第37話 探求心

蛇とアスラのじゃれあいをしばらく眺めて過ごし、蛇がいよいよ魔法を放とうとしたところでそれを止め、本題に戻った。




「それで、意志疎通が取れた後はどうするの?」




(はぁはぁ、くそっ鬱陶しい精霊め。)




蛇はまだアスラを睨みつけていた。


睨みつけられているアスラはというと、視線など気にも留めていないかのように自由に空を飛び回っている。


相変わらず伝わってくる感情は歓喜。どうやら私と意思疎通が取れるようになったことが相当嬉しいようだった。


さっきから用もないのに私の名前を呼んでは旋回している。




このままじゃいつまでたっても進まないと思った私は、蛇にもう一度話しかける。




「ねぇ聞いてるの?この後はどうしたらいいのって!」




(ちっ、次はそこでちょろちょろと飛び回っている精霊の番だ。おい精霊!愚娘の魔力は受け取ったな?)




(愚娘じゃないよー、ラルーナにはラルーナって名前があるんだよー!)




(やかましい、今はそんなことどうでもいいわ!貴様が今受け取った魔力と己が持っている魔力とを融合してみろ。)




(融合ってなーに?僕、難しい言葉わかんなーい!)




(ったく、相手と自分の魔力を混ぜ合わせるのだ!想像力を掻き立てろ、自分の体の中で二つの魔力が渦を巻いて混ざり合う想像をしろ。)




なんだかんだ言って、この蛇は面倒見がすごくいいと思う。


今も先ほどまで喧嘩していた相手に丁寧に教えてあげているし、悪いやつではないのだろう。少し態度が横柄なだけで。


アスラはうんうんとうなりながら試行錯誤しているようだった。




(そうだ、その調子だ。次にその混ざり合った魔力を使って己が司る魔法をあの木に打ってみよ。)




(わかった!うーん、えいっ!)




可愛らしい掛け声とともに蛇がしっぽで指した木に向かって魔法が放たれる。


しかし、魔力が放たれたことは感覚で分かるのだが、何も起こらなかった。


その様子に、皆揃って首をかしげる。




「・・・失敗?」




私が呟くと、蛇が否定してくる。




(いや、魔力の調和も上手くいっていたし、魔法の発動もしている・・どういうことだ?)




(なに、僕間違っちゃったの?)




アスラが心配そうに私に話しかけてくる。


それに対して答えたのは、私ではなく蛇だった。




(おい精霊、貴様が司る属性は月で合ってるんだろうな?)




(そうだよ、僕はラルーナが初めて星詠みをした三歳の日に生まれ落ちたんだ!)




「えっ?そうなの?」




衝撃の事実だった。


初めて聞かされる言葉に動揺する。


そんな私に、アスラはいたずらが成功した子供の用にはしゃぎまわっていた。


今の話が本当なら、アスラを作ったのは私ってことになるのだろうか。




(本当はもっと早く伝える予定だったんだけど、話せる機会がなかったからね!僕は君に初めて作られた精霊なんだよ!よかった、やっと伝えられたよ!)




「そうだったんだ・・」




私はその言葉を聞いて初めて星詠みを母と行った時の光景が頭に浮かぶ。


あの時はただ星を見ているだけで楽しくて、そこから私は星を見ることが大好きになったのだ。


私が懐かしさに浸り、それをアスラが嬉しそうに見つめている横で蛇は考察を続けているようだった。




蛇にとって私たちの思い出などかけらも興味がないのだろう。


今興味があるのは先ほど起こった現象についての答えのみ、そんな感じに雰囲気だった。




(ふむ、月属性の魔法には重力や斥力、引力といった不思議な力を持つこの世でも稀有な魔法に、精神操作や魅了などの意識に働きかける魔法の二つが主に上げられるが・・・もしかすると貴様は今精神を惑わせる魔法を放ったのかもしれないな。)




「なるほど、そういうことならさっき起こったことも納得できるね・・」




重力グラヴィティは私もよく使ってるから知っている。


今じゃこの魔法の使い勝手の良さに一番多用している魔法だともいえる。


それほど強力な魔法なのだ、木に向かって放てばその木は上からの重力に押しつぶされて潰れてしまうだろう。


反対に精神操作などの魔法は、私もよくわかっていない。


使った際の効果や使い方などは女神の加護をいただいた際に分かっていたのだが、実際に魔物に使ってみた結果よくわからなかったというのが感想だった。


確かに魔法が使えたことはわかるのだが、相手の行動が何か変わるわけでも弱体化するわけでもなかったからだ。




そういうわけで、一度だけ使った精神操作の魔法はそれから使っていない。


特に有用な魔法ではないならば、別の魔法を使った方が早いと考えた。




(よくわかんなーい!)




アスラは暢気にそう言って私の肩にとまった。




「じゃあ魔物で試した方がいいってこと?」




(そうだな、まだ決まったわけではないがそうするのがいいだろうな・・)




そう言って私たちは魔物を探すために森の奥へと歩いて行った。









水刃ウォーターカッター!)




森の中を歩くこと数十分、私たちは歩き始めて五度目となる魔物との接敵にあっていた。


蛇の放った水刃によって、身長二M五十Cはあるオークの首が胴から離れて地面に落ちる。




「それにしても、襲ってくる魔物は私に目もくれずにあなたばかり狙うのね・・」




森で接敵した魔物は例外なくすべて蛇に向かって敵意を放っており、近くにいる私には警戒はしていても手を出しては来なかった。


一度だけ手を出して反撃されたことはあったが、私から攻撃でもしない限りこちらのことは放置しているようだ。


そのためアスラが魔法を放つ前に蛇に倒され、いまだ魔法は試せずにいた。




(我は魔物にとっては害のようなものだからな、本能で分かるんだろう・・・全く、難儀なものだ・・)




「そうなの?そういえば聞いてなかったけど、あなたの目的は何なの?」




(今は言えぬ・・だが、いずれ来る混沌のために我はどんなことをしても使命を遂げねばならぬ・・・)




「ふーん、まぁいいけどさ・・」




(よくなーい!!僕も魔法速く使いたーい!!)




アスラが後ろで文句を言いながら飛び回っているのをなだめながら、私は収納魔法から魔玉を取り出して今倒されたオークから魔力を吸い取る。


オークはその巨体をみるみるしぼめていき、あっという間に灰に変わって風に消えていった。




(・・・・・・)




私を、というより収妖の魔玉をじっと見る蛇に向かって問いかける。




「どうかしたの・・?」




(いや・・・なにも)




魔物なら別にいいかと魔玉を見せたのだが、それを見た蛇はまるで忌々しい目をしながらその魔玉を見るだけだった。


私は不思議に思いながらもアスラの魔法が試せる相手を探すために先を急いだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

後書き


昨日は久しぶりに親戚の仕事を手伝いで草刈りに行ってたんですけど・・今日、朝筋肉痛やばすぎて十分くらいベッドから起き上がれませんでした。笑

久しぶりに体動かしたからですかね・・これを書いてる夜もまだ全身が痛くて体だるいです・・・


やっぱり定期的に体動かさないとだめですね、ジムにでも通おうかな。


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