第17話 真価と新技
ザッザッザッと小石混じりの砂を、後ろに蹴飛ばしながら歩く。
僕たちが住んでいる【都市セラーナ】を囲う城壁を抜けて、さらに周りに広がる平原を東に超えたところに、今回の依頼の場所【ライメイ山】がある。
朝に出発して昼頃にようやく、山の森林地帯に入ることができた。
馬車も通るような道でそこまで傾斜は険しくないが、それでも山道であることには変わらないため、僕たちの体力を消耗させる。
「いたたっ」
歩き続けていると、足のかかとのあたりにヒリヒリと痛みを感じる。どうやら新しいブーツに靴擦れを起こしたみたいだ。
「大丈夫ですか?」
ティエリが立ち止まった僕を見て声をかける。そして少し考えてから提案する。
「いい時間ですし、休憩とお昼ご飯にしましょうか」
「やった〜わたしはもうお腹ぺこぺこよ」
ユイは城壁を抜けたくらいからずっと空腹を口に出していた。
そのことについて僕が言及すると、今朝はパン2枚しか食べてないから仕方ないじゃないと言っていた。
パンの他にもベーコンエッグを2人前平らげて、デザートは別腹とばかりにフルーツも食していたような…
近くの丸太に腰をかける。ブーツを脱ぐと足のかかとが擦り傷のようになっていた。
「足をこちらへ置いてください」
そう言うとティエリは膝に僕の足を乗せた。そして僕のかかとに丸い葉っぱを押し付ける。
「これはルマの葉と言って薬草の一つで、道中に生えていたので採取しておいたんです。傷口につけるだけでも痛みがマシになるはずです」
微笑みながらティエリが説明する。確かに痛みが和らいだ気がする。
「ありがとうティエリ」
昼ごはんは家から持ってきた手製のサンドイッチだ。
トマト、レタス、ハム、チーズを特製ソースを塗ったパンで挟んでいる。
サンドイッチを頬張りながら、空腹と運動は最高の調味料という言葉を実感させられた。
「それにしへも今回の報酬はすほいわよね、金貨9枚に銀貨11枚。
「口の中のものが無くなってから話したらどうですか?」
ユイがサンドイッチを食べながら言葉を発すると、少し呆れたティエリに注意されていた。
「まあおそらくこの先に人口1000人ほどの小さな城郭都市『ライヌ』があるからでしょうね」
「都市と都市を結ぶこの道の危険を、一刻も早く取り払いたいのでしょう。サンダーグリフォンに襲われたら、商人なんてひとたまりもないですから」
もともとライメイ山にはサンダーグリフォンは住んでいなかった。
しかしその名の通りに天候が荒れやすく、雷が頻繁に落ちるこの山を好んで最近住み着いたようだ。
休憩を終えた僕たちはさらに山の道を登り進める。それと共に辺りの様子も変化してきた。茂みは濃くなり、木々は日光を遮って薄暗くなっていく。
「天候が変わってきた?だいぶ空が暗くなってる」
「森の中なので余計に辺りが暗くなってますね。さらに雨でも降りだしたら厄介です」
ティエリは杖の先に光を灯して、周囲の警戒をしながらさらに進む。
ガサガサッ!
道の横の茂みから物音がする。物音の方向に向けてティエリは杖を向けるが、正体を見ることはできない。
ガサガサ!ガサガサッ!
気づけば物音が僕たちの周囲に広がっていた。何かに包囲されている。獣の匂いが鼻を刺激する。
僕とユイは腰に差した剣に手をかけて、2人でティエリを挟むようにして道の左右を警戒する。
「もう分かっているかも知れませんが、私の適正魔元素は火です」
「しかし森の中では火の攻撃魔法を使うことはできません。ここは2人に任せます」
今まで見たティエリのスキルは全部火の属性だった。
だから火の魔法が得意なのだろうとは、前から思っていた。
しかしおそらく複数いる敵に対して、高火力で多数の手段を持つティエリが、攻撃参加できないのはかなり痛い。
そんなことを考えていると、「心配いらないわよ、そこら辺の獣なんて私1人で十分よ!」とユイが大きな声を発する。
そしてが剣を抜いた。このあと僕は、
バサッ!バサッ!
ユイの前方の茂みから、二つの黒い物体が飛び出してきた。それと同時にユイもスキルを唱える。
『
ユイが発動したこのスキル、鍛冶屋にいた冒険者の男も使ってたような。
「そりゃぁっ!」
華奢な腕から繰り出されたとは思えないほどの、素早く重い横薙ぎ。
ズバッ!
たったの一太刀で2匹の獣を切り裂いてしまった。
すごい…って
まだ茂みの中に獣の気配がする。僕も前方に意識を集中させる。
そして腰に差した刀の鞘を左手で抑え、右手で
僕は頭をフル回転させて必死に思い出す。鍛冶屋の店主が教えてくれた、刀の使い方を。
初歩にして、最速の剣技『居合』
店主はこうも言っていた。「敵の攻撃のカウンターにおいては、『居合』を超える剣術はない」と。
第17話 完
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