第18話 群狼と雷光
「ありがとう!」
今朝、僕が感謝を述べて鍛冶屋を出ようとしたとき店主に引き止められた。
「坊主!お前のパーティーには刀を使う奴はいるか?」
店主にそう聞かれてユイとティエリの姿を思い浮かべる。
ユイは変わり映えのない剣を腰に装備していた。ティエリは魔法使いなので言わずもがな杖を装備している。
考えたがパーティーにはいなかったため、そのことを店主に伝えた。
「そうか、ちょっとその刀を貸してくれ」
僕は【無銘ノ太刀】を店主に渡す。すると店主は僕に少し離れるように指示した。
店主は刀の柄に手をかけて重心を落とす。魔力がゆっくりと刀に集中していくのが見える。
何かのスキルを繰り出そうとしているのか?
バシュッ!
その瞬間、空気を裂くような音共に、目では捉えきれないほどの素早い抜刀が繰り出された。
「これは刀の初級スキル『居合』と言って、俺みたいな魔力が少なく才能のない奴でも使える」
「使おうと思えば誰でも使えるが、極めるには時間と才能がいる。まあ刀を使うならこのスキルは覚えとけよ」
◇◇◇
店主の見せてくれた技を脳内で思い出しながら、刀に手をかけてその時を待つ。
今確認することはできないが、音などから察するにユイは新たに出てきた獣と戦闘中のようだ。
ここで僕の前から出てくる敵を後ろに逸らしたら、そのまま後ろにいるティエリが攻撃されてしまう。
絶対に失敗するわけにはいかない。意識を集中させる。
ガサガサッ バサッ!
僕の前方から黒い獣が、今にも僕を噛み裂かんとして飛び出してきた!タイミングは今だ!
刀を握る手に力と魔力を込める。
『居合』っ!
ズババッ!と肉が断ち切れる音がした。スキルはしっかりと発動し、高速の抜刀によって獣の体を深く斬りつけた。
ユイのように真っ二つとはいかないが十分な致命傷を与えたようで、獣はギャウッと鳴いて地面に落ち動かなくなった。
その後、前方から出てきたもう1匹の獣に刀でダメージを与えると、後ろではユイに5匹も倒され戦況が不利だと判断して獣達は撤退した。
「どうやら引いていったようです。2人ともお疲れさまです」
「やっと終わり〜?さすがに
ユイは疲れたとは言っているが、5匹相手にしておいて息が少ししか乱れていない。さずかは
ユイの足元には獣の残骸が多数転がっている。
この襲ってきた獣達は
今はまだ夜じゃないが、黒い雲が出て辺りが暗くなってきた為、狩りの時間だと思って起きてきたのだろうか。
「
ユイがティエリに聞いているが、その時僕に一つ疑問が生まれた。
「皮って八つ裂きになってても売れるの?」
ユイの倒した
「しょ、しょうがないじゃない!ちょっとテンションが上がってやり過ぎちゃったのよ!」
ユイは
「それなら皮を剥ぎ取れそうです」
ティエリが指をさしている。その先にあるのは僕が倒した個体だった。確かにユイほどの豪剣を振るったわけではないので損傷が激しくない。
ここは山の中なので少し探せば小さな沢が見つかった。そこで
「これ、本当に僕がやらないとダメ?」
恐る恐るナイフを持って、亡骸の前に立った僕はティエリに聞いてみる。
「ダメです。冒険者として生きていくなら慣れないといけませんよ」
生き物の解体なんて産まれてこのかたしたことがない僕は、ティエリとユイの指示を聞きながら慣れない手つきで解体を進める。
結局皮を剥がして、肉を部位ごとに分け終わったのは数時間後だった。
「よく頑張りましたね」
そう言ってティエリは僕の頭を撫でる。
「まあ初めてにしては上出来じゃない」
ユイも一応褒めてくれているようだ。
ポツン ポツン
3人のリュックに分けて収納した後に、僕の顔に大きな雨粒が当たる。さっきから吹いている風もとても冷たい。
おそらくこれから嵐が来るのだろう。
「どこか雨宿りできる場所を探しましょう」
ティエリの指示で辺りに雨宿りできる場所がないかを探す。
そして小さな洞穴についた頃には外は大雨になって、ゴロゴロと雷が鳴っていた。
朝は雲ひとつなく晴れていたのに、山の天候は本当に変わりやすいんだな。
もう夕方だし雨も止む気配がないので、僕たちは今日はここで一泊することに決めた。
今日の夜ご飯はさっき解体した
ユイは洞穴の奥で毛布を被って仮眠している。
料理が出来上がるのを待つ間に魔力量の確認のため、目の前にパネルを開いてみる。
すると新しいスキル『居合』が増えていた。
店主が見せてくれた『居合』は僕のより剣速が速かった。もっと磨いていかないとダメだな。
安心できる状況で一息つくと、なんか急に眠気が来た…
「ご飯、できましたよ」
そう言ってウトウトしていた僕は、トントンと肩を叩かれてティエリに起こされる。ユイはもう仮眠から目を覚ましたようだ。
ティエリの持ってきた鉄板の上には、ハーブが添えられた大きなステーキが、食欲をそそる香ばしい香りをしている。
それともう一つ鉄鍋を持ってきた。そこには骨付き肉を、そのまま煮込んで出汁を取ったスープが湯気を立てている。
「「「いただきます!」」」
石のテーブルに料理が載せられると手を合わせてからすごい勢いで食べ始めた。
流石に一日中歩いていたので空腹だ。
ステーキには狼の独特の匂いを和らげるためにハーブと、数種類のスパイスが使われているようだ。咀嚼すると肉の旨みが溢れ出してきて美味しい。
スープはすごく出汁が出ていて、ほろほろになったお肉も美味しい。少し冷えた体に染み渡る。
ご飯を食べ終わった後、明日に備えて寝る用意を始めた。リュックから毛布を取り出して、洞穴の入り口にはモンスター避けの護符を貼る。
キュオオオオッ
遠くの方で雷光と共に魔獣が鳴き声を発した。山々に響き渡る。
おそらくこの声の主が今回の依頼の目的、サンダーグリフォンだとティエリが言っている。
雨がより一層降りしきる中、僕たちは眠りについた。
第18話 完
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