第26話 星詠みの巫女の異変
「ガンズさん!なんでここに?」
マークが現れた男の名を呼ぶ。
ガンズと呼ばれた男は昼間同様下卑た笑みを浮かべて饒舌に語る。
「いやー?ここの宿の料理が美味いって聞いたもんだからよ、ちょっくら酒でも飲みながら食ってたんだが・・・お前と見たことあるガキが一緒に出ていくのが気になってよ!追っかけてきたってわけよ。」
よく見れば男の顔は酒気を帯びて赤らんでおり、完全に出来上がっている様だった。
昼間から飲んでいるのだから無理もないだろう。
しかし、こんな偶然があるのだろうか。
それに彼は、「今日食堂で会った小娘」と言った。
という事は私を認識していたと言うことだ。
上機嫌に語る彼らには気づいた様子が見られなかったのだが、さすがは冒険者といったところか。
そんな事を考えているとガンズが話し出す。
「妹放り出して女と逢い引きたぁお前もいい身分だなぁ!もう妹には愛想尽かしたのか??」
その言葉にマークが噛み付く。
「ち、違います!僕はラルーナに、この子に話があるって呼び出されただけで、、」
その言葉を聞いたガンズの目の色が変わる。
笑みをもう一段階深くし、高笑いしながら話し出した。
「ハッ、ハッハッハッ、アーハッハッハッ!!やっぱり昼間の会話を聞かれてたってことか!もしやと思って尾つけてきたんだが、正解だったって訳だ!」
やはり尾つけられていたのか。
私は今も高笑いを続けるガンズに視線を鋭く向ける。
私の視線を気にしてないという風に軽く流しながら、ガンズは今度は私に問いかける。
「そんな睨むなよ、仲間内じゃ盗賊やってんだ、お前みたいなガキに気づかれちまったら一生笑われもんだぜ。で?どこまで聞いた?」
マークは話についていけてないのか、私とガンズを交互に見て必死に情報を探っていた。
だから私は、マークも理解できる様に簡素に伝える。
「あなた達がマークのお金を騙し取ってそのまま消えようとしてるってとこまで全部聞いたわ。」
「なっ!?」
それを聞いたマークは信じられないといった風に私を見て、目を見開いている。
ガンズはそれを無視しながら大仰な仕草で天を仰ぐ。
「かぁー!そこまで聞かれてたんじゃ仕方ねぇか・・・もうここで、有り金全部貰っちまうしかねぇなぁ・・・おい!」
ガンズがそう言ったと同時に、奴の後ろからもう一人の男が顔を出す。
マークに暴行を働いていたもう一人の男だった。
その男も笑みを張りつけて登場し、私達を一瞥してガンズに話しかける。
「やっぱりあん時のガキじゃねぇか、このガキも連れてくのか?」
「あぁ、ガキに大した期待は出来ねぇが宿に泊まってるくらいだ、多少は持ってるだろう。それに、有り金奪った後に奴隷にでも出しゃあ多少の金にはなる。」
「それもそうか・・・よし、じゃあさっさと行くぞ。おい!テメェら大人しく俺らの後に着いてこい。ここだと騒ぎになるからな!」
「ムージ、、なんでおめぇが仕切ってんだよ!ここまで事を運んだのは俺だぞ!?おめぇは酒飲んでただけじゃねぇか!」
「あぁん?どうでもいいだろそんなこと…早く終わらせちまおうぜ!じゃねーと娼館がしまっちまう。」
「・・・ったく、まぁいいけどよ。おら!さっさと着いてこい。」
そう言って彼らは私たちの前を歩いて表道の方に歩いていく。
ちらり、とマークに視線を向ければ、顔は怒りに染まっており、彼らに大人しく着いていくようだった。
逃げることなど頭にもないようだった。
それは妹の命を軽視していた男達への怒りか、それともまんまと彼らに騙されていた自分への怒りか、その両方か。
私には分からなかった。
とにかく、ここまで足を突っ込んだのにここで自分だけ逃げるというのは私にはできなかった。
これでマークに死なれても目覚めが悪い。
そう思った私は、いつでも魔法を使える準備を整えながら、彼らの後についていった。
二人について歩くことしばらく、たどり着いたのは今は使われてないのか屋根が抜け落ち草が生い茂っている廃教会だった。
裏道を何度も曲がり、もはや自力で帰ることも助けが来るのも期待できない場所だった。
もはやここが何区なのかもわからない。
「おらぁ、はやく中に入りやがれ!ちびるんじゃねぇぞ、へへ・・・」
そう言って中に入ることを強要された私たちは、特に反抗することもなく中に入っていく。
