第43話 日常の謳歌

あれから幾日が過ぎた。


その間、何をしていたのかといえばいつも行っている森とは反対にある草原へと繰り出してみたり、町で買い物をして気分転換をしてみたりと割とゆったりと過ごしていた。




今日も草原で魔物を半日ほど狩ったあと、宿に帰ってだらだら過ごしていた。




「やっぱり草原の方も冒険者が増えてあんまり魔物と接敵することなかったね・・」




(どこにいっても人間、人間で我は我慢の限界だっ!いつまで貴様のローブの中にいればいいのだっ!)




スイは相当鬱憤がたまっているらしく、そのガス抜きも兼ねて屋台で機嫌を取っていたのだが、それも限界のようだった。




「しょうがないじゃない・・人前でスイといるところなんか見せられないんだから・・」




(スイはわがままだなぁー!)




(黙れっ!貴様にだけは言われたくないわ!)




この二人の喧嘩も日常茶飯事であり、止めても無駄だと分かっているため黙ってそれを見守る。


喧嘩するほどなんとやらというが、この二人にそれは当てはまらない気がした。




「森にでも行ければいいんだけど、まだ調査に時間がかかるって話だったしね。」




森の調査を始めて一週間くらい経ったのだが、いまだに何の進展もないとのことだった。


それはそうだろう、スイが言っていたのが本当ならもう魔物は正常に戻っているだろうし何の問題が見つからないのは無理もない。


だが実を言えば、一つだけ異変が見つかったのだ。それが見つかったことでここまで調査が伸びているともいえる。




それが見つかったのは、調査を始めて三日目のことである。


その日、私は依頼ボードの前でボーっと依頼を眺めて過ごしていた。


すると一組の冒険者が慌てた様子でギルド内に駆け込んでくる。


その冒険者達は入ってくるなり受付の方に駆けていき、大声でギルド全体に聞こえるように叫ぶ。




「森の中で破壊痕が見つかった!とんでもない規模だ!!大型の魔物の可能性がある!!」




受付嬢が落ち着くように声をかけ、それの詳細を聞き出そうとしている。


私も密かに聞き耳を立てる。


心の中では、頭が痛くなるくらいの警鐘がなっていた。


それはどうしようもないほどに心当たりがあったからだろうか。


ひとまず、気のせいであることを信じて冒険者の声に耳を傾ける。


冒険者は拙いながらも受付嬢の質問に一つずつ答えていく。




聞こえてきた単語を並べていく。


焦げた地面、大きい穴、焼けて炭化している木々。


清々しいまでに心当たりしかなかった。


辺りの冒険者が深刻な顔をしている横で、冷や汗がだらだらと流れる。


居心地の悪さを感じた私は、早々にギルドを後にした。




「まさかこんな大事になるなんて思わないじゃんねー・・」




(ふんっ、人間はいちいち大げさなのだっ!)




(僕も早く魔法使って遊びたくなってきたよー!)




「(それだけはやめてっ!(ろっ!)」)




私とスイの迫真の叫び声が、部屋中に響き渡った。







やることがなかった私たちは、せっかくならとタートル・ピリオドに短剣を研いでもらうために訪れることにした。


まだ幾日も経ってないが、短剣を貰ってからずっと素材の剥ぎ取りをそれで行っていたため、切れ味が悪くなってきたのだ。


手入れの仕方など全然わからないので、付着した血を払うことぐらいしかしていなかった。


どうせ研いでもらうなら、自分でもできる簡単な手入れの仕方を教えてもらおうと思った。




「よぉ!ずいぶん早い再開じゃねぇか!どうした?装備に不備でもあったのか?」




「ううん、短剣の切れ味が悪くなってきたから研いでもらおうと思って・・」




「あぁそういうことか、貸してみな!」




その言葉に従って、腰のホルダーに差していた短剣を鞘ごと渡す。


このホルダーは、やることがない時に町をぶらついた時に見つけて買った物だった。


今まではいちいち収納魔法の中から出していたのだが、使う頻度も多いため、煩わしさを解消するために思い切って購入することに決めた。




ラックスは短剣を光にかざして眺めたりしながら、状態を確認している。




「この短時間にどれだけ使い込んだんだよ・・・もうすっかりなまくらじゃねぇか!」




ラックスからなぜか呆れたような視線を向けられる。


そんな視線を向けられるなんて心外だと思いながらも、理由を答える。




「ずっと魔物の剥ぎ取りをそれでやってたから・・手入れの仕方なんて知らないし。」




それを聞いたラックスは苦笑いを浮かべていた。




「お前さんでもできる簡単な手入れの方法も教えておくとするか・・・それでも、使い込んでくれてるってのは鍛冶師冥利に尽きるってもんだな!」




そう言って大笑いするラックスはご機嫌な様子だった。




「おう、ちょっと裏までこいや!手入れの仕方教えてやるからよ!」




そういうとラックスは先に奥へと消えていった。


店番はどうするのだろうか、そう思いながら私は後をついていった。




「こうするだけでも切れ味はだいぶ持つようになる・・冒険者なら遠出することもあるだろう覚えておくといい。」




裏まで来た私は、ラックスから簡単な手入れを習っている最中だった。


「はへー」とその手際の良さに感心しながらも、必死に見てその流れを覚える。




「研ぎ方までは別に覚えなくてもいいんだが、一応見ておくか?すぐ済むが・・」




どうせやることもないので、見学させてもらうことにした。


水で濡らしながら真剣な表情で何度も刃の部分をこすっているのをボーっと眺める。


なぜだかわからないが、一定の間隔で鳴る小気味いい音も相まってずっと見ていられるようだった。




「よし、これで大丈夫だっ!」




「もう終わり・・?」




まだ始めてから五分くらいしか経っていない、こんな短時間でできるものなのだろうか。


そんなことを思っていると、ラックスは畳んであった何かの魔物の皮を広げて持つ。




「その短剣でこの皮を好きなように切ってみな!」




そう言われて手渡された短剣を眺めながら、言われた通りに皮へと短剣を振ってみる。




「・・・・っ!凄い・・!」




すると短剣は少しの抵抗を受けただけで、皮をスパッと真っ二つに切り裂いた。


そのあまりの切れ味に息をのむ。最初に使った時も切れ味の凄さに驚いたものだが、今回はそれ以上に鋭くなっている気がした。




「まっ、これくらいでいいだろう!また切れ味が悪くなったらいつでも持ってきな!」




「ありがとう!本当に助かった・・・」




そう言ってホルダーに短剣を差し直し、お代を払おうとする。




「これくらいじゃ金はとれねぇよ、今は店も暇だったしな。お代はいらねぇ!」




「ダメ、対等でいるならやってもらったことに対して報酬は払うべきだよ・・!ただでさえ安くしてもらっているのに、またまけてもらうなんてできない!」




私が折れずにそう伝えると、ラックスも突っかかってきたが、最終的には折れてお代を貰ってくれた。


それでも、最大限の譲歩だといって銅貨一枚だけだったが。




私はお礼を言ってタートル・ピリオドを後にした。

今日はなんだかんだ言っていい休日になった気がした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

後書き


ラルーナのせいで森の調査はもうちょっと続きそうですね・・・

ちょっと前に街道を壊したときに学んだと思ってたんですが、また同じ過ちを犯してしまったようですね。


ラルーナ「まだ八歳だから許してピョン☆」


ラルーナもこう言ってますし、許してあげてください・・・・


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