第22話 無駄骨と依頼達成
「ふ、ふざけんじゃねぇー!!!」
ユイに手首を飛ばされた男は怒りで我を失っているようだ、もう片方の手で剣を引き摺りながらユイの元に距離を詰める。
「へぇ〜まだやる気があるんだ」
「死ねぇっ!」
バキィッ!
男が剣を力任せに振るった。しかしユイはそれよりはるかに素早いハイキックを繰り出して顎に直撃させた。
「その気力に免じて半殺しで許してあげるわ!」
『
顎への一撃でほとんど意識が無い男に向かって、ユイが全力の前蹴りを繰り出した。10メートルほど吹っ飛ばされて完全に意識を失った。
「で、あんたらは来ないの?」
後ろにいる4人の盗賊の男たちを挑発している。
舐めてかかれる相手では無いと理解したリーダー格の男は、囲んで全方位から攻撃するように指示した。
「僕達もいるってこと忘れてない?」
「1人減って3対4ならもう人数差も無いようなもの、諦めて逃げ帰ったらどうですか」
ユイの華麗な戦闘を眺めていた僕とティエリだったが、流石に前に出て戦闘参加の意思を示す。これで相手も引いてくれるかな?
「黙れ!俺たち"ドルトーネ"が舐められたまま帰れるかよ!」
「そうですか…じゃあ全員痛い目見てもらうしかないですね」
ティエリはそう言うと杖先を男たちの方に向けた、炎が杖先に渦巻き始める。男たちは剣を構えながら緊張に息を呑む。
『
ドゴォォォォォォン!
男たちの足元に向けて放たれた炎弾は地面で炸裂し、凄まじい爆炎を発生させた。
肌を焼くような熱風と共に小石がパラパラと爆発地点から飛んでくる。
「アチチ、全員跡形もなく消し飛んでないわよね〜?証明するものがなかったら懸賞金貰えないのに」
顔に当たる熱線を手で遮りながら、ユイは心配している様子だ。激しい音と炎に驚いて男たちが乗ってきた馬は全部逃げてしまった。
ヒュッ!
炎の中からキラッと光って飛んでくるものが、僕の視界に映った。
握っていた刀に魔力を込めてスキルを発動する。
『居合』っ!
抜いた刀身でなんとか飛来物を弾いた。正体は弓矢だった。
「あいつら飛び道具なんて持ってたのね、油断も隙もない奴らね…」
僕達3人は武器を構えて警戒をする。
しかし炎と煙が収まるとそこには誰もいなかった。
いつの間に逃げたんだ?辺りを見渡すが姿は見えない、ただ1人を除いて。
最初にユイが倒した男は置き去りにされたようだ。まだ意識を失っていたがその胸元には紙屑が丸めて置かれていた。
ティエリが紙を拾い上げて読み上げた。
『この借りは必ず返す。次はドルトーネの最高戦力がお前らの全てを奪い去るだろう』
「だっっっさ、ただの捨て台詞じゃない」
「盗賊団の下っ端があのレベルなら最高戦力もたかが知れてますね」
ユイはティエリの読み上げた置き手紙を聞いて呆れている様子だ。
それよりもずっと気になっていた。
「この人手当しなくていいの?手首からすごい血が出てるけど…」
この国の懸賞金の受け取りには、お尋ね者が生きていることが絶対条件なのだ。
「もっと早く言いなさいよ!」
そこからはとても大変だった。急いで男の応急処置を行ってから、意識の戻らない男を都市セラーナまでの遠い道のりの中3人で運んだ。
◇◇◇
「多分こいつに懸賞金は掛かってないぞ?外見が盗賊団の懸賞金リストに該当しないし相当下っ端だな。まあこいつの身柄は引き取らせてもらうよ」
都市セラーナの門を警備する衛兵によって、男は運ばれて行った。
「はぁはぁ…僕たちの苦労は一体…」
「なんの労力だったのよこれ…」
依頼を終えた後に一戦闘をこなして体力がほとんど残ってない中、さらに大の大人を1人運んだのにまったくの無駄足だったなんて。
ティエリに至っては一言も発せないほどだ。
ガランガラン
ギルドの扉を開けて疲労困憊の僕たち3人は、重い足取りで受付のカウンターへと向かう。
「依頼達成お疲れ様です、こちらが報酬になります!」
そう言って受付のお姉さんから報酬が入った布袋が手渡された、ずっしりと重く感じる。
「ところでみなさんすごくお疲れのようですが、一体何があったんですか…?」
「それは—」
「それはねぇ!!!!
僕が説明しようとしたところ、横からユイが割り込んで不満を晴らすように大声で説明し始めた。
「そうでしたか〜それは災難でしたね、次はこの人を捕まえてくるといいですよ!」
そう言って顔写真が載ったポスターが手渡された。
【ドルトーネ盗賊団 首領 ベン・ドルトーネ】
いかにもな悪人顔をした若い男が写っていた。下には懸賞金額も記載されていた。
500ドレール金貨+α
プラスαってのは何があるんだろう?
「とりあえず今日は家に帰って、明日魔石の鑑定を依頼しましょう…」
杖で体をなんとか支えているティエリの一声を受けて、僕たちは家路についた。
第22話 完
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