第32話 神秘との出会い
あの後森から帰って宿に直帰した私は、次の日の朝にギルドに素材を売りに来ていた。
「ラルーナ様、おはようございます!」
「おはようございます!マークの件はありがとうございました。無事に合流出来ましたので!」
「そうですか!それはよかったです!今日は素材の売却ですか?」
「はい、たくさんあるんですけどここで出しても?」
そういって私が素材を入れる用の革袋を持ち上げるとラルーナは提案を持ちかける。
「それでしたら、革袋ごとこちらでお預かりしても?奥の方で集計して報酬をお持ちしますが・・」
特に異論はなかったので、私はその提案を受け入れて革袋をレイナに預ける。
その革袋の重さに少しだけ目を見張ったレイナは、それを受け取り奥に消えていった。
しばらく時間ができた私は、依頼ボードを見ながら時間をつぶす。
しかし私が受けられるような依頼はなく、多くが高ランクの依頼だった。
今の私にできることは、森で魔物を狩ることくらいだと思った私は依頼ボードを後にする。
ちょうど精算が終わったレイナがこちらへと手招きしていた。
「お待たせいたしました!こちら報酬となります。」
そういって革袋と一緒に手渡された報酬を確認すると、銀貨九枚に銅貨八枚と今までで一番の稼ぎだった。
思ったよりも稼げたことに私の顔も綻んだ。
「それにしても凄いですね!その歳でそこまで稼がれる方なんて私初めて見ました!」
興奮した様子でそう語りかけてくるレイナに、照れくさくなって「ありがとうございます。」とだけ返した。
そうして会話もそこそこに、私はギルドを飛び出すと今日も森に入るために門へと歩みを進める。
しばらく歩くと、ある露天商が目に入る。
道の端で風呂敷を広げて商品を並べているだけの、これまで町で過ごしてきた中でもよく見た光景。
それが、今日はなぜか無性に気になった。
懐に余裕ができたからなのだろうか。
私はその露天商を覗きに行くことにした。
男が一人客引きもせずに座り込んでおり、他に客はいなかった。
私が商品を見ていると、男は声もかけずにじっと私のことを見るだけだった。
置いてあるのはいわゆる雑貨ばかり。
どれも少し年季がたっているのか古ぼけていた。
そんな中で、唯一私の目を引くものを見つけた。
それは日記だった。
少し古ぼけているのは変わらず、表紙に星が並んでいるのが凄く幻想的に見えた。
私は男に尋ねる。
「すみません・・これはいくらですか?」
「・・・・・銅貨三枚」
思ったよりも安い値段に私はすぐに購入することを決める。
銅貨を渡して日記を受け取る。
「・・・・・毎度」
何を考えているのか最後までわからなかったが、目当てのものは手に入ったので私はそこを後にする。
最後まで後頭部に男の視線を浴びているのが分かった。
男の視線は気になったが、いい買い物ができたと私の気分は良かった。
そうしてもはやおなじみになった森にやってきた私は、今日も中に入って探索を続ける。
薬草を採集しつつ、襲ってきた魔物を倒して森の奥に足を踏み入れる。
「今日はなんだか魔物の数が少ない気がするなぁ・・」
昨日よりも襲ってくる魔物の数が少なく、採集は順調に進んだ。
ずいぶん森の奥まで入ってきた。
ここまでくると、薬草を採集するものはあまりいないのか、群生地を多く見つけることができた。
思ったよりも採れた薬草にホクホクしながら森を歩いていると、前から遠吠えが聞こえてきた。
私は緩んでいた気を引き締め直し、身をかがめて警戒する。
しばらくしても襲ってこない魔物に、私は警戒しつつその歩を進める。
近づくにつれ、その光景が目に入ってくる。
「ガウッガァ!!」
「ガウッ!!」
森の中で魔物同士が戦闘を行っていた。
一方はフォレストウルフ、昨日も戦った魔物が三匹で一体の魔物を取り囲んでいた。
その囲まれている魔物に私の目は奪われる。
それは穢れのないほどの白さを纏う蛇だった。
戦い続けているためか。その体は土埃で汚れているし、鱗も所々剥がれて血が流れている。
しかし、それを差し引いてもなお美しいと思える神聖さがその蛇にはあった。
私が呆然とその蛇に視線を釘付けにしている間にも、展開は進んでいく。
辺りを見回してみると、フォレストウルフの死体が二体転がっていた。
二体とも鋭い刃物で切り付けられたような様相をしており血を流していた。
この蛇がやったのだろうか。
フォレストウルフは数の優位に立っているにもかかわらず、攻めあぐねているようだった。
囲んで威嚇するだけでその距離を縮めることはない。
それを好機ととらえたのか、蛇は攻撃に転じる。
蛇の前に水球が集まりその姿を変じさせていく。
人の顔ほどの大きさの水球は今は鋭い水の刃へと姿を変えた。
「ガァ!ガウガァ!」
