第21話 人生二度目の脅威
「本当に助かりました!ありがとうございます!」
そう言って依頼主が頭を下げる。
あれから逃げるネコと格闘を行うこと実に三時間、裏道をすべて回ったのではないかというほど走り回り,無事捕獲できたネコを、現在ギルド前で依頼主に引き渡していた。
「いやー、無事に見つかって本当に良かったです・・」
ひっかかれた手をさすりながらつきしまな言葉を返した私に、依頼主は最後までお礼を言いながら帰っていった。
それを見届けた後深い溜息を吐きながら呟く。
「ふぅーネコを捕まえるのがあんなに大変だとは思わなかったなぁ・・・」
どっと疲れた私は、肩を落としながら報酬を受け取るためにギルドの中に入る。
気づけば日も傾いており、依頼を終わらせた冒険者たちが続々と集まってきていた。
人が集まる前に終わらそうと急いで列に並んで自分の番が来るのを待った。
幸いまだそんなに並んでなかったのもあり、比較的早い段階で自分の番が来た私はもはや担当のようになっているレイナに依頼の完了を告げる。
「お疲れさまでした!まさか一日で見つけてきてしまうとは思いませんでした!これが報酬になります。」
そういって銀貨一枚が手渡される。
あの苦労を思えば若干の物足りなさを感じたが、最初から分かっていたことなので黙って受け取り、あらかじめ収納魔法の中からだしていた革袋の中にそれをしまう。
それを安心した表情で見ていたレイナから労いの言葉が届く。
「それにしても、ずいぶん苦戦したようですね!お疲れさまでした。」
「ありがとうございます、思ったよりも大変でした・・・」
引っかかれた傷でも見たのかそういってくるレイナに本当に疲れた様子でそう返す。
それだけ言って後ろに今も増えてきている列待ちの人に交代するためギルドを後にする。
少しの時間しかたっていないはずなのに、帰るころには随分と人が増えていた。
私は厄介ごとに巻き込まれる前に早々に退散した。
宿に帰った私は、定位置の席に腰を下ろし食事をする。
食事をとっているとミランダから今日は何していたのかを事細かに聞かれたので、私は今日あったことを話していく。
「そうかい、今日は町で依頼をこなしてきたのかい。そりゃ安全でいいねぇ!」
ミランダは町で依頼をこなしてきたことに安心している様子だった。
しばし談笑を交わし、私は部屋に戻って横になる。
「はぁ今日は本当に疲れたよ、まさかあんなに走り回るなんて思わなかった・・・」
相変わらず返事のないアスラに話しかけながら天井を見る。
いつまでも終わらない追いかけっこに最後は魔法を使う羽目になったほどだ。
まさかあそこまでてこずるなんて思ってもみなかった。
「まぁ一日で見つけられたのは運がよかったかな。」
最悪何日も町を捜索することも覚悟していたため、早く終わったことはよかった。
想定よりも町を回ることはできなかったが、それでも少しはどこに何があるか把握できたことは僥倖だった。
「それにしても、何か忘れてる気がするんだけど・・・何だったかなぁ。」
ネコを探しているときに何か問題があったはずなのだが、疲れて休息を求めている脳はそれ以上のことを思い出すことはなかった。
「思い出さないってことは、たいしたことでもないか・・・今日はもう寝よう。」
結局思い出せないことをたいした問題じゃないと棚に上げて、私は目を閉じた。
翌朝起床して朝食を食べた後、少し時間をずらしてギルドに来た私はボードの前に立って何かいい依頼はないか探す。
「うーん、何もない、、か。」
残念ながら私のランクで受けられるような依頼はなかったので、今日はゴブリン討伐にでも行こうと切り替える。
何をするにもお金が必要なので、休むということは考えられなかった。
今一番必要なのはやはり装備だろう。
私の今の格好は黄色みがかった白のワンピースしか身に着けておらず、これで森の中に入るのは少し抵抗があった。
せめて簡素なものでも防具は必要だろう。
まだアルフリッドからもらったお金は少しあるとはいえ、それを防具を買うために使うのはためらわれた。
何かあった時のために残しておきたいという自衛が働いてその一歩が中々踏み出せなかった。
