第6話 決意と階層の主

 仮眠から目を覚ますとすぐ、目の前にパネルを開き魔力量を確認する。魔力ゲージは4分の3まで回復していることが分かった。

 

 さすがに4時間の睡眠では、全ての魔力を回復することはできないらしい。


 すると横で物音が聞こえる。


 「あれ、ティエリもう起きてたの?」


「はい、といっても15分ほど前ですが。昨日の鍋の残りを食べてから行動を再開しましょう」


  ティエリは寝癖のついた白く長い髪をクシで解きながら、器用にもう片方の手で火にかけた鍋を混ぜる。


 

 -------



 「隠し部屋の四隅に貼ったモンスター避けの護符、あれ回収しないの?」


「あれは1ヶ月ほど使用したのでもう効力が残ってません、だからいいんです」


2人は用意が終えると隠し部屋を出発し、再び迷宮ダンジョンの闇の中を進んでいく。


 迷宮ダンジョンを進むにつれて、道幅が狭くなっていくのを感じる。そして地面が石畳へと変化していく。


 そしてついに、巨大で重厚な扉の前に辿り着く。否が応でも感じる、何かがいる。


 ティエリは杖を強く握り締め、緊張した面持ちで語る。


 「おそらくこの先にいるのは5層ごと、転送の古代装置オーパーツの前に存在する"フロアボス"です…倒さないと先には進めません」


「ボスは基本、倒されたら再び出現することはありません。そのため現在私たちがいる層は20層以下、の階であると断定することができます。そしてフロアボスの能力ちからも当然未解明です」


「とても危険です…だから貴方は別の道を探してください、私は1人で行きます」


 ティエリは一緒に迷宮ダンジョンに来た仲間 ユイのことがすごく心配なんだ。少しでも早く合流するために能力も分からないボスを倒そうとしている。しかも1人で、僕を巻き込まないように。


 ティエリがいなかったら僕はもうとっくに死んでいただろう。だから僕は—


 「一緒に行くよ、僕も早く帰りたいし」


僕は笑顔を見せる。


 「リュウシン、この先どれだけ危険か分かっているのですか!?」


 「うん、でもティエリを放っておけないよ」


  …


「ありがとう—」



 2人は意思を固めると扉の前に立つ。すると音を立てて巨大な扉が開く。


 部屋の中はすごく広い空間で柱が等間隔に並び、高い天井へと繋がっている。しかしフロアボスは見当たらない。


 「あれ、何もいない」


 ギィ〜〜〜ドゴンッ!


 後ろを振り返ると先ほど入ってきた扉が閉ざされていた。


 「閉じ込められたってことかな?」


「えぇ、そのようです」


 

 ゾゾゾゾゾ


 今までに感じたことのない悪寒を後方から感じる。


 振り返って再び部屋の中央を見ると、そこには黒いマントを身につけた5メートルはあるだろう骸骨がいた。

 手には背よりも巨大な鎌が明かりを反射して鈍く光っている。


 さっきはいなかったのに、どこから現れたんだ。


 「骸骨で黒いマントを纏い、そして鎌を身につけている。あれはおそらく死神グリムリーパー、神話でしか聞かないモンスターです」


「その鎌に刈り取られた魂は、2度と輪廻に回帰することがないと言われています」


 ティエリは杖を構えて戦闘体制に入っている。


僕の16年間の危険なスラムで生きてきた経験と本能が告げる、に攻撃をさせたらダメだ。一撃で仕留めなければいけない。


 「ティエリ、様子見は無し。初手から最大火力でいこう」


 僕は賢者の腕サージュボーンを右手に強く握る。


 「はい、少し離れてください。私の49の所持スキルの内、最高火力のスキルを準備をします」


ティエリは外套ローブの内から腰に着けている小瓶を取り出して飲み干す。


 横にいてもティエリの魔力が膨れ上がっていくのを肌で感じる。おそらくバフをかける類のポーションなのだろう。


 そして杖で宙に炎の文字を描く。古代文字のようで僕には読めない。その文字を円で囲う、その先には死神グリムリーパーがいる。


 そろそろだ。僕も腕を振り上げる。


 『古代神炎龍砲イフリートキャノン』!


 ティエリがスキルを唱える。

 

 『賢者の腕サージュボーン』!


 僕も今まで放った2回を上回る魔力を込めて腕を振り下ろす!

 

 ティエリの放ったスキルは炎の龍のような姿で死神グリムリーパーへと突き進む。


 僕のスキルは地面をえぐりながら、見えない力が一直線に死神グリムリーパーへと向かう。


 50メートル程先、死神グリムリーパーが巨大な鎌を振り上げる。そして振り下ろすと同時にスキルが直撃する。


 離れていてもすごい威力の爆発が熱風、衝撃波となって2人を襲う。爆心地の近くの柱が崩れ落ちる。


 死神グリムリーパーがいた場所に炎が柱のように立ち昇る。


 「はあっはあっ」


 激しく息を切らしている。無理もない、ティエリはドーピングをして放った一撃。相当消耗している。

 それにしてもすごい威力だ。


 これで殺れていなかったら…






 ザンッ!


  炎の柱が


 中から以前健在である死神グリムリーパーが姿を見せる。


 「そ、そんな。2人の最大威力のスキルを」


うそだろ…


 2人のスキルが直撃する寸前、死神グリムリーパーは鎌を振るっていた。

 鎌は大気を断ち、真空を作り出していたのだ。その結果スキルの威力は半減していた。


 

 絶望のラウンド2が幕を開ける。



第6話 完





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