13.リヒト・ヴェンガルデン公爵

 驚いた私は声を失っていた。そんな様子を横目にヴェンガルデン公爵様は静かに歩き出そうとしていた。


「まだ馬車の中に侍女がおります!私だけでなく、彼女達も傷を負っているかもしれません」

「そうですか。…彼女達も勿論、救助します。それに貴女に付いていたクロードも直に来るでしょう」

「…あと、あの」


 私は先ほどまで気づかなかったが自分で裂いたドレスの裾が短く、素肌が露出していた。抱えられると恥ずかしい姿になっていることに気がついた。


「その足元が…」


 私がそう言うとヴェンガルデン公爵様は少しだけ足元を見ると「失敬」と言ってすぐに顔を背けた。


 一度私を地面に降ろすとヴェンガルデン公爵様は着ていた上着を脱いだ。


「これをお掛け下さい。」

「…ありがとうございます。」

「申し訳ない。あまり女性のエスコートには慣れていないもので」

「あの公爵様。私は自分の足で歩けますから…抱き抱えなくても大丈夫です。」


 私は公爵様の先を歩こうとしたが足に急な痛みが走り思わずしゃがみ込んでしまった。思ったよりも傷が深いようだった。その時だった。


「ひゃ」


 私はその瞬間にまたもや公爵様に抱き抱えられていた。それと同時に情けない声を出したことに羞恥心を掻き立てる。


「貴女は大丈夫ではないのに大丈夫と言うのですね」

「それは」

「負傷した者を安静に運ぶことは重症化しないための一手です。今は大人しくして下さい。」

「はい」


 真剣な眼差しに私は思わず返事をしてしまった。私は大人しく抱き抱えられていると遠くからクロード様の声が聞こえた。


「アリス様!アリス様!」


 物凄い勢いでクロード様は馬を走らせて駆け寄ってきた。クロード様はこちらを見ると驚いたように馬を止めた。


「アリス様!…それにリヒト様まで」

「クロード、話したいことは多くあるが、後で詳しく聞こう。それより今はアリス嬢と侍女の怪我の手当をしてくれ」

「はっ!畏まりました。」


 そう言うとクロード様が侍女たちを助け出してくれていた。エマを含めて皆、怪我はないようで安心した。私はというと変わらず公爵様に世話をされていた。公爵様は石場を見つけると自分の上着をそこに掛けて私を座らせた。


「足元失礼します。」


 公爵様は私の傷を見ると持っていた水を私の傷口にかけた。その瞬間痛みが走り思わず声を少しだけあげてしまった。


「申し訳ない。クロードを付けていながらアリス嬢に傷を負わせてしまった。私がもっと手を回して置くべきだった。」


 公爵様は表情は変わらないが少し悲しそうな様だった。私は思わず公爵様の手を取った。


「公爵様でもクロード様のせいではありません。どうか気を落とさないで下さい。それに助けて頂いことに変わりはないのですから」

 

 公爵様は驚いたように私を見ると少し慌てたように治療を続けた。


「出血がかなりひどいです。」

「ですがこれくらいであれば…」

「いえ、よくありません」


 間髪を入れずに公爵様はそう言うと自身の着ていたシャツの裾を破いた。


「あまりよろしくはありませんが、今はこれで止血しましょう」


 公爵様は丁寧に私の足の治療を続けてくれていたが、私は破れたシャツの間から公爵様の身体を見てしまい初めて目にした男性の身体に緊張してしまっている自分がいることに驚いていた。


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