第11話 帰還と新しい門出

 チュンッ チュンチュン


 鳥の鳴き声と眩しい日光を感じる。もう朝か、今日もまたゴミ山漁りの1日か…


 なんて思いながら瞼を開けるとそこには、赤い髪の女の子が顔を覗き込んでいた。誰だろうこの子—


 「お、おきたーっ!リュウシンがおきたわよ!」


 すごい大声で頭にガツンと衝撃を喰らったようだった。


 ベットから起きて周りを見渡す。見覚えのない綺麗な部屋、どうやら人の家みたいだ。

 少なくともスラム街のゴミと悪臭に埋もれた寝床ではない。


 ドタタタタタタ!


 階段を駆け上がってくる物音がして、すぐに部屋の扉が開く。そしてそこから現れたのは、白く長い髪が日光に当たってキラキラ反射している女の子。


 表情は今にも泣き出しそうな顔でこっちを見ている。


 起床してすぐで回らなかった頭が動き始めると、何があったかを思い出してきた。


 「ティエ…」


言い終わる前にティエリが僕を強く抱きしめる。ティエリの涙は溢れ出し止まらなかった。それにつられて僕も泣いてしまった。


 そしてその横で赤い髪の女の子、ユイが顔を赤らめて見ている。


 

 そう、僕たちは迷宮ダンジョンにいたんだ。

 そして強敵との連戦、死んでも全然おかしくなかった。でも生きて帰って来れたんだ。

 

 「ティエリとユイさんが無事で本当に良かった」


 「あなたが1番無事じゃなかったわよ!」


 ユイが大声でツッコミを入れる。ティエリも頷く。


 「迷宮ダンジョンから外に転送された後、あなたの身体の傷口が開いて大変だったんですよ」

 「すぐに修道院に運んでもらってユイは1日で意識を取り戻したんですが、リュウシンはなかなかだったので私達の家に運びました」


 ん、僕は1日以上寝てたってこと?


 「じゃあ僕は何日寝てたの?」


「1週間も寝てたのよ!ティエリはずっと心配そうな顔してるし」


 ユイが笑いながら答える。


ユイさんは魔人アスモデウスに体を操られて、全身ボロボロだったはず。だが笑いながら元気そうに話す姿にはその影響は感じられない。


 「ユイさんは体の怪我大丈夫なの?」


 「たいていの怪我は修道院で回復スキルを使ってもらって一晩寝れば治るわよ」

 「まあアスモデウスって野郎には仕返ししてやらないといけないけどね」


 僕が聞くとユイさんはさも当然のように答える。


 「ところで何で私にはさん付けなの?ティエリは呼び捨てなのに」


 確かに何でだろう。迷宮ダンジョンにいた時は必死でそんなこと考えたことなかった。


 「べ、別に呼び捨てでもいいわよ、ティエリと一緒にわたしを助けてくれたらしいし」


 ユイがモジモジしながら言う。


 「ユイ!」


 名前を呼んでみる。またユイの顔が赤くなり固まる。

 微妙に気まずい時間が流れる。

 


 「リュウシンも起きましたし朝ご飯にしましょう」

 

 気まずい空気を断ち切るようにティエリが笑みを浮かべながら朝食の提案をする。


 1週間寝たきりの代償として体の筋肉が落ちている。ティエリに支えてもらいながら部屋を出る。


 この家は2階建てで吹き抜けになっていて、2階は寝室が2部屋ある。僕たちが出てきた部屋がティエリの部屋で、横がユイの部屋である。


 木製の階段を降りる。観葉植物が多く飾られている。そして天井近くの窓から差す光がリビングを照らしている。

 

「すぐに作るので待っててください」


 ティエリとユイはリビングの奥の台所の方に向かった。

 木製のイスに座ると窓の外が見えた。人が行き交っているのが見える。街の中心地に近いのかな。


 トントントントン ジュジュ〜


 台所から料理の心地よい音と匂いが流れてくる。


 できた料理を2人が運んでくる。


 「あなたは絶食明けのようなものなので胃に優しい料理にしました」


丸テーブルには僕用に味の薄いスープ、2人の食べるベーコンエッグトースト、サラダ、フルーツなどが並ぶ。


 人と食べる朝ご飯、いつぶりだろう。お母さんが生きていた頃以来かなあ。なんて考えながら鶏のスープを飲む。

 

 「リュウシンの傷はほとんど完治しましたが、1週間は安静にとのことです」


ティエリがトーストをかじりながら話す。

 

 「分かった、じゃあ僕は1週間後に帰るよ。それまでここに居ていいかな…?」


僕は尋ねてみる。


 「リュウシンには帰る家があるの?ティエリに聞いたけど、スラム産まれで親も昔に死んでもう居ないって…」


ユイが恐る恐る聞く。


 「まあ家ってもんでも無いけどね。親が死んでからほとんど帰らなくなったし、寝るだけの場所って感じ」


 スラムでゴミを漁り、その日生き抜くのに必要なお金を稼ぐ、寝床に帰って寝る。

 そんな生活にもすっかり慣れた。




 「リュウシン、あなたさえ良かったら私たちのパーティーに入りませんか?一緒に暮らしましょう」


 「そうよ、一緒にこの家に住んだらいいのよ!」


 ティエリの唐突の提案にユイが同意する。


 「でも、僕なんかがいいの…?」

 

 「迷宮ダンジョンを共に生き抜いた仲間じゃないですか」


「ありがとう—」



こうして僕はティエリとユイのパーティーに入ることになった。


 僕は涙を堪えながら、朝ごはんを食べ終えた。




 第11話 完





 11話見ていただいてありがとうございました!

 迷宮編は終了し、ここから新しい展開へと進んでいきます!

 これからも応援よろしくお願いします!

 星、いいね、フォローがすごい励みになります!


 あと僕のアカウントをフォローしていただくと近況ノートで更新状況などが読めますすすす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る