ラティア王宮にて〜クリスside〜
「今、何と言った?」
「あの、ですからアリス様はノースジブル領へ遊学に向かったと」
「違う!その前だ」
アリスの現状を調べるように頼んでいた側近が自分に恐れるように口を開いた。
「…その便宜上は遊学ですが何でもヴェンガルデン公爵家から縁談の申し込みがあり、アリス様は花嫁修業に向かったと噂が流れておりまして」
俺は腹が立って近くの机に拳を落とした。
「ひ」
側近は軽く悲鳴を上げた。俺は「もう報告はいいから今すぐ下がれ」と側近を部屋から下がらせた。
「まだ婚約破棄をして1ヶ月も経ってないんだぞ!それなのにアリスは!」
―もう他の男の元に行ったのか
その事実だけが怒りを湧き上がらせていた。魔法学院の卒業パーティーでもアリスは俺に婚約破棄を突き付けられても冷静に俺とアリアの祝福をしてその場を去った。
そのことに自分でも驚くほどに腹が立っていた。アリスにとって自分はそれほどの価値しかなかったのかと考えてしまうからだ。
「何でだ!何故こんなにアリスに腹が立つんだ!」
俺が愛しているのはアリスの妹のアリアだというのに最近はアリスのことが頭から離れない。アリスが聖女の力を失った時、父上は俺とアリスの婚約破棄をするかと思ったらそうではなかった。
俺が何度も父上に尋ねても「アリスとクリスの婚約破棄はない」と返されるだけだった。俺はアリスが未来の正妃になることに不満だった。俺よりも民衆からの支持が厚く、王宮でも彼女に対して非を唱えるものもいない。一方で自身の評判が良くないことを知っていたからだ。
―王よりも国民に慕われる王妃などあってなるものか
そう考えていた俺は自分よりも能力がなくて少し我儘で愛嬌のあるアリアに惹かれた。幸い彼女も自分のことを好いていたことを知り、俺達は密かに学院時代から付き合っていた。だから『あいつ』に頼んで事を上手く運んだのにどうしてこんなに心を乱されるんだ。そう考えていたとき部屋の扉の向こうで声がした。
「クリス様、よろしいですか?」
「あ、ああ」
扉が開かれるとそこにいたのはアリアだった。
「聞いて下さい!この者が私に向かって西の辺境の地へ行けというのです!」
「いえ、しかし聖女様、あの地は聖女様の力を求めています。いずれ聖女様はラティア王国の王妃となられるのですから民を救うことも役目かと…」
「クリス様!この者は無礼者です!何故私があのような貧相な地に行かねばならぬのですか!」
アリアは俺に近づくと腕を組んできた。俺はアリアの頭を撫でると一緒に入ってきたものに話しかけた。
「アリアがそう言うのならもうその地は聖女に見放された土地なのだろう。もう行く意味もないだろうな。」
「クリス殿下!そのようなこと」
「何だ?今は病床に伏している陛下の代わりに俺が政を取り仕切っている。そんな俺に意見するのか」
「…いえ、滅相もございません。」
「他の者にもそのように伝えろ。そしてお前は下がれ」
部屋に二人きりになるとアリアは可愛らしい声で俺に話しかけた。
「ありがとうございました。クリス様。」
「いいんだよ。しかし、何故あんなに嫌がったのだ?聖女として評判を良くしておくのもいいと思うが」
「だってそんな場所に行ったらクリス様に暫く会えなくなってしまうではないですか。そんなのアリアには耐えられません」
可愛らしいことを言うアリアに俺はそっと唇を落とした。
「クリス様は大胆ですね。」
「あまりにもアリアが可愛らしいから待てなかった」
可愛らしく笑うアリアと暫く唇を重ねるとアリアは急に笑い出した。
「どうしたんだ?」
「いえ、そろそろ良い知らせが来るのではないかと思いまして…」
「何だ?いいことがあったのか?」
「ええ」
「直にクリス様にお教えします」とアリアは耳元で囁いた。アリアの妖艶な瞳と唇に誘われ俺は先ほどの怒りを忘れて彼女を抱きしめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます