第28話 幕間 在りし日の幸せ

「ラルーナ!こっちだこっち!」




「待ってよアルマー!はぁはぁ」




「こらアルマ!またラルーナをいじめてるんじゃないでしょうね!」




「げっ!マリー姉!いじめてねーよ!!」




マリーはラルーナを放って先を急ごうとするアルマに怒る。


それを慌てたように否定し、強がって反抗的な態度で抗議するアルマ。


この三人の間では、それが当たり前の日常だった。




三人は今日、近くの川に魚釣りに行く予定だった。


アルマは、はやる気持ちを抑えられずに二人をせかす。




「早く行こうぜ!俺が今日一番でかい魚を釣り上げてやるんだ!」




「そんなこと言って・・あなたこの間はエサのミミズをつけることできなかったじゃない。今日は自分でつけてよね!」




「アルマはビビりだもんね!」




「俺はビビりじゃない!もうミミズだってつけれるんだ!!」




ラルーナのビビりという言葉に過剰に反応し、アルマが吠える。


何もかもに噛みつくアルマはそれでよく村の成人したばかりの大人ともめている。


それを仲介するのがいつもマリーだった。


それだけで、彼女がどれだけ苦労しているかわかるだろう。




「もう、いいから急ぐわよ!お母さんが今日の晩御飯は魚料理って気合入ってるんだから!釣れなかったなんて言ったら怒られちゃう。」




マリーがそう言って先を急がす。


三人は小走りで近くの川へと向かった。






「やったー五匹目!」




「ちぇ!なんだよラルーナばっかり!ああーまた餌だけ取られた!」




「やっぱり日ごろの行いってやつじゃない?ほら、私いつもいい子だから!」




「俺だって毎日洗い物したり、洗濯物畳んだりしてるんだぞ!」




「それはクリタおばさんにどやされて仕方なくやってるだけじゃない!」




「う、うるせぇ!母ちゃんの名前は今出すなよー。」




アルマは母であるクリタに弱い。


その名前を出されれば、強く出られず口をごもつかせることしかできなかった。


その日は日が傾いて辺りが赤くなるまで釣りをして遊んでいた。




帰り道、籠いっぱいに入った魚を見て、ラルーナが言った。




「ふふっ!いっぱい釣れてよかったね!これだけあったらマリーの家のステラおばさんも喜ぶね!」




「そうね!でも少し釣りすぎちゃったかも。他の人にもおすそ分けしようか。」




それを聞いたアルマが不満をこぼす。




「なんでだよー!干して備蓄にしたらいいじゃねぇか!俺たちが釣ったんだから俺たちのもんだろ?」




「あのねぇー。うちの村はただでさえちっちゃいんだから、そんなことしてたら悪目立ちしちゃうでしょ!無くなったらまた釣りに行けばいいじゃない。」




「けどよー・・・」




何とかアルマを説き伏せて帰路につく。


村に着いた私たちは、余った魚を村の人たちに配った。




その日の夕食・・・




「でね!結局私が一番多く釣ったんだよ!」




ラルーナが瞳を輝かせながら話すのを聞いて、父であるジニアは嬉しそうに相槌を打つ。




「そうか!凄いじゃないか!ラルーナが、普段いい子にしているおかげだな!」




「おかげで美味しい魚が食べれて嬉しいわ!ありがとうねラルーナ。」




「うん!また無くなったら私がいっぱい釣ってきてあげるね!」




それを聞いた両親二人は、微笑ましい視線をラルーナに向ける。


ラルーナはその視線に耐えきれなかったのか、目の前の魚を口いっぱいに頬張った。






〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●




朝日が私の顔を照らす。


目をつむっていてもなお感じる光に、私は不機嫌そうに身をよじる。


できればこのまま目覚めたくはなかった。


いつまでも、あの心地のいい夢の中で過ごしていたかった。


だがそういうわけにもいかない。私にはこの記憶をもう一度やり直すために、何に変えても成し遂げねばならぬ使命がある。


その誓いを思い出すと、いつも体に力が入り気持ちを強く保てた。


心が早く動けとはやし立てる。


その声に従って私は体をベッドから起こした。




「・・・・・・またあの夢か。」




村が滅びてから毎日、このような幸せだったころの記憶を夢に見る。


内容は様々だが、決まって幸せな夢というのだけが共通していた。


最初はこの夢を見るたびに戻りたくて涙を流したが、今はこれを取り戻すための決意に変えて精神を保っていた。




周りを見れば、何を考えているのかわからない微精霊一匹。


私の周りを浮遊する精霊に挨拶し、私は備え付けの窓の前に移動する。


私の気持ちとは裏腹に、空はどこまでも澄み渡り乾いた風が窓を揺らしていた。




頭の中にある憂いを一度棚上げし、私は空を仰ぎ見る。




「・・・・・・・待っててね皆。・・・・・私が必ず。」




今一度決意を新たにし、私は部屋を後にした。


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後書き


ここまでで、一章は完結です。


無事に終わらせることができて一安心です。


何せ右も左もわからない状態で始めたので。笑




さて、昨日言った通り今日からちょっとの間お休みいただきます。


すぐに連載再開するつもりでいるので、少しだけお待ちいただければ幸いです。


もしこの話が面白い!続きが気になると少しでも思っていただけましたらフォローと★での評価よろしくお願いします!、私のモチベーションに繋がります!

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