11.止まらぬ馬車
「聞こえているのですか!」
エマは馬車の窓を開け、御者に叫んでいるが全く声は届いていないようだった。その間も馬車は速度をあげて走っていた。
「エマ、少し下がって」
「お嬢様?」
私はエマを下がらせて御者の方を見た。
「闇魔法」
「え?」
エマは驚いた様子で私を見た。御者の姿を見ると背後は暗い漆黒の霧が見えた。御者の意識は既になく、何かに操られているように見えた。
「この森がどんな地形か分かりませんが、このまま走り続ければ衝突は免れません!せめてお嬢様だけでも…」
エマが口にすると他の侍女達は恐ろしさから身を震わせていた。
「それはなりません!」
私が声を荒げると侍女達の肩がピクリと動いた。
「皆で逃げるのです。誰一人ここに置いていくことはしません!」
私がはっきりと言うと侍女達も安心したのか、皆少しだけ冷静さを取り戻した。
「とにかく状況を把握します。エマ以外は周囲を確認して下さい。エマは経緯をすぐに報告して下さい」
「私も詳細は分かりませんが、一度休憩に入ってから走り出してすぐに前方に走っていたクロード様の馬車とは大きく離れてこの森へと入りました。お嬢様の目が覚めてからですので数分ほど道を違えてから経過しています。」
「お嬢様!御者が!」
侍女の声のほうに顔を向けると窓から御者が地面へと転落するのが見えた。
「ひっ」
「いやあ」
エマ以外の侍女達はその様子を見て小さく悲鳴を上げた。私は侍女達を下がらせて窓から身を乗り出して先頭の様子を見た。今は馬だけがひたすらに前に向かって走っていた。御者がいない今、誰かが手綱を取らなければ。
「私が窓から出て馬の手綱を取ります」
「お嬢様!」
「アリスお嬢様!危険です!」
エマや侍女達が口々に言う中、私はお父様が誕生日の時に護身用に送ってくれて短剣で自身のドレスの裾を断ち切った。
「私のことは大丈夫ですから」
「お嬢様!それでしたら私が!」
エマが前に出てくるが私は笑顔でエマの手を握った。
「私は幼い頃から馬の扱いも慣れていますし、適任は私でしょう?エマはここで他の侍女達と待っていて下さい」
「…アリスお嬢様」
「大丈夫。必ず戻るわ」
そう言って私は一つ深呼吸をすると馬車の扉を開けた。速度が出ているせいか扉を開けただけで風で全身を打ち付ける。
私は手綱を引くために一歩ずつ御者台へと進んだ。
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