第30話 ドワーフの心意気

朝起きて朝食を食べた私は、露店を冷やかしながら時間をつぶし、昼過ぎに防具屋であるタートル・ピリオドに、防具を受け取りに来ていた。


扉を開けて店に入った私にラックスは手を挙げて答える。




「よぉ!遅かったじゃねーか!もう防具はできてるぜ。」




「おはようございます!約束通り昼過ぎに来たつもりだったんだけど・・」




「そんなこと言ったっけか?徹夜して頭が馬鹿になっちまってるぜ・・」




「あはは、それで・・防具は・・?」




「おう、ちょっと待ってろ!」




そういうとラックスは店の奥に消えていった。


しばらく待っていると、白いローブを持ったラックスが姿を現す。




「ほらよ!これが頼まれていたもんだ!」




そう言ってラックスは手に持ったローブを私に手渡す。


それを受け取った私は、「着てみろ。」という声に従ってローブを着用する。




少しずっしりとした重みを感じるローブは少しだけ丈が長かった。


全体的にゆったりとした作りになっており、白を基調としたフードがついているローブで、左右の袖にかけて首の所から青のラインが一本走っている。


少し大きすぎないだろうか、これでは兄のおさがりを着ている妹のように見えるかもしれない。




「がはは、やっぱり少しだけ大きいな!だがまぁ、ガキはすぐにでかくなるもんだ!自分が思ったより早くそれが似合うようになると思うぜ!」




そう言ってラックスは特に気にしてないように笑った。


確かに言われてみればその通りかと、私は納得してこれからの相棒になるローブを撫でた。


そんな私に満足そうな表情を浮かべたラックスは私にローブの説明を続ける。




「いいか、そのローブは主にマジックシープの毛を使って作られてる。こいつは着用者の魔法の発動を手助けすることができる・・具体的には魔法発動の速度上昇だな!


そんで、防具としても使えるように裏地にタックルブルの皮を使うことで衝撃を和らげることができるようになってる、少し重いのはそいつの皮を使ってるからだな。


更にラスピトルテって宝石を砕いて顔料として用い装飾することで、魔法の威力を高める効果も付与してあるぜ!」




自慢げに語るそれが真実なら凄いことだ。


魔法使いとしては有用である魔法の効果を引き上げてくれる付与までついて、更に防具としても使えるように仕上げるなんて、ラックスは凄腕の職人だったのだろうか。


期待以上の出来に笑みがこぼれた。


言ってしまえば何の飾り気もない簡素な見た目に、機能だけが詰め込まれている。


しかし、派手で目立つよりもよっぽどいいと、私はこの防具を気にいった。




防具の相場は全然わからないが、果たしてこれだけのものが銀貨一枚で収まるものなのだろうか。


私は気になって尋ねる。




「ありがとう!すごく気に入った・・でも、本当に銀貨一枚でいいの?安すぎる気がするんだけど・・・」




「ガキが気にすることじゃねぇ・・俺が銀貨一枚でいいって言ったんだ!男に二言はねぇよ!」




「でも・・・」




なおも食い下がる私にラックスは言う。




「これからもこの店を贔屓にしてくれたらそれでいいんだよ!安心しろ値引きは今回だけだ!次からは適正価格で売ってやるからよ!」




そういっていい笑顔を浮かべるラックスに私は苦笑する。


そこまで言われてしまえば、ここでごねても彼の機嫌を損ねるだけだろう。




「でもなんで・・そこまでしてくれるの?」




「・・・・ただのきまぐれだ!」




恥ずかしそうに顔を背けて言い放つむさくるしい男というこの場に似つかない状況に、私はつい吹き出してしまう。


心から笑うなんていつぶりだろうか、そうさせるほどの破壊力がこの状況にはあった。


ラックスはわざとらしく咳ばらいを一つ挟み、締めくくる。




「まぁなんだ、色々言ったが餞別みたいなもんだ!気に入ってくれたらまたうちで防具を依頼してくれりゃそれでいいんだよ!


うちの防具を使うんだ、死ぬんじゃねぇぞ!これで死なれたら目覚めが悪いからな!」




そう言ってにやりと笑う男はいつもの調子に戻っていた。


私も笑みを浮かべながら頷いて約束の報酬を手渡す。




「今日は本当にありがとう!これ、約束のお金・・・」




「おう、確かにいただいたぜ!今日からその防具はお前さんのもんだ!それとこれもやるよ、ただの短剣だけどな。」




そう言って手渡されたのはどこにでも売っているような普通の短剣だった。


ただ、鞘から抜いてみると素人目にもよく研がれているのが分かるほど切っ先が鋭利にとがっていた。




「護身用にでも素材の剥ぎ取りにでも使うといい・・趣味で研いだものだから値段も気にしなくていいぜ。」




私は礼を言ってそれを受け取る。


もはや何を言っても頑なに押し付けてくるだろう。


それならば、礼を言って素直に受け取るのが一番いいと思った。


その様子に満足そうにしている彼を見れば、これで正解だったのだと思った。




「本当に何もかもありがとう・・・また絶対頼みに来るね!」




「あぁそれでいい・・何かいい素材が手に入ったら持参してくるといい。その素材で何か必要なものを作ってやるよ!」




防具の性能もかねて、これから森に入ろうとしていた私はそれを最後に店を後にすることを決めた。


背を向けた私に、ラックスが話しかける。




「気を付けていけよ?」




「うん、行ってきます!」




そうして私は新しい装備を身に着けてタートル・ピリオドを後にした。



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後書き


ついに防具を身に着けた主人公。

ここまで本当に長かった。


やっと次回から森の中に入っての探索となります!

二章もよろしくお願いします!!


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