第42話 いざ!スイの好物探し
(おい!次はこれだっ!早くしろ!)
「分かったからちょっと落ち着いてよ・・すみません、これ一本ください!」
「あいよ!」
現在私たちは町に出て買い食い、もといスイの好物探しの真っ最中だった。
出店に出ている者を片っ端から所望するスイのせいで、思ったより出費がかさむ。
今頼んだ串焼きですでに八店舗目であり、そのすべてをスイは腹の中に入れていた。
その小さい体のどこにそれだけ入るのか不思議に思いながら、本人に言えば決して認めないだろうが楽しんでいるスイを見れば、まぁいいかと財布のひもを緩めてしまう。
そんなことを考えながら出来上がった湯気の出ている串焼きを礼を言って受け取り、人気の少ない建物の間に移動する。
すると私の首元からスイが出てきて熱々の串焼きにかぶりついた。
器用に少量ずつちぎって嚥下しながら満足げな声を漏らす。
(ふむっ、あぐっ悪くない!この濃い味付けが癖になるな!これは気に入った!いいぞ!)
「あなたさっきからずっとそればっかりじゃない・・・結局肉だったらなんでもいいんじゃないの?」
(スイは食べ物だったらなんでもいいんだーあははー!)
アスラも私の言葉に賛同してくる。
(何を言うか!この我が馬鹿舌みたいに言うでない!ちゃんと店ごとにタレの味付けが違うことくらいわかるわ!その点、この店は他の店よりタレの味が濃くて我好みだ!)
得意げに豪語するスイをアスラと二人で冷めた目で見る。
(ねぇラルーナ?その言葉って一個前の店でも同じことを聞いたよね?)
「えぇそうね・・・全く同じようなことを言っていたのを覚えているわ・・」
私たちがそうやって話している間にも、スイは串焼きを頬張って上機嫌だった。
結局あれからさらに二店舗ほど回ったところで、スイが満腹を訴えて出店回りはお開きとなった。
本人曰くやはり八店舗目の店が気に入ったといっていたが、そこの串焼きと言って他の店の串焼きを渡してもおそらく気付かないだろう。
予想外に食べるスイのせいでかさんだ出費に頭を抱えながら、少し軽くなった財布の中を見てため息が漏れる。
首元を広げて中を覗き見れば、腹が膨らんだスイが満足そうに舌をちろちろと動かしていた。
「また明日から頑張ろう・・・」
私は一人そう呟きながら、宿へと足を向けて歩き出す。
「・・・?」
歩いて宿まで戻っていると、ふと後ろから妙な違和感を覚えた。
私は不思議に思いながらも後ろを振り返り、辺りを見回してみる。
しかし特段変わった様子は見受けられず、私の後ろを歩いている人に変な目で見られてしまった。
気のせいか、と私は前へと向き直り歩きを再開した。
その私の様子を見て、アスラが話しかけてくる。
(ラルーナ?どうかしたのー?)
「・・・ううん、なんでもない!私の勘違いだったみたい・・。」
そう言いながらも、今も後ろから感じる違和感に気づかぬふりをして宿へと急いだ。
◇
ラルーナが去ると、先ほどまでラルーナがいた場所に一人の女が立っていた。
その女はラルーナが去った方向を見ながら口元に笑みを浮かべている。
「ただの女の子かと思っていたけど、なかなか鋭いじゃない・・。これは気を引き締めないとね。」
女はそう言い残すと、その場を振り返って歩いていく。
街の喧騒にかき消され、女が発した言葉は誰の耳にも入ることはなかった。
「どうだ?奴の居場所はわかったか?」
薄暗いどこか廃墟めいた建物の一角で、男はたった今帰還した仲間の女に質問を飛ばす。
「えぇ、あの子星雲の宿で寝泊まりしているみたいね。中に入っていくのをばっちり確認したわ!」
「あそこか・・居住区の方だが賑わっている所だな。ガキのくせにいいところに宿をとってやがる。そうなると・・・寝込みを直接襲うのは難しいか・・。」
「えぇそうね。今朝は例の森に行っていたみたいだし、そこで待ち伏せるのが一番いいんでしょうけど・・・今は時期が悪いわ。」
「ギルドの依頼のせいで冒険者がうじゃうじゃいるって話だからな・・仕方ねぇ、少し待つしかねぇか。」
「じゃあ私は変わらず、町であの子を見張ってればいい?」
「・・・あぁ頼む。」
二人が何やら物騒な話をしていると、手前の扉が開いて一人の男が帰ってくる。
「なんだ、レミも帰ってたのか!ガキの居場所は見つけたのか?」
「お帰りジャン・・えぇ居場所は割れたわ。」
「へへ、そうか!じゃあすぐに乗り込んでさっさと終わらしちまおうぜ!」
ジャンと呼ばれた男は拳を打ち付けてそう告げる。
彼は、放っておけば今すぐにでも一人で突撃してしまいそうなほど勇んでいた。
それを最初からいる男が諫める。
「落ち着け・・今はまだ様子見だ。万が一逃がしちまったら面倒だからな、今回の獲物は大物だ。慎重に行くぞ。」
その言葉を聞いてジャンは驚く。
今日中に終わるものだと思っていたのが時間をかけるといわれたために、やり場のないこのやる気をどうすればいいのかわからないといった様子だった。
「おい待ってくれよザンザス!相手はガキ一人だぜ?それに、先方にはもう連絡したんだろ?だったら早く納品しちまわねーとまた小言を言われちまう!」
それを聞いたザンザスと呼ばれた男は、眉をしかめてジャンの言葉に苛立ちを募らせる。
その顔を見たジャンは知らずのうちに一歩後ずさる。
「そんなもの言わせておけばいいだけだろうがっ!おい、ジャン・・・お前、リーダーである俺の言うことが聞けないのか・・・?」
ザンザスがそう言うと、部屋中に殺気が満ちる。
レミは唾を飲み込みこの話に入らないことを決意し、早く落ち着くのを待っていた。
一方、ジャンはその殺気を一身に受けて尻もちをついてしまう。
その顔には恐怖が浮かんでおり、ザンザスの目を直視することができずに胸のあたりを見ているようだった。
尻落ちをついたままジャンは、相手の怒りを抑えようと必死に謝罪を口に出す。
「すっ、すまなかった。ザンザスの言うとおりだ、奴らには言わしておけば、いい。あんたのやり方に従うよ・・。」
そういうと部屋中に満ちていた殺気が露散して空気に交じっていく。
ジャンはようやく息がまともにできるようになったことにほっとして、大きく息を吐き出した。
「おい、レミ・・・この馬鹿にもさっき聞いたことを伝えておけ。」
「・・わかったわ。」
その言葉を最後に、ザンザスは部屋からでてその姿を闇に紛れさした。
残った二人は顔を見合わせて、大きく息を吐き出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
後書き
一度読んで感動しすぎた小説を最近読み返しまして、自分もこれくらい人を感動させられる小説を書いてみたいとしみじみと思いましたね・・・
皆さんのおすすめの小説はありますか?
もしこの話が面白い!続きが気になると少しでも思っていただけましたらフォローと★での評価よろしくお願いします!、私のモチベーションに繋がります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます