第3章アリスと公爵邸

18.ヴェンガルデン公爵邸

 フリーレンの街並みを進み、中央を抜けると坂を登った場所にヴェンガルデン公爵邸が現れた。


―噂には聞いていたけど、こんなに大きいなんて


 ラティア王国の唯一の自治領として許されたノースジブル領、そしてノースジブル領の管理を任されたヴェンガルデン公爵家の偉大さが一目で分かるほどの立派な邸宅だった。


「体調が優れませんか?」

「いえ、ただとても大きな邸宅だなと思いまして」


 そう言うと公爵様は一瞬だけ顔を曇らせた。


「形だけです。実際にはそんなに誇らしいものではありません。」


 悲しそうな公爵様の顔が私の視界に入ったが、その瞬間に馬車は止まり、私達は馬車を降りることになった。


―何か複雑な事情があるのかしら


 その時、ふとあの噂を思い出した。ヴェンガルデン公爵家は呪われている。ヴェンガルデン公爵家は滅多なことがない限り、王都には出てこないためその噂の真偽すら分からないほどだった。


―私は自分の目で確かめると決めたのだから


 その思いを胸に私はヴェンガルデン公爵邸に足を踏み入れた。


「お帰りなさいませ、旦那様。並びに王国の光、アリス様。ようこそ、ヴェンガルデン公爵邸へ。使用人一同歓迎致します。」


 執事長らしき白髪の男性が前に出て私達を迎えた。一斉に使用人達が深いお辞儀をする中、公爵様が口を開いた。


「ノーマン、出迎えご苦労。早速で申し訳ないがアリス嬢が道中に怪我をしているので急いで部屋へ案内してくれ。それと、既に呼んでいると思うが…」

「はい、お医者様は別室で待機していただいて居ります。アリス様のお着替えが済みましたら直ぐに診察を」

「そうか、いつも迅速な対応で恩に着る」 


 私は何のことか分からずに言われるままに部屋に通されると室内用ドレスにエマ達に着替えさせれられた。すると直ぐに医者が来て私の足を診察した。


「幸い跡には残らず完治すると思います。ですが、公爵様から安静になさるようにと言われていますので一週間は室内で静かにお過ごし下さい」


 医者はそう言い残すと部屋を後にした。


―ただのかすり傷だと言うのに


 私はそう思いながら室内を歩こうと思った時だった。


「お嬢様!安静にと言われたばかりでしょう!」


 エマの一喝が部屋に響き渡った。私はまた寝台へと逆戻りになり、私は公爵邸に着いてすぐに暇な遊学を送ることになった。

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