第25話 下卑た声が響く食堂

男たちは下卑た笑みを響かせながら大声で談笑していた。


店にいたほかの客も店員もその様子を冷めた目で見るが、酔っぱらった彼らは気づかない。


それだけではなく、更に声の音量を一段階上げて話し出す。




「かっかっかっ!ちげぇねぇや!ちょっと優しくしたらすぐに信じやがって、馬鹿な奴だぜ!」




「こんな面のやつを信じるなんてそいつも間抜けな奴だな!」




「ガハハ!てめーらの面も似たようなもんじゃねぇか!」




「けどよー、まだ金は貰ってねーんだろ?気づかれたらどうすんだよ?」




「そのときゃ有り金全部奪ってトンズラよ!元々金を巻き上げりゃ消える予定だったんだ、ばれるのが早いか遅いかのちがいしかねぇ!」




「ギャハハハ!ひでぇ!!」




そうやって物騒な話を周りに聞こえても構わないといった声量で話す男たちを私は見たことがあった。


正確には二人だけ見たことがあるのだが、その二人はマークに暴行を働いていた男たちだった。




つい最近私はマークからその話を聞いたばかりなので、どうしようかと思案する。


今の話が本当なら、必死に今も妹のために集めているお金は何の意味も持たないことになる。


それどころか、金だけ受け取ってこいつらは消えるといっていた。


それはつまり薬の材料も手に入らないばかりか、残っていればいくらか足しにできるお金も残らないということ。




前日に妹のことを苦しげに話すマークの顔が脳裏に浮かぶ。


幸いまだお金は渡していない様子だし、今マークと話すことができれば未然に阻止できるだろう。


そう楽観的に考えていた私は、この後マークを探してみようと思い料理を片付ける。




元々私には関係のない話だと軽く聞いていた話が、こんなことになるなんて思いもしなかったが、聞いてしまった以上放っておくのもばつが悪い。


だからこの件をマークに伝えれば、それからのことは彼が何とかするだろう、そんな気持ちでラルーナは見つかる前に食堂を後にする。




出ていく私の横顔を観察するように見る男に気づかぬまま。




「おい、ありゃあ・・・・」




「んん?なんだぁ?」




最後にそんな会話をしているのに気づかぬまま食堂を後にした私は、マークがどこにいるか考える。


確か別れ際に商業区の方に住んでいるみたいなことを言っていた気がするが、あんな広い場所を当てもなく探したって見つけるには時間がかかる。




それよりも、彼もあの日薬草の採取に森にいたということは、今日も金を稼ぎに出ている可能性が高い。


それならば冒険者ギルドで待っていた方が確率が高いのではないか、そう思った私はギルドに向かって歩くことにした。




ギルドに着いた私は、受付にレイナがいるのを確認すると、一度確認をとることにした。




「こんにちは、レイナさん聞きたいことがあるんですけど・・・」




「ラルーナ様?こんにちは、一体なんでしょうか?」




「マークって人知ってますか?藍色の髪の青年なんですけど・・・」




するとレイナは目線を左上に向けて少々思案した後、「あぁー」といいながら答える。




「えぇ!存じ上げております!・・・・・マーク様が何か?」




そう聞いてきた彼女に、私は詳細は伏せて会いたいことを伝える。




「いつ頃返ってくるかわかります?ちょっと会いたいんですけど・・・」




「マーク様なら、そうですねぇいつも日が傾きだすまで帰ってきませんので、今日もあと三時間は返ってこないかもしれませんね・・・」




そういったレイナの言葉を聞いて私は考える。


今から三時間もギルドで待つのは、正直遠慮したかった。


今はまだまばらな人影しかいないが、人が増えてくると厄介ごとに巻き込まれる可能性もある。




どうしようかと悩んでいる私を見て、レイナが問いかける。




「もしよろしければ、言伝しましょうか?マーク様が戻りましたら、ラルーナ様の居場所をお伝えさせていただくことはできますけど・・」




レイナから魅力的な提案が飛んできた私は、それを頼むことにした。


星雲の宿にいるからすぐに会いに来てほしい旨をレイナに話し、私はギルドを後にする。




そのあとは入れ違いになっても困るため、宿の自室で魔法の練習などをしながら時間をつぶす。


予めミランダの方にも私に客が訪ねてきたら教えてほしいと伝えているので、誰かくれば教えてくれるはずだ。


容姿を訪ねられ、藍色の髪の男と答えたときは「もう男を作ったのかい!」とからかわれたがはっきりと否定しておいた。




そんなことを考えながら、日が完全に傾き辺りが暗く染まってきたころに、自室のドアがノックされる。


返事をすると声を張ったミランダが答える。




「ラルーナ!あんたに客だよ!さっき言ってた男が来たけどどうする?部屋に招くのかい?」




「ありがとうございます!いえ、下で話します!」




私も声を張ってそういうと。ミランダはそれを伝えに行ってくれたのか扉の前が静かになる。


急いで脱いでいたワンピースをかぶりなおすと、手櫛で髪を簡単に整えて私は部屋を出る。


階段を下って下に降りると、マークが入り口で立っているのが見えた。




食事でもしながら話そうと考えていたのだが、あいにくちょうど夕食の時間だからか、食堂はいつもの私の席でさえ埋まっていた。


仕方がないので、私はあいさつもそこそこに、マークを連れ立って宿を後にする。


話だけならすぐにでも終わるだろうと思った私は、宿のすぐ横の厩舎がある場所で話すことに決めた。




厩舎の前まで歩いてきた私たちを見て、繋がれている馬が餌でも持ってきてくれたと思ったのか鳴き声を上げている。


それを一瞥した後、マークが先に尋ねてくる。




「レイナさんからラルーナが用があるって聞いてきたんだけど、どうしたんだい?」




そういったマークの表情は少し緊張しているような様子だった。


呼んだはいいものの、そこから話そうかと今日あったことを回想し、私は考える。


そうして、ある程度頭の中でまとまった話をマークに話す。




「昨日帰る時に聞いた妹さんの薬の材料の話なんですけど・・・・」




それを聞いたマークの顔が驚きに変わる。


まさかここでその話が出るとは思わなかったといった表情だった。


続きを促すように黙って頷くマークを見た私は話を再開しようと口を開く。




そこへまるで登場する機会をうかがっていたとばかりに、ゆっくりと一人の男が厩舎の中に入ってくる。


男は私たちを一瞥すると、偶然を装って話しかけてくる。




「あらぁ?依頼主さんと今日食堂で会った小娘じゃねぇか??どうしたこんなところで?」




それは食堂で見た男たち四人の中のマークに暴行を働いている一人であった。



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後書き


おかげさまでなろう様の方でpvが1000を超えました。

一つの区切りに到達したことが純粋に嬉しいですね・・・

こっちも伸びてくれたら嬉しいんですけど、そううまくはいきませんね、、笑

これからも頑張りますのでよろしくお願いします。


もしこの話が面白い!続きが気になると少しでも思っていただけましたらフォローと★での評価よろしくお願いします!、私のモチベーションに繋がります!

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