気持ち悪さが伝わらない

浅賀ソルト

気持ち悪さが伝わらない

私と世理せりは親が十代の頃に産んだ子供ということで仲が良くなった。高校生だったけど親はまだ三十代で平成生まれで最初に使ったスマホがiPhoneだった。親が話すのが初代とか初期iPhoneの話題というのは私と世理のあるあるの一つで、最初のiPhoneはどうだったとか最近はどうだとかいう話を何回も聞かされた。

あるあるの一つが、若い頃の結婚ということでゆとりとかZ世代とかヤンキーとか、両親もそんな目で見られるということだ。私の両親は18歳同士で、世理の場合は父親が19歳とかで1個違いだったけど、年の差がある夫婦じゃない。そして今でもラヴラヴだ。

そして質問されるので答えるのだけど、両親が結婚したのはもちろん私が——そして世理が——できたからだ。すぐに計画性がないとか言われるのも本当にダルいんだけど、そういうのと私と世理が違うのは、どうせ結婚するならあとまわしにしなくてもいいから結婚しちゃおうという話になっていて、だから子供はできてもいいかという感じでできたという話である。計画性がないとかそういう話じゃない。これは子供の頃から何度も質問されたし、私から親にも何度も質問していたので——『なんでお父さんとお母さんは18歳で結婚したのー』——何度も言っているんだけど、世間にはまったく伝わらない。

馬鹿な十代が安易に子供を産んで離婚して後悔しているという話を世間は聞きたくてしょうがない、ということだけはこれまでの経験でよく分かった。

というような愚痴を言い合えるのが私と世理の友情だった。

友達はほかにもいたし、その会話から、みんなの親はそれなりに年を取ってるんだなということもなんとなく伝わってきた。そういうときにどうしても距離を感じて、私は遠慮せずに心を開ける相手というのは世理だけだった。

そして高校生になってみて思うことは、18歳で結婚したり出産したりする両親のすごさである。自分の年齢と両親の年齢から計算しても、実際に妊娠したのは17歳のときなのは間違いない。私はまだ15歳なのだけど、どう考えても無理じゃねと思わずにはいられない。

「それなんだよなー」世理は言った。「今の彼氏と結婚して子供つくりたいかって言われると、ちょっとなー」

「だよねー」

社会人の彼氏を作ってそこと結婚するならともかく、教室にいる男たちを見て、この中の誰かと結婚して来年妊娠しなさいと言われると、かなり考えてしまう。

友貴乃ゆきのはどう? 浅尾とかよくない?」——友貴乃は私の名前。

「……悪くはない。私的には平瀬もあり」

「あー、平瀬か」世理は言いながらそっちの方を見た。

口に出してみてからクラスの平瀬を見てみると、なかなか悪くない選択に思えた。

二人で高校の教室で男子をそういう目で見るというのは私達の特権のようなものだった。他の友達とはこういう話はできない。

平瀬の短い髪と腕と首と腰を見ているうちに声が漏れた。

「「うーん」」

世理とその声が重なった。私達は顔を合わせて大爆笑した。

「あははは。今の声はやばい!」

「世理だって! 完全にケモノになってた!」

「いやいやいや、私はいいって。友貴乃に譲るわ」

「あはははは」

そういう会話をしてから一ヶ月くらい経って——私はこのあいだに平瀬と本当に仲がよくなったんだけど、実は平瀬は今回のこの話とまったく関係がない——世理が相談をしてきた。

「友貴乃、町井に子供ができたって知ってる?」

「町井? 町井先生? 初耳」

「結婚したのは20代だったんだけど、40代になってからやっぱり作ろうってことになって作ったんだって」

「ふーん」

「なんか気持ち悪くない?」

「あははは。そうだねー、うちらからしたらねー」

「なんかまだ元気というか、そういうことしてるんだなーって」

「気持ち悪いよね」

「うん……」世理は静かに言った。「でね、友貴乃、相談なんだけど」

「うん」

「町井の子供、堕ろさせない?」

「え?」

「なんか気持ち悪いじゃん」

「確かに、なんか気持ち悪いね」

「最近、夫婦で久松の方のイオンによくいるらしいんだ」

「そこでやっちゃうんだ?」

「そうそう」

「いいね。分かった」

「何回か腹を蹴れば片付くよ」

「了解」

私達の相談と決定はこのような流れだった。

この流れをその後に他人に何度か説明したんだけど、うまく大人には伝わらなかった。やはり私達の間でしか通じないみたいだった。

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