第36話 新しい挑戦

翌朝、私は固い椅子の上で目覚めた。


頭がまだ寝ているのか、まともな思考ができない。




「あいたたた、なんで椅子で寝てるのかしら・・」




硬くなった体を伸ばすように体を背もたれに預ける。


すると頭の中に耳障りな声が響いてくる。




(随分と間抜けな顔をしているな愚娘。起きたのならさっさと飯の支度をしろ、我は腹が減ったぞ)




「なんで私があなたのご飯を用意しなくちゃいけないのよ・・・ケガが治ったのなら今すぐに出て行って。あなたといると調子が崩れるの。」




(ふむ、昨日あれから考えてみたんだが、星詠みの巫女がいるのは我にとって都合がいい。魔力も他の者より上質だ。なので愚娘、貴様を我のそばに控えることを許可してやる!ありがたく思えよ)




「そんなのこっちからお断りよ!なんで私があなたの下につかなきゃいけないの!そもそも私にだってやることがあるんだからあなたに構っている暇なんてないわ!」




(なに!?貴様、この我が直々に言ってやっているというのに従わないだと!?何様だ!)




「私のセリフよ!!」




朝から言い争う光景を見て、アスラは所在なしといった感じで私たちの周りを飛び回っていた。




(ええい先ほどから鬱陶しい精霊だ!ちょろちょろするな、目障りだ!)




そう言って尻尾で器用にアスラを追い払う蛇を見て私は驚く。




「あなたアスラが見えるの?」




(何を言っておる、精霊など我のしもべのようなものぞ。月の精霊は初めて見るが一緒のようなものだろう。)




言っている意味があまりよく分からなかったが、精霊とは親しい間柄だというのはわかった。


それならば、と思い私は前々から気になっていた質問を投げかける。




「あなたって精霊魔法の扱い方も知ってる?」




そう言うと、蛇は豆鉄砲を食らったかのように放心する。




(何を言っておるのだ?愚娘、お前は星詠みの巫女だろう?妖精の魔力を扱うお前が、何故わざわざそれよりも弱い魔法を使いたいのだ?意味がわからん。)




「精霊魔法は強力だって聞いたわ?普通の魔法よりも魔力を使わないし威力も高いって。」




蛇はそれを聞いてやれやれといった様子で首を左右に振って説明を始める。




(精霊魔法とは精霊と意思を通わせ、精霊を媒体にして術者と精霊の魔力を合わせて放つ魔法のことだ。確かにそこに精霊の魔力が介入することで魔法の威力は上がるだろう、だがさっきも言ったが貴様は星詠みの巫女だ。妖精の魔力を扱う貴様の魔法とではハッキリ言って格が違う。精霊と妖精の間にはそれ程までに種族としての格が存在する。)




「それでも、手数が多いに越したことはない。」




(全く、口の減らんやつだ。そもそも精霊魔法を知っていたとして、なぜ我が愚娘なんかに教えてやらねばならん・・馬鹿馬鹿しい)




そう言って話を終わらせ、蛇は机に置いていた干し肉を勝手に食べ始めた。


それにまた頭に来た私は、その傲慢な態度を逆手にとって仕返ししようと画策する。




「あら?あなたは助けて貰ったのに何も返さず、のうのうと生きる恩知らずなのかしら?介抱して魔力まで上げて、挙句の果てに飯まで貰って・・・まるで物乞いね、哀れなものだわ。」




(なんだと貴様!!我が物乞いだと!?)




「そうよ、与えられるばかりであれをくれ、これをくれって物乞い以外のなんだと言うのよ。私なら恥ずかしくて生きられないわ、与えられたら何か返さないとね。」




(貴様ァ!いいだろう!我が貴様に精霊魔法の使い方を教えてやる!!)




意外と扱いやすいヤツだ、そう思った私は用意をしてローブの中に蛇を隠し、森へと向かった。







森へとやってきた私たちは、ある程度一目のつかない場所まで移動して蛇に精霊魔法の使い方を習っていた。




(まず、前提として精霊魔法を扱うには精霊と心を通わせる必要がある。いくら自我の薄い精霊といえど、気に入ったやつにしか魔力を供給することはない。愚娘に付いている時点でその精霊は貴様を気にいっているといってもいいだろう。あとは対話だ、精霊を掌に乗せて魔力を少しづつ送ってみろ)




「わかった、アスラこっちおいで。」




思いのほか丁寧に教えてくれる蛇に毒気を抜かれながら、私は言われたことを素直に実行する。


手のひらに乗ったアスラに魔力を少しづつ送っていく。




(そうだ、そのままその精霊に頭の中で話しかけてみろ)




(アスラ・・アスラ聞こえる?)




私が語りかけると、蛇とは違う幼い声が頭の中に弱々しく響いてくる。




(・・・-ナ、ルーナ!・・・ラルーナ!」




手の中のアスラがふるふると体を揺らす。


何となく喜びの感情が伝わってくる。


この現象は覚えがある。最初の方もこうやって感情が分かることがあった。


再びわかるようになったことに嬉しさを覚える。




(やっと話せたね!もう・・遅いよ!ずっと待ってたのに!)




アスラはすねた子供のような声音で語りかけてくる。


そうやってアスラと会話できたことに喜んでいると、蛇が会話に混ざってくる。




(ふむ、無事に会話できたようだな・・では、次に進むぞ)




(僕このおじさんきらーい!ラルーナにいじわるばっかりするんだもん!)




(おじっ!??おい貴様!殺されたいのか!?)




(あはははは!やれるもんならやってみろーー!)




そう言ってアスラは空高く飛んでいく。




(貴様!卑怯だぞ!下りてこい!)




蛇のこの中での立ち位置がだんだんと決まってきていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

後書き


ずっと周りを飛び回るだけのアスラをどうしようか考えていまして、もうこの際喋らせるか!って感じでこんな感じになりました。笑

気づけば全員念話になってしまいましたが、喋らないよりはいいかと割り切りました!笑

そうでもしないと、ラルーナ全然喋らないんだもん。。。



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