第38話 精霊のいたずら
あれからアスラに適切の魔物を探すためにいつもより少し奥深くまで立ち入っていた。
すると木々に光を遮られて薄暗い森の中で、前方が明るく照らされた開けた場所が見えてくる。
私たちは久しぶりの光に導かれるようにその場所へと足を進める。
ちなみに蛇は私の腕に巻き付いて肩に乗っており、アスラも私の近くを浮遊しているため、歩いているのは私だけだった。
その開けた場所に近づくのにつれて、その場所から喧騒が聞こえてくる。
それは人の声というよりは、鳴き声に近いというものだった。
「・・・・?」
怪訝な顔をしながら蛇と顔を見合わせ、その場所に恐る恐る足を進めて近くの茂みに身を隠す。
「・・・・!!!」
私たちは目の前の光景を見て驚いた。
目の前には数えるのも面倒なくらいの魔物がひしめき合っていた。目算で五十はいるだろうか。
ゴブリンを始め、オークにフォレストウルフ、ファングボアにいつか戦ったレッドボアまで数頭確認できる。
「ねぇ、これどうすればいいと思う?」
(さすがの我もこれは・・・・)
この異常事態に、私たちの意見は一致した。
この魔物の数を捌くのは危険だ、蛇のおかげで魔力はまだ余裕があるとはいえこの数を相手して無事に終われる気がしなかった。
幸いまだ魔物の群れは私たちに気づいた様子はない。
ゆっくりと音を立てないように気を付けながら、私はこの場所に背を向けて遠ざかろうとする。
その行為に神経を尖らせていたため、私は気づけなかった。
私の上で興奮したように魔物たちを見ている精霊に。
「ブモオオォォオオォ!!!」
「ギャギャー!!!ギャ!」
「・・!?」
後ろで上がった魔物の興奮したような声に、思わず振り向いてしまう。
その光景を見て絶句する。
私の目に入ってきたのは、興奮した様子で同士討ちをしている魔物と、その上を飛び回りながら何か鱗粉のようなものを降らせているアスラの姿だった。
こんな事態だというのに、陽の光を浴びてきらきらと輝くそれを、綺麗だと思ってしまう。
だが、決して綺麗なだけではないことは、この惨状を見ればわかってしまう。
「アスラッ・・!?」
(これは・・!まさかこの規模の魔物全てに状態異常をっ!?)
思わずアスラの名前を呼んでしまった私に、近くにいた魔物の注目が集まる。
そのあまりの殺気を帯びた視線の多さに頬が引きつる。
(あははは!そーらいけぇ!!あははは!)
この場に似つかわしくない楽しげな声が頭に響いてくるのを恨めしく思いながら、この後の光景を想像して身構える。
魔物たちは最初に私を見て鋭い視線を向け、次に蛇に視線を向けた
「もう!!こうなる気はしてたけど!!」
(幸い気づいた魔物は数十体だ!急いで片付けて離脱するぞ!)
まず最初に突っ込んできた灰色の体皮をしたファングボアに向かって、私たちは魔法を放つ。
「
(
最初に私の槍が当たってファングボアの百キロはある巨体が消し飛び、なおも勢いを緩めうことなく後ろから来ていた魔物に向かって飛んでいく。
一気に四体ほどの魔物を消し飛ばしたことに満足してほっとする。
他の魔物がやられたというのに動揺もせず、一心不乱に私たち、というより蛇に向かって突っ込んでくる魔物を見て、改めて蛇がどれだけ魔物に敵視されているかを知った。
しかし勇敢にも戦闘を切っていたゴブリンは、あとから飛来した水槍に腹を貫かれて倒れる。
水槍は後ろの魔物たちも数体巻き込んでその姿を水に変え、地面に染み込んでいく。
今の魔法だけで半数の魔物を仕留めることに成功した。
半数を仕留めることに成功したが、まだ安心できるような状態ではない。
前を見ればまだ残った魔物が先陣を切って我先にと向かってきている。
残った魔物も一気に片付けて急いで離脱しようと、矢継ぎ早に次の魔法を唱える。
「
その魔法は地面をほんの少し隆起させるだけの魔法。それを魔物の進路上に広がるように配置する。
だが、たったそれだけの魔法でも、今使うことは間違いではなかった。
先陣を切っていたオークが、足を取られて激しく倒れこむ。
後続にいた魔物たちは急に倒れたオークに驚き、方向転換しようとするも、それは失敗に終わりオークに突っ込んでいく。
更にその横にいたゴブリンたちも次々と面白いように転がっていく。
私は、その好機を逃さぬよう、新たな魔法を急いで構築していく。
前を見れば仲間の背中をよじ登った魔物が一体、こちらに向かって駆けているのが見える。
それを見て焦る私に助け舟を出すように、横から魔法が飛んでその魔物の首が落ちるのが見えた。
横に視線をちらりと向ければ、得意げな顔をした蛇がこちらを見ていた。
(ふんっ、貸しだぞ!)
「よく言うわ、今ので治療してあげた分がようやくチャラになったくらいよ。」
軽口をたたきながら二人で笑いあう。
なんだか仲間ができたみたいで少しだけ嬉しくなった。
蛇のおかげでできた時間を充分に使い、私はこの魔物たちを一掃するつもりで魔法を放つ。
ちらりと上に視線を向ければ、いつの間にいたのかアスラが戻ってきて浮遊しているのが見える。
伝わってきた感情は満足。帰ったら説教だな、なんて考えながら私は最後の魔法を放つ。
「妖精の魔力も少し入れた特別な贈り物よ!受け取りなさい!」
前口上はこのくらいでいいだろう。
前を見れば無事だった魔物たちや新たにこちらに気づいた魔物たちがこちらに走ってきているのが見える。
範囲に気を付けながら、私は特大の魔法を放つ。
「
私が魔名を叫ぶと、上から雷が降ってくる。
特大の雷は、魔物たちの中心に落ちるとその姿をいくつもに枝分かれさせて地面を進んでいく。
そうして放射上に広がっていき、辺りの魔物や木々を無差別に襲った。
ひとたびその雷に巻き込まれれば、なすすべもなくその身を焼かれて、声を上げることもできずに絶命していった。
その被害は留まることを知らず、中心にいた魔物はその身を消滅させ、他の魔物も巻き込みながら数十M進んだところでようやくその姿を静電気に変化させて消えていった。
辺りに静寂が訪れる。
あまりの衝撃に、争っていた魔物たちも目的を忘れて雷が落ちた場所に目を向ける。
それでも、その数は同士討ちや私たちが倒したのもありだいぶその数を減らしており、時間をかければ充分安全に狩れる程度だった。
(やはり精霊の魔力は別格だな・・・これではまるで天災だ・・・)
「あはは、ちょっとやりすぎたかもね・・・」
辺りはひどい有様だった。
特にひどいのは雷が落ちた中心部で、地面は捲れあがり深い穴が開いており、人が一人すっぽりと縦に入るくらい深かった。
雷が這った場所には何も残っておらず、木々からは炎が上がっていた。
早く消さなければ火が燃え移るかもしれない。
そう思いながら水の魔法の構築をしていると、肩に乗った蛇が魔法を唱える。
(
不思議な光景だった。
上を見れば太陽が確認できるのに、私たちの周りに小雨が降っていた。
雲もないのにどこから降っているのかわからないその雨は、私の魔法で燃え上がった木々たちを濡らしていく。
あっという間に火の手が収まった光景を見て、私は感心する。
「あの小雨でよくもあれだけの火が消せるものね・・・」
(ふんっ、我にかかればこの程度造作もないわ・・・それよりも、今のうちにこの場から退散するぞ。今ので魔力が切れた。)
「おっとそうだった・・・アスラ言いたいことは色々とあるんだから、宿に帰ったら覚えていなさいよ!」
アスラは私の反対の肩にとまって何の反応も示さない。
どうやら魔法を使いすぎて疲れて眠っているようだった。
(楽しかったぁーむにゃむにゃ・・・・)
「もう、全くしょうがないわね・・・」
その満足げな寝言を聞けば、怒りもどこかに露散してしまう。
怒るのは少しだけにしてあげるか、そう思いながら私たちは、急いでその場から離れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
後書き
蛇(我と全然扱いが違くないか!?ラルーナは頭が悪い!)
ラルーナ「うるさい!」
蛇(本当だからだっ!!」
なんて一面があったりなかったり・・・。
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