そもそも私は魔法は使えても近接はからっきしなので、近づかれたら終わりだというのも防具を買うのにためらう理由だったりするのだが。
「考えても仕方ないか、地道にコツコツ・・だな。」
森についた私はそう呟きながら今日も外周を回って獲物を探す。
今日はこの間よりも時間があるため一匹でも多く仕留めたいと思いながら、油断しないように注意深く森を観察する。
そうしてしばらく森を眺めながら歩いていると、目の前に一匹のスライムが現れる。
スライムはゴブリンと同じで最弱の魔物なのだが、気を付けなければ皮膚や防具を溶かす溶解液を発射してくるので、私は射程に入る前に魔法で燃やすことに決めた。
この服が溶かされれば代わりはないため、それだけは勘弁だった。
「
まだこちらに気づいていないスライムはよけることもできず火球に飲み込まれた。
苦しそうに身をよじっていたが、特に何ができるわけでもなくしばらくすると蒸発して消えた。
辺りに漂う刺激臭に鼻を抑えながら近づくと焦げた地面の中心に丸い球が落ちていた。
「これがスライムの討伐証明部位の核か・・」
石のような固さに濁った青のような色のそれはスライムの核といわれる討伐証明部位あり、錬金術の素材となるものだ。
何に使うのかわからないそれを収納し、私は次に向かった。
しばらく辺りを探索し、まずまずの収穫を得て満足した私は帰路についていた。
「ゴブリン五匹にスライム三匹、もう今日はこの辺にしとこうかな。」
魔物の討伐はそこで打ち切り、帰りに薬草探しに切り替えて注意深く地面を見ながら来た道を戻っていく。
だが、薬草は森の中に入らないと群生してないのか森の外周では見つけられなかった。
「早く装備整えて森の中に入れるようにしないとな。」
森の中に入れば危険も増えるが、実入りも上がるため町に帰った後防具を見に行こうと思いながら歩いていると、切迫した声が聞こえてくる。
「わあああ!助けてーー!!」
何事かと周囲を見渡してみると、がさがさと草をかき分けながら私の数M前に藍色の髪を目元まで伸ばした青年が姿を現す。
息を切らしながら出てきた青年は私に気づくと目を見開いた後、
「君は、、!?」
何か続けようとした青年の声に野太い声が重なる。
「ブオォォオオ!!」
「、、!?逃げて!!ここは危ない!!」
そう叫んだ青年は、私に近づいて手を取ると町に向かって走り出す。
あまりの突然の展開についていけず、私は呆けていた。
すると後ろから物凄い音が轟いたと思った直後、その魔物は姿を現した。
赤にも見える茶色の毛を纏い、体高二Mはあろうかという岩のような大きさをしたその猪は全身筋肉でできているのではないかというくらい発達していた。
辺りにはなぎ倒しながら突進してきたのか木々が散乱しており、それがこの魔物がどれほどの力を持っているのか物語っていた。
それを見た青年がその魔物の名前を口に出す。
「レッドボア・・・くそここまでか・・」
そう呟いた青年は私の手を放し、背を向けて魔物と対峙する。
「ごめん巻き込んでしまって・・・君だけでも逃げれるように僕が足止めするから、誰か大人の冒険者を見つけたら応援をよこしてほしい!」
気丈に振舞う青年はそういって腰に下げていた剣を構えるが、その手は震えてまともに戦えそうもなかった。
これでは到底時間稼ぎなどできないだろう。
すぐに追いつかれて私もやられる、そう思った私はここで一緒に戦うことを決意する。
前衛がいる分一人でやるよりも戦いやすいだろうと思った。
意を決して魔物と対峙した私に、青年は慌てたように叫ぶ。
「何してるんだ!?あれはEランクの魔物だぞ!!君みたいな子供じゃすぐに殺されるぞ!早く逃げるんだ!!」
「ここで逃げてもすぐに追いつかれます。だったら二人で戦った方が可能性がある。」
「は!?何を言ってるんだ!君じゃ何もできない!!いいから早く逃げろ!!」
その大声が引き金となったのか、機をうかがうように身を低くしていたレッドボアはいきなりこちらに向かって突進してくる。
「くっそ!!時間切れだ!!」
数十Mはあった距離があっという間に縮まる。
馬よりは遅いがその迫力は段違いだった。
レッドボアの殺気に臆しながらも、私は想像した魔法を放つ。