一体の狼が警戒するような声を上げる。
その声が聞こえた直後、蛇がその水刃の魔法を正面にいる狼に放つ。
水刃は知覚できるぎりぎりの速さで飛んでいき、正確に正面の狼の首元に当たる。
狼の首に当たってなお、その勢いを弱めない水刃は狼の首を落とした後、背後の木々を切り飛ばしながら、奥に消えていった。
また仲間がやられたことに動揺した狼はその足をわずかに後ずらす。
腰が引けて戦意が無くなりかけているのが見ている私にもわかった。
蛇は前方の死体を一瞥すると、背後の狼に向き直る。
傷を負って弱っているにもかかわらず、その視線は衰えてはいなかった。
力強い視線を相手に向け、舌をせわしなく動かして威嚇する。
魔物たちの間でしばしの沈黙が流れる。
私も息をのんでその光景を見守る。
いつまでそうしていたのか、辺りは風を受けた木々の葉が音を鳴らす。
そうして、今までより一番強い風が葉を揺らし、木の葉が魔物たちの間に落ちる刹那、この緊迫した空気に耐えきれなかったのか、一体の狼が我慢できずに仲間を置いて蛇に向かって駆け出す。
しかし、一変血迷ったかに見えたその攻撃は、蛇に対して有効であった。
突撃してきた狼に対して、蛇はその身をくねらせてその場を離脱しようとする。
そのままいけば、蛇はぎりぎりで回避できるはずだった。
しかし、そこでフォレストウルフは固有魔法を使う。
先にも言った通り、魔物はそれぞれ一種につき一つの固有の魔法を持つ。
フォレストウルフの固有魔法は、風纏い。
その名の通り風を体に纏って身体強化を促す魔法であり、単純にしてその効果は絶大。
目に見えて速度が上がったフォレストウルフは、その場から引こうとしていた蛇に追いつきそのとがった爪で蛇の体を引き裂く。
「シャァーー!」
美しい白の体から、縦に三本の赤い線が入る。
引き裂かれ吹き飛ばされた蛇は木の幹にその体をぶつけて落ちる。
ぐったりと木の根で体を横たわらす蛇に、とどめを刺さんと狼二匹が駆けていく。
蛇はかろうじて体を起こすのがやっとで、狼を睨むことしかできていなかった。
その距離が縮まっていく。
蛇は最後の力を振り絞ってその体を起こし、渾身の魔法を発動させる。
その瞬間。私の足元が揺れたのを感じる。
その揺れはだんだんと強くなっていき、徐々に近づいてくるように感じた。
その影響を受けて、今まさにとどめを刺さんと疾走していた狼たちもその足を止められ、頻りに首を振って異変を突き止めようとしていた。
そんな中、蛇だけが視線を狼から外さず何かを狙っているようだった。
そうして、立っているのもやっとなくらい揺れがひどくなって私も退散を視野に入れ始めたとき、目の前で爆発が起こる。
それは一体の狼の真下で起こった。
突如地面が膨らんだかと思えば、地面から間欠泉のように水が噴き出し、その体をどこかに飛ばしていった。
ついに一体だけになった狼は、仲間が目の前からいなくなる光景を見て一目散に退散を選んだようだった。
元々集団で狩りを行う種族なだけに、仲間がいなくなって恐れをなしたのだろう。
そうして、周囲には私と蛇の一人と一匹だけになった。
突然水が噴き出した地面は最初に比べると弱くなっているが今も絶えず水が噴き出しており、水たまりができていた。
蛇に目を向けると最後の力を使って気を失ったのかピクリとも動かなかった。
私は慎重に蛇に向けて歩を進める。
そうして時間をかけて蛇の前までたどり着いた私は、ここからどうするか思案する。
全身が白い蛇など初めて見たし、何よりこの蛇を殺す気にはなれなかった。
それはなぜかと問われれば、漠然とした答えしか用意することができない。
他の魔物とは違い、この蛇には知性があるように感じた。
なぜそう思ったのかと問われればわからないと答えるだろう。
それくらい漠然とした理由だからだ。
とにかく、殺すことに抵抗を覚えた私はこの蛇を助けたいと思っていた。
しかし蛇の、ましてや魔物の回復方法などわかるわけもなかった。
回復魔法を使えれば早かったのだろうが、私には適性がないのか使うことができない。
「うーん…どうしよっか?」
アスラに問いかけながら、私は頭を悩ませた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
後書き
ストックが貯まったら貯まったでまだいけるなおもて執筆が滞りますね。笑
自分の性格が嫌になります。笑
ストックを作り続けることができる人を尊敬します。
もしこの話が面白い!続きが気になると少しでも思っていただけましたらフォローと★での評価よろしくお願いします!、私のモチベーションに繋がります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます