14.馬車の中

 公爵様の指示もあり、私達はクロード様が手配してくれた馬車に再び乗り直してノースジブル領の公爵家のあるフリーレンへと向かっていた。 


 クロード様が言うにはフリーレンには遠いが私達の馬車が止まった場所は正確に言えばノースジブル領土に入った場所らしい。


 私は何故か公爵様と一緒の馬車に乗っていた。自身でドレスは裂いたのだがこんな姿で婚約者候補と会うのは非常に恥ずかしかった。一応の慰めで公爵様の上着を借りているがそれも心もとない。それに馬車に乗り始めてからというもの会話がなく沈黙が流れていた。


「…」

「…あの」


 私は耐えきれず沈黙を破った。私の声を聞くと公爵様はこちらを向いた。


「先ほどは助けて頂きありがとうございました。そして侯爵令嬢としては見苦しいところを見せて申し訳ありません。」

「いや、貴女が無事で良かった。私は当然のことをしたまでです。」


 会話はそれきりでまた沈黙が訪れた。


―とても気まずい。


 私に縁談を持ちかけてきたのは公爵様だが会話が弾まないまま暫くの時間が経っていた。公爵様は先ほどから様子が変わらずじっと窓の外を見つめていた。


「…アリス嬢は馬の扱いに慣れているのですか?」

「え?」


 あまりにも唐突な問いかけに驚いてしまう。公爵様の表情を見るとやはり先ほどとは変わった様子はなかった。


「ええ、馬に乗るのは幼い頃から好きですし、聖女としての要請を受けた際に移動しやすいの馬でしたから…それなりに扱いは慣れています」

「そうですか。」


 会話が始まったと思えばまた途絶えてしまい、私はこの場の状況に困惑していた。


―どうして同じ馬車に乗ったのだろう?


 そんな思いが胸に広がっていた。私との会話も続くことはないし、ただ聖女の座を降ろされた私の身を憐れに思って公爵様は縁談を申し込んだのかもしれない。


 馬車がフリーレンに向かう道中はそんなことを必死に考えていた。この先のことに不安な気持ちを残したまま、馬車は進み続けた。暫くすると私は疲れが出てきてまた瞼が重たくなっていた。


「もし違っていたら申し訳ないが少し仮眠されては?」

「…いえ、公爵様の前で眠るなど」

「私のことは気にせずとも大丈夫です。そのようなことで咎めませんから」

「ですが…」

「いえ、酷くお疲れでしょう。アリス嬢は暫くお休み下さい。」

「そんな」


 「そんなことはありません」と返そうとした瞬間に何かの糸が切れたように私は意識が途切れた。やはり疲れていたのだろう。私は前のめり倒れたはずだが何もぶつからずただ暖かい感触が全身を包んだ。


―何だか気持ちいい。ずっとこのままいれれば


 そう思いながら私は全身を暖かい温もりに預けていた。

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