第12話 突然の来訪と鍛冶屋

 ガチャ、家の扉が開く。


 「ティエリいる〜?」


 誰だろう、家に入ってきてティエリを呼んでいるこの人。175センチ程の高い身長に、白い髪にウェーブがかかった若い女の人。


 女の人と目が合う。今日は朝からユイとティエリの2人はギルドに行っていて、家にはいない。


 今日は2人のパーティーに入って2日目。

 僕はまだ体の調子が万全ではないため、一緒に行くことを2人に止められた。そこまで重い依頼は受けないとは言っていたが。

 そして今昼ごはんをどうしようか迷っていたところだ。


 「あれ、君は一体誰かな?」

 

 女の人は家にいる僕に問いかける。



 「僕はティエリのパーティーメンバーのリュウシンです。その白い髪、もしかして〜ティエリのお姉さん?」


「お姉さん?フフン、私はねぇ」


ニコリとしながら女の人は答える。


 「ティエリのママなんだ」


 ええぇ〜〜〜〜〜〜!?若い、とにかく若い。ティエリを産んだ母親の年齢にはとてもじゃないけど見えない。

 

 あとティエリは僕より身長が少し低いのに対してティエリママは全然僕より高い。


 唖然としている僕にティエリママは提案する。


 「君もうご飯食べた〜?今君しかいないならさ、1人でご飯もあれだし食べに行かない?」



 こうして僕は迷宮ダンジョンから帰還後、初めて外に出掛けることになった。


 家から街の中心地に向かって歩く。レンガ造りの家や店に挟まれた石畳みの通りを、大勢の人が行き交っている。

 

 ヤスイヨー!獲れたてのセイリュウサケ3匹1ケレール!ハニーアップルのリンゴ飴1つ2カール!

 (この世界での通貨は10カール銅貨で1ケレール銀貨、25ケレール銀貨で1ドレール金貨になる。)


 行商人が通りのあちこちで商いを行っており、食べ物の屋台なども出ていて活気に満ちている。


 産まれて初めてだな〜こんなに街の中心に来るのは。奥にそびえ立ってるのが大都市セラーナの領主の城かな?


 街の様子に見惚みとれながら歩いていると、店に着いたみたいで店内に入る。昼時で店内はほとんど満席になっており賑わっている。


 「リュウシン君は何食べる?私はこれ、セラーナに来たら絶対にこのパスタ食べるんだ」


そう言ってメニューにある[ナゾレアサリのボンゴレビアンコ]を指差す。


 僕はヒンメル牛挽肉のミートソースパスタにした。


 料理を待つ途中、横の席の会話が聞こえてくる。


 「南の方にある迷宮ダンジョン、あれ崩壊したって知ってるか?」

「らしいな、入り口から一歩たりとも入れないってギルドの連中に聞いたぞ」


 横の会話を聞いたティエリママが僕に話を振る。


「リュウシン君、君も冒険者なら知ってるよね?崩朽迷宮ダンジョンが無くなったって噂。正確な調査はまだらしいけど事実みたいだね」


 「これまた噂なんだけどあの迷宮ダンジョン、誰かに制覇されたんじゃないかって」

「この都市にある冒険者が数十年かけても攻略できなかった迷宮ダンジョンがだよ?」


 「そうなんですか?僕冒険者になったばかりなんであんまり詳しくなくて」


 迷宮ダンジョン制覇したの多分僕だけどとりあえず誤魔化しておいた。


 「最近冒険者になったんだ〜じゃあ冒険者学校とか卒業したばかりかな?」


「実は僕学校とか行ったことなくて…」


僕はスラム街での生い立ちを説明する。話を終える頃にはティエリママの顔は涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃになっていた。


 「そ゛う゛な゛ん゛た゛ぁ゛〜く゛ろ゛う゛し゛た゛ん゛た゛ね゛ぇ゛〜」


 涙を拭きながら枯れた声を出す。周りの客も少し引いている。


 「へい、おまちどう!」


 ティエリママが少し落ち着きを取り戻した頃、店員が料理を運んできた。美味しそうな見た目と匂いに感動する。

 スラム街に住んでいた頃と、まったく違う食生活に戸惑いすらある近頃。


 「いただきます!」


 美味しい。ジューシーな挽肉に食欲を刺激するスパイスの香り、タマネギの香ばしさとトマトの酸味がアクセントとなってフォークが止まらない!


 一心不乱にパスタを食べている僕をずっとティエリママが眺めている。


 「決めた、私今日からあなたのママになる!」


ゴホッ!いきなり突拍子もないことを言い出すので吹き出してしまった。



 ◇◇◇



 ご飯を食べ終わり店を出ると、デザートと称して露店に売ってある色々なスイーツを買い与えられた。

 

 「どこか見たいお店ある?せっかくだしママがなんでも買ってあげる!」


 すっかりお母さん気分のティエリママが提案する。


 「じゃあ、冒険に必要な装備を見に行きたいです!」


 2人は街の中心地から少し遠ざった鍛冶屋の入り口についた。店の裏手には武器などを試す為の訓練場がある。


 ガランガラン!


 店の中に入ると様々な剣や盾、斧などが売られている。手前には1本3ケレールと書かれた剣が、樽にまとめて入れられている。


 武器だけでなく鎧なども置いているようで、天井から黒く重そうな鎧が吊るされていた。値札は35ドレールって書いてある…とてもじゃないけど買えないや。


 「そういえばリュウシン君は何で戦うの?剣?それとも—」


 声を遮るように店の中にいたガタイのいい2人組の男が声をかけてきた。


 「おいおい、ガキがこんなとこになんのようだ?」


「お姉ちゃんについて来てもらって何を買うんだ?お料理用の包丁はおいてないぜ?」

 

 ニヤニヤと笑いながら絡んでくる、男たちの矛先はティエリママの方に向かう。


 「こんなひょろい弟なんか放っておいて、俺たちと冒険行かないか?」

「俺たちついこないだ黒金アイアン級に上がったんだぜ?」


 男の1人が僕を掴み、押し飛ばす。


 「おい!お前ら、その人は—」


店の奥から出て来た店主であろうスキンヘッドの男が止めようとするが遅かった。ティエリママの怒りは頂点に達していた。


 「あなたたち、表に出なさい」



怒り方はティエリにそっくりだと思った。




 第12話 完





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