「
その魔法は今も突進してきているレッドボアの目の前の道を凍らせる。
するとレッドボアは突然足を何かに掬われたように体勢を崩しそのまま横腹を削りながら滑り、青年の目の前で止まる。
「っ!?」
何が起きたのかわからない青年は、その最大の好機を逃して目の前のレッドボアを見つめる。
だから私は叫んで攻撃を促した。
「何してるんですか!?早く攻撃してください!!」
「っ!!すまない!!」
私の怒声に肩を跳ね上げた青年がようやく攻撃に移る。
しかし筋肉に覆われているレッドボアの体はなかなか刃が通らず、浅いところで止まっていた。
「ブオオオォオォ!!」
「くっ!」
何が起こったのかわからずしばらく放心していたレッドボアだったが、痛みで我に返ったのか威嚇しながら体勢を立て直す。
青年が一度距離をとったことを確認し、今度は攻撃魔法を放つ。
「
鼻先に直撃した魔法に、レッドボアはたまらず体を跳ねさせながら暴れまわる。
そうして暴れまわったレッドボアは走りながら私を脅威と認めたのか、助走をつけながら突進をしかけてくる。
「っ!!」
突然の行動に魔法の創造が間に合わず固まっている私の目の前に、影が飛び込んでくる。
それが青年だと気づいたのはレッドボアの突進を食らって私もろとも吹き飛ばされた後だった。
「ぐぁぁああ!!」
「きゃ!」
二人して突進を食らったが、私は青年がかばってくれたおかげで緩衝材になり、そこまでのダメージはなかった。
地面に寝転がってそんなことを考えていた私だが、そんな場合じゃないと跳ね起きて周りを確認する。
青年は剣を盾にしたのかその剣は中ほどから折られており、自身も腕が折れたのか、右腕を抑えてうずくまっていた。
レッドボアは次で仕留めるつもりなのか二十Mほど離れて身を低くし、こちらに狙いを定めていた。
このままだと全滅する、そう思った私は妖精の魔力を使うことを決意する。
幸い二日前の星詠みで取り込んだ魔力はまだ残っており一発くらいなら何とかなりそうだった。
絶対に外すわけにはいかないため、私は右手を前に突き出しよく狙いをつける。
レッドボアも何かを感じたのか両者の間に沈黙が流れる。
流れていた沈黙を破ったのは、意外にもうずくまっている青年だった。
「今からでも、、遅くない、、君だけでも逃げるんだ、、!」
この期に及んで私の心配をしてくる青年に笑みを浮かべながら私は返す。
「黙ってて、今集中してる。」
少し気分が高揚しているのか、口調が崩れているのに気が付かぬまま私は相手が仕掛けるのを待つ。
長い沈黙が場を支配し、誰かが息をのむ音が聞こえた刹那、レッドボアは意を決して私に突進を仕掛けてくる。
これまでの中で一番速く、一歩を踏み出す足は力強かった。
みるみる距離が縮まり、残り十Mを切る。
私は相手が射程に入るまでじっと右手を突き出してこらえる。
残り七M、まだ動かない。
相手から伝わってくる覇気に飲まれるのをぐっと顎を引いてこらえる。
そうして相手が私の魔法が確実に当たるところまで踏み込んでくる。
距離にして五M。それを切った瞬間に私は自身の魔力と妖精の魔力をありったけ込めて魔法を叫ぶ。
「
その魔法が放たれた直後、視界は真っ白に塗りつぶされ、世界から音が消えたように思えた。
「っ!!!!?」
青年が息をのむ音が聞こえる。
レッドボアは何をすることも許されぬままその姿を跡形も残らぬまま消滅させられた。
後に残るのは大きく削られた街道と丸く削り取られたようにそこだけ無くなっている森だけだった。
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後書き
昨日の更新をサボってしまいました。
ストック無くなって書いていたんですけど筆が進まなくて休みました。
代わりに今日の文字数が二日分くらいあるんでそれでちゃらにしてくださいすみません。。
もしこの話が面白い!続きが気になると少しでも思っていただけましたらフォローと★での評価よろしくお願いします!、私のモチベーションに繋がります!
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