第10話 解放と迷宮の崩壊
2人とアスモデウスの間に沈黙が生まれ、緊張が走る。
アスモデウスの表情はすこし笑っているように見える。
一触即発の状況、しかし対抗手段がない。先ほどの戦闘で僕とティエリの魔力は底をついている。もはやなんのスキルも発動できないないだろう。
それに僕の身体がボロボロなことに加えて、スケルトン
だが、ユイさんは操られている。精神操作系のスキルでも使っているのだろうか。それだけでも何とかして解除しなければならない。
「ユイ!私です、聞こえていますか!聞こえているなら返事をしてください!」
ティエリは精神を操られているであろう、ユイに対して必死で語りかける。
「無駄だよ。僕のスキル『
アスモデウスは笑いながら答える。
「あなたを絶対に赦さない…」
ティエリの怒りはふつふつとマグマのように煮えたぎっている。
「ふ〜ん、で今の君になにができるの?もう魔力も残ってないでしょ?」
アスモデウスは他人の魔力量を確認することができるのか?それともブラフか?
「まあ試してあげるよ。行け、僕の可愛いボロ人形ちゃん」
アスモデウスがティエリに指を差して言う。すると奴の横にいるユイがティエリに向かって剣を構えて走り出す。
「ティエリ!」
ティエリと距離が離れていて、僕のこの身体では間に合わない!
「きゃぁっ」
ティエリはユイの剣の横薙ぎをかろうじて杖で受けるがとても威力が強く、受けきれずに10メートルほど打ち飛ばされてしまった。
「ほら、スキルでガードすることすらできない」
アスモデウスは笑みを浮かべる。
「そんな…」
ティエリが小さく声をあげる。
見ると剣をまともに受けたティエリの杖が折れていた。
僕は重く痛む身体を引きずるように、ティエリの前に向かう。そしてアスモデウスに折れた剣を向ける。
さあ、どうするここから…
「やめやめ!戦いはもうおしまい!僕は今日君たちと戦いに来たワケじゃないんだ」
そう言うとアスモデウスが手を掲げてぶんぶんと交差している。
今さら何を言ってるんだこいつは。
「今さら何を!」
ティエリが僕の心の中と同じ言葉を発する。
「ちょっと可愛がってあげたくなっただけだよ。もうこの子も返してあげるからさ、ほら」
アスモデウスがそう言うと、ユイの体を吊り下げていた糸が切れたかのように地に崩れ落ちる。
「ユイ!」
ティエリと僕は急いでユイの元に向かう。
ユイの身体を見ると剣を持つ腕があきらかに折れている。それに足も裸足で擦り切れている。
肩は脱臼して、全身傷だらけである。
「ごめんね!僕のスキルで操ると全身を無理矢理動かすワケだからさ、人間の体じゃ耐えきれないんだよね」
「でもこの子頑丈だね、人の形を保ててるだけでもすごいよ」
「ユイ!ユイ!!」
ティエリにアスモデウスの声は聞こえておらず、倒れたユイに必死に声をかけている。
僕はユイの元に
………
よかった。死んではいないみたいだ。
「ティエリ大丈夫、脈はあるから早く医者に見せればなんとなる」
ユイをティエリに任せて、僕はアスモデウスに問いかける。
「アスモデウスは戦いに来たわけじゃないって言ってたけど、じゃあ何をしに来たの?」
「う〜ん、散歩?」
何か嘘くさい。僕はスラム街で人の悪意や嘘を嫌と言うほど味わってきた、だから何となく嘘を見分けることができる。しかし本当の目的がわからない。
「じゃあ何でユイさんをあんな目に遭わせたんだ」
「モブのモンスターって知能が低いからさ、僕に向かってくるんだよね。だから露払いする駒が欲しかっただけ」
「ユイちゃんって言うんだっけ?起きたらごめんねって僕の代わりに謝っといてね」
アスモデウスは笑いながら話す。
アスモデウスの言葉には心がこもっていない。彼の口から発せられる軽口に苛つきが抑えられない。
そんな会話をしているとアスモデウスはこっちの何かに気を引かれたようで僕の方を凝視している。
「やっぱり、久しぶり!しばらく会ってなかったけど姿が前と大分変わってるね」
アスモデウスは僕に向かって言う。
正確には僕の持つ腕の骨、『
「君、この腕の骨について何か知ってるの?」
「古い知り合いってだけだよ、もちろんこんな姿になる前の話だけどね」
ガタガタガタガタ!
突然、
「おっとそろそろ時間だ。
初めて知った、ここは
いや今はそれどころじゃない、ここが跡形もなく崩れるって。
「じゃあ僕は行くね。
そう言うとアスモデウスは影となって消えてしまった。
「ティエリ、どうしよう!この
ティエリが
ドゴン!ドゴン!天井から大きな破片が崩れ落ち、大きな音を立てる。
どんどん
その時、僕の手に身につけた指輪が紫に輝き始めた。
これって最初に
「ティエリ、こっちに来て!」
僕は意識のないユイと走ってきたティエリの手を掴む。その瞬間光に包まれ、激しく視界が回る。
第10話 完
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