第5話 激闘と迷宮飯

 僕が前衛として前に立ち火焔付着エンチャントファイアしたスケルトンサーベルを構え、ティエリが後ろで後衛として杖を構える。


 アーマードタイガーが間合いを図るようににじり寄る。そして均衡は急に破られる。


 『多弾小火球マルチファイアボール


 ティエリの後方に多数の炎の塊が浮遊する。


そしてティエリはそのまま多数の炎の塊をアーマードタイガーに放つ。


 このタイミングだ!


 僕は魔法の射出と同時に間合いを詰める。


 戦闘方針はティエリが魔法によって足止めしている間に、僕が近接で仕留めるという単純なものだ。


 しかしモンスターとの近接戦闘経験の一切ない僕にやれるのか—いや、やるしかない。


 『多弾小火球マルチファイアボール』をアーマードタイガーは避けようとするが、数が多く数発避けきれずに命中する。


 魔法が炸裂すると炎と煙によって、アーマードタイガーの視界が奪われる。


 しかし前方から急接近する僕に向けて、苦し紛れに前脚で攻撃する。


 ヒュンッ!ヒュンッ!


 鋭い爪に素早い攻撃…当たれば紙切れのように切り裂かれるだろう。


 しかし視界を奪われた攻撃は空を切るだけで、なんとかかわして近づくことができた。


 アーマードタイガーの首元の鎧と鎧の関節部分を狙い、剣を振るう。


  ザクザクッ


 アーマードタイガーから血が吹き出す


 スケルトンサーベルの切れ味の良さか、火焔付着エンチャントファイアの威力のおかげか刃が通る感覚を手に感じた。


 このままやれる!うおおおおおおおお


 さらに腕に力を込める。

 しかしこれ以上刃が通らない。


 視界を取り戻したアーマードタイガーはこちらを睨む。


 まずい、殺られる—


 スラム街でのロクでもない思い出が走馬灯となって蘇る。


 「リュウシン!」


 後方にいるティエリは選択を迫られる。

あのままではリュウシンは殺される、しかし小火球ファイアボールでは威力が足りないし、それ以上の威力のスキルを使えばリュウシンを巻き込んでしまう。

 

 一か八か、せめて一瞬でも止めることができたら。彼は何とかするはず。


 『小火球ファイアボール


 ティエリの放った小火球ファイアボールはアーマードタイガーの頭に直撃する。


 ありがとうティエリ、おかげでひるんでくれた。


 『ガラクタ収集』発動!


 僕とアーマードタイガーの直線上にある戦闘前に呼び寄せた巨大な石碑が、猛スピードでこちらへ向かってくる。


 僕はひるみ状態から復活したアーマードタイガーから刃を引き抜き、とっさに横に飛びのく。


 ドゴォーン!


 巨大な石碑は『ガラクタ収集』の僕への誘導を切った後も慣性によってアーマードタイガーに激突し、後ろ脚を残してそのまま壁にめり込んだ。


 はあっはあっ、マジで危なかった。


 「リュウシン!無事ですか!」


ティエリが駆け寄ってくる。


 「なんとか無事だよ」

 

 緊張から解かれた安堵で笑みが溢れる。


 「流石に消耗してますね、そろそろ野営しましょう」


 ティエリもモンスターハウスからここまで、かなりのスキルを使用して魔力量を消耗しているはず。


 「そうだね!」




 2人は焚き火を囲う。

 

「それにしても運が良かったね、こんな場所が見つかるなんて」


アーマードタイガーの戦闘前、石碑が穴を開けた通路の壁の先に隠し部屋を発見したのだ。


 「でも迷宮ダンジョンで火を焚いていいのかな?モンスターとか寄ってこない?」


「それは問題ありません。冒険者は迷宮ダンジョンに入る前に、簡易のモンスター避けの護符をギルドから買わされますから」


 それを10メートル四方ほどの隠し部屋の四隅に貼っている。


 「迷宮ダンジョンには各層に数個ほど休息ための隠し部屋が存在するって知っていますか?部屋には必ず泉が湧いていて飲み水を確保することができるんです」


 迷宮ダンジョンの深層へと潜ろうとすると1ヶ月以上は無補給になる。安全な飲み水があるというのは大きな利点だ。


 お、いい匂いがしてきたぞ


 「そろそろできますよ」


ティエリは火にかけていた鍋の蓋を開ける。


 中にはぐつぐつと肉と少しばかりの根菜が入った鍋が湯気を立てる。


 「冒険者ってモンスターも食べるんだね、何というか意外。ティエリはあんまり好きじゃなさそうだけど」


「モンスターの肉も貴重なタンパク源ですから」


先ほどの戦闘で石碑に潰れたアーマードタイガーの、唯一無事な後ろ脚を料理したのだ。


 「うん!美味しい!」


独特な風味がするお肉、硬いかと思いきや案外柔らかくジャーシー。噛めば噛むほど旨味が口に溢れる。

ティエリの持参したスパイスが食欲を引き立てる。


 ティエリの迷宮ダンジョン飯のほうがスラムで食べていたご飯よりよっぽど美味しいや。


 ティエリがこっちをジッと見つめているのに気がつく。


 「どうしたの?」


「いえ、ただ思い出してしまって、私と一緒に来たもう1人の仲間。ユイのことを…彼女も私の作ったご飯をとても美味しそうに食べていたから」


「そっか、早く会いたいね」


「はい…」


「さあ、早く食べて睡眠をとったら古代装置オーパーツへと向かいましょう」






 この時はまだあんな展開になるなんて思いもしなかった。崩朽迷宮ホウキュウダンジョン最後の1日が幕を開ける。




第5話 完




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