中からは月が見えるほどの穴が開いており、奥中央に立つ神を模した像がその月明かりを受けて神聖な雰囲気を醸していた。
そんな雰囲気に私が飲まれていると、これまで黙っていたマークが我慢できないといった様子で叫んだ。
「さっきの言葉は本当なのか!?お前らは僕から金だけ受け取っていなくなるつもりだったのか!?」
奥の長椅子の背に腰かけている二人の内、ガンズの方が答える。
「いっちょ前に生意気な口きくようになってんじゃねぇか!そうさ、俺らは何も知らないお前を騙して金だけ貰ってとんずらするはずだった!お前の妹のことなんか知ったこっちゃないからな!」
そう言って笑うガンズに、マークは殺意のこもった眼で睨む。
もう周りは見えていないようだった。
いつ飛び出してもおかしくない様子のマークに、私は言葉をかける。
「少し、落ち着いてください。このまま飛び出してもどうにもなりません、やり返されるのがオチです。」
私の言葉を受けて、マークは一つ深呼吸をする。
少し落ち着いたか、そう思っていると向こうの今度はムージの方がまた煽ってくる。
「ガキに手綱握られやがって、どこまでも情けない野郎だ!そんなんだから俺らにも騙され、食い物にされる!お前じゃ妹は救えねーよ!」
それを聞いたマークが静かに返す。
下を向いているため髪で目元が覆われ表情はうかがえない。
「・・・・・黙れ。」
その言葉が聞こえなかったのか、男たちはさらに煽りを激しくする。
「お前のせいで、病気の妹は命を落とすんだ!その亡骸の前で言えよ!!弱くてごめんなさいってなぁ!!」
「弱いやつが欲をかくからこうなる!てめぇみたいなもんは何も望んじゃいけねぇんだよ!雑魚のくせに人を助けたいなんて笑わせるんじゃねぇ!」
「黙れッ!!!!!」
マークが吠える。
伏せていた顔を前に向け、視線だけで射殺さんばかりに吊り上がった眼を引っ提げて駆ける。
腰に帯剣していた剣を抜き、今まさに奴らの命を刈り取らんとして走り出す。
それをみてもなお、余裕の表情を崩さない彼らは椅子から腰を上げるとムージが抜剣してマークを向かい打つ。
五Mあった距離はすぐに縮まり、お互いの剣が交差する。
金属同士のぶつかる音が教会内に響き、拮抗していたかに見えた両者の力関係はすぐに変化する。
必死の表情で力を籠めるマークに対し、ムージは笑みを浮かべながら押し返す。
「いきり立って突っ込んできたってお前じゃ俺にはかなわねぇんだよ!!」
そう言いながら言葉の最後に力を込めて剣を振り切る。
押し返されたマークはそのまま長椅子の角に背部を強打する。
「かっは!」
肺の空気がすべて出されたかのような息を吐き出し、マークはうずくまる。
苦しそうな呼吸を繰り返しており、もしかしたら今のでどこかの骨が折れたのかもしれない。
「雑魚のくせに力の差も分からねぇで突っ込んできやがって!さっさと諦めりゃいいものを。」
ムージはつまらない物でも見るようにマークを一瞥した後、私に話しかける。
「おい!お前も今ので分かったろ!早く降参して、俺たちに有り金全部おいt」
「
その言葉を男が最後まで放つことはなかった。
いつまでも悠長に喋っているその隙をついて、私はずっと魔力を練っていた魔法を放つ。
少し込めすぎてしまったのか、いつもの魔法よりも大きい火球は得意げに話すムージの右手を肩から焼き飛ばす。
「うがぁあああぁぁ!手が!!!俺の手が!!!!いてぇ!!いてぇよぉ!!!!」
終始余裕を浮かべて話していた男は、今は脂汗を滝のように流しながら呻いていた。
それを冷めた視線で一瞥し、私は口を開く。
「もうそのうるさい口を早く閉じて。あなた達の存在が許せない・・次喋ったら殺すから」
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後書き
最初にこのモブに名をつけるかどうか悩んだんですけど、まぁ長くなりそうやし付けるかぁみたいな感じでこいつらの名前が決まりました。笑
なんで全然愛着も何も湧いてません。モブですしね。。
もしこの話が面白い!続きが気になると少しでも思っていただけましたらフォローと★での評価よろしくお願いします!、私のモチベーションに繋がります!
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