今度は貴方に希望を
蒼本栗谷
また会おうね
信じたくなかった。梓が、死ぬなんて。僕は受け入れられなかった。取り乱してしまった。逆に梓はすんなりと受け入れているように見えた。頷いて、目を閉じていた。
それを見て、僕は、なんて心の弱い男なのだろうと思った。
梓が入院してから僕は毎日見舞いに行った。奇跡が起こって梓は生きれる。そんな事を考えながら毎日病院に通った。
「いつもありがとう」
「いいんだよ、僕には、これぐらいしかできない、から。ああそうだ。今日の花はいいものだよ。スノードロップって言うんだけど、この花言葉がね――」
「うん。何?」
「希望。なんだ。大丈夫、梓は生きれるよ、大丈夫……だから……」
「……
そう言って梓は笑った。でも僕には僕を元気付けようと無理して笑っている気がしてならなかった。
それが酷く悲しくて、申し訳なかった。それから僕は見舞いに行かなくなった。
そうして三ヵ月が経った。ちゃんと話せないままお別れになってしまった。梓とはあの時以外会っていない。だから、生きてるのか死んでいるのか分からなかった。
――生きていてほしい。僕はそう思うしか出来なかった。
梓がいない生活は退屈だった。けど、梓はもういない。これからは梓なしで生きていかなきゃいけない。――さびしい。
そんな日常を過ごしていた時、ポストの一枚のCDが入ってあった。
「なにこれ? ……梓、から?」
差出人を見た瞬間僕は一目散に家に入ってCDを流し始める。
そこには病室で笑っている梓がいた。
「えーと、咲夜。今これを見てるって事は、私は死んだ……のかな? ふふっ、こんな置手紙残すとは思わなかったなぁ……」
「あずさ……」
「会社は行けてる? ご飯食べれてる? 私みたいに病院の世話になっちゃいけないよ?」
「……はは、なにそれ。そこを言うの?」
画面の梓は真剣な眼差しでカメラを見つめる。僕は思わずこの記録がいつのか病室をくまなく見る。
そして日にちが分かる物を見つけた。
最後に僕が梓にあげたスノードロップが瓶に活けてあった。あの後、梓はこれをとったんだ。僕が来ない事を分かっていたの?
「咲夜に言いたい事があるの。聞いてくれる?」
「……なに?」
「…………大好き。ありがとう。希望を持たせてくれて――――」
梓はそう言って笑った。その瞬間CDの再生が終わった。
うそ、ここで終わるのか? まだ、まだ梓と、もう一度再生しても同じ言葉が返ってくるだけ。
でも、何か違和感が感じる。何度も何度も再生してじっと梓を見つめる。
そして気づいた。梓は最後に何かを口ずさんでいる。
唇の形を読み取ろうと必死に何度も、何度も見てからようやくわかった。
――また会おうね
そう、梓は口ずさんでいた。それが終わると同時に再生が終わった。
僕は、呆然と再生が終わった真っ暗な画面を見ている事しか出来なかった。
僕の頬に、一筋の水だけを流して――
今度は貴方に希望を 蒼本栗谷 @aomoto_kuriya
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