第16話コンプラ違反!
道草を食っている場合ではない。複雑な逡巡・・・。
妻も子もある身に恋などする資格はない! 形振り構わず家族を護ってやらねば!
私は妻に感謝している。時々大喧嘩もするが。
一時は身体障害一級要介護4クラスに認定されるも度重なるOCSSCSS(腱延伸術)や理学療法によるリハビリテーションが功を奏して車椅子を棄権し、四点杖をも手放して独立歩行が出来た次第である。
そして歩行距離を伸ばす為にパワーリハビリテーションデイケアサービス「シロクマ」へ通所せよと、背中を押してくれた妻を差し置いて通所するなら未だしも女性スタッフに横恋慕するとは言語道断。元も子もない。救い様のない底抜けの阿呆である。
リハビリテーションの終わりに送迎中の車内では他に通所者がなく、約3分の沈黙の後、須崎八代が慣れた手つきでシロクマの送迎車を自宅に横付けした。
「ありがとうございました。」一つのセグメントに生きる私の分不相応の生き様をコンプライアンスに例えるならコンプライアンス違反だ。
「この前言ってた玄関の吹き抜け観ますか?」往生際が悪かった。
「実はこの自宅は私が設計したんです。」自慢や自画自賛ではないが会話の切っ掛けになればと思い、粉を振った。
「へえそうなが?凄いき、大曽根さん建築士を持っちゅうが?」
「イエイエ、住宅営業は設計もして売るんですよ。」
外門を開け玄関アプローチの階段を上がるが、麻痺側の左足を引きずり上がって行く。
「さあ、どうぞ。」
玄関に足を踏み入れた体位のまま天井を見上げる須崎八代を抱き締める! 柔らかい肢体がググッと強張る!
心臓が破裂しそうだったがフレグランスの香が気持ちを落ち着かせた。
あなたを好きになったのも「シロクマ」であなたに出遭ったのも単なる偶然ではありません。
それは必然なんです。
私の生き様とあなたの生き様とが、交差したからこそ出遭ったのです。
須崎八代という人物に惹かれたのも必然かも知れません。
「ひょっと中島みゆきの(糸)が好きやきね、ずっと家で聞いちゅうわ。」
そう言って笑った八代の横顔が愛しかった。
それを聞いた瞬間から私の脳内は中島みゆきが(糸)を唄ってギターを振り回しながら笑っていた。
あなたの立ち居振る舞いに心惹かれたのは偶然かもしれないが、私の心の襞が欲していた人物像があなたは既にここに居て煌びやかなオーラを纏い何食わぬ顔で普段どおりに振舞っていた。
そこへ私が入り込んであなたを愛でた!それが愛と言うならば愛かもしれない・・・。
「実はボク、須崎さんが好きだったんです!」
呆気に取られた顔、切羽詰った顔顔・・・。
「久しぶりねコー・オオソネ?」
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