎこちなくなっている。きっとこれまで勉強ばっかりだったんだろうなと思うと、無理もないか。

「...ありがとうございました」

部活が終わり、私は七華先輩と姉さんと一緒に帰ることになった。歩きながらしりとりをして姉さんがあっさり負けたり、コンビニでアイスを買って食べたり、この日の帰り道はいつにも増して青春だった。

...でも、私の中にあるわだかまりは今でも解けない。モヤモヤが頭から離れない。...悩んだ結果、私はダメ押しで2人にカフェのことを相談することにした。


「...ねえ七華先輩と姉さん、実はその、相談があるんですけど...」

「ん?なに?どした?」

「カフェコメットって――」

「カフェコメット知ってんの!?うち常連!あとゆなちんも前まで。」

前まで...?姉さんは元常連だったの?あそこの?

「姉さん...」

「うん。ほんと。良いとこだよね、そこ。」

...なぜか気まずくなって、それからは何も言葉を交わせないままあっけなくサヨナラしてしまった。

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