第20話 探索と捜索

「おはようございます、この依頼受けたいんですけど・・」




「ラルーナ様!おはようございます!昨日はあの後姿が見えなかったんで心配してたんですよ!よかった、ご無事だったんですね!」




昨日は人が多かったため立ち去ったことを伝えた私は、収納魔法の中に入ったゴブリンの耳のことを思い出し尋ねる。




「あの、今ゴブリンの換金をしてもらうことって可能ですか?」




「はい、換金自体はいつでもお受けしていますけど・・」




不思議そうに答えたレイナは私の全身を一度見た後不思議そうな顔をする。


腰袋も何も下げてない私を見てどこに討伐証明部位を持っているか疑問に思っているのだろう。


そう思った私は何もない空間に手を入れ、ゴブリンの耳を二つ手の中に入れるとそれを引き出す。




「じゃあ、お願いします。」




「・・・・!?・・収納魔法までお使いになるとは!!、、はっ!失礼しました、少々お待ちください。」




私の収納魔法を見て声を荒げたレイナは、周りの冒険者数人がこちらを訝しんでいるのを確認すると正気に戻って鑑定を始めた。




「はい、間違いなくゴブリンのものと確認しました。いやぁまさか収納魔法を使える方にお会いできるとは思いませんでした。ラルーナ様、いらぬお世話かとは思いますが、それはあまり人前で見せるのは控えたほうがよろしいかと。」




それを聞いて私は不思議に思った。


確かにエリスがこの魔法を使った時はみたこともない魔法に興奮したが、町に出てくれば魔法を使えるものならほとんどが使えると思っていたのだが違ったのだろうか?




「この魔法って使える人少ないんですか?」




そういうとレイナはそのきれいな顔を吊り上げながら、




「少ないなんてものじゃないですよ!!収納魔法を使える魔法使いなんてこの世に十人もいません!」




小声で怒鳴るという器用なことをするレイナにまさかそんなに少ないとは思わなかった私は今後何か対策をしなければならなくなった事に頭を抱えた。


とりあえずとその件をちゃっかり棚上げしゴブリンの報酬の銅貨六枚をいただいた私は、改めて依頼のことを訪ねる。




「気を付けておきます、それでこの依頼のことなんですけど。」




「はっ!そうでした。そうですね、その依頼ならラルーナ様でもお受けできます!捜索系の依頼は志願者も少なく儲けもあまり出ないため受けてくれるなら助かるというのが本音ですね。」




「この町に来たばかりだから教えてほしいんですけど、商業区って何ですか?」




「あぁ商業区というのはこの町の五つ分かれている区のうちの一つですね!」




そう言ってレイナはさらに詳しく教えてくれた。




先も言った商業区とは、武器屋や道具屋など物を売っている店が多く、自分の店を持つ者たちが多く住む区のこと。


ギルドはこの商業区のど真ん中にあるらしい。


他に産業区、居住区、聖区、内区といったものがあり、




産業区は鍛冶師や錬金術師など物づくりをする者たちが多く住む場所。


居住区は一般市民の大半が住んでいる区であり家が並んでいる場所。


聖区は教会の人間がその区を取り仕切っており、孤児院などがあるため身寄りのない子供たちが多く住む場所。


内区は貴族の家が立ち並び他の店とは違った高級な店が多くあり、一般市民にはあまり縁のない場所らしい。




そういったことを詳しく教えてくれたレイナに礼を言い、私はこの依頼をとりあえず受けてみることに決めた。


するとレイナが、




「ありがとうございます!依頼の期限は一週間で、この期限を過ぎますと違約金が発生しますがよろしいですか?」




「大丈夫です、お願いします。」




「わかりました!では、依頼を受領します。気を付けていってらっしゃいませ!」




そうやって初めての依頼を受けた私は、少し興奮しながら冒険者ギルドを飛び出した。




「冒険者ギルドは商業区だって言ってたしまずは産業区にでも行ってみるか。」




独り言をこぼしながら私は産業区の方に足を向けた。




そうして歩くことしばらく、私の耳に一定の間隔で音を鳴らす小気味いい音が聞こえてくる。


その音に近づいていくだけで熱気が辺りを覆い喉が急速に乾いていく。


それが鍛冶師の鳴らす槌をふるう音だと気づいたのはその音の正体の前までやってきた時だった。




鍛冶場に到着した私は、気になって小窓から中を覗き見る。


木の幹ほどもある腕が何度も同じところをその手に持った槌で叩いている光景に私は思わず見入ってしまった。


しばらく見ていると、鍛冶師が形ができてきた鉄を置いて顔を手ぬぐいで拭う。


そうやってちらと小窓の方に視線を向ければ、それを見ていた私と目が合った。


鍛冶師は今気づいたのか驚いた顔で話しかけてくる。




「驚かすんじゃねぇよ!なんでい嬢ちゃん俺に何か用か?」




どこか呆けていた私は鍛冶師の言葉に驚き返す。




「い、いえ!あまりにもその作業が綺麗なもので見入ってしまいました、すみません。」




その言葉に鍛冶師は笑みを浮かべながら、




「けっ!嬉しいこと言ってくれんじゃねぇか!どうしたこんなところに、嬢ちゃん一人か?」




その言葉にここに来た目的を思い出した私はついでとばかりにここでネコを見かけなかったか聞いてみることにした。




「ここいらで、背中に丸い模様が二つある白いネコを見ませんでしたか?」




「飼いネコに逃げられたのか!ここいらに動物なんか滅多にこねぇぞ!なんせここいら一帯がこの暑さだからな!」




言われてみて私も汗が頬を伝っていることに気付く。


確かにこの暑さだと動物はあまり近づかないだろう。


他の区を探した方がいいと思った私は、鍛冶師に別れを告げる。




「そうですか、わかりました。他の区を探したいと思います、ありがとうございました!」




「おう、俺も気にかけてもし見かけたら保護しといてやるよ!」




その言葉に「お願いします。」と返して私は産業区を後にする。


産業区はあちこちで槌を振るう音が聞こえる熱気の立ちこもった場所だった。






次に私は聖区の方にやってきた。


ここいらだけ石畳が白くなっており、建物も白が基調になっていて少し落ち着かなかった。


私は当てもなく辺りを見回りながら歩いていく。


すれ違う人も皆白い服を着ておりそれが不気味だった。


もし私が孤児院を頼っていたら、私もこの服を着させられていたのだろうか、そんなことを考えながら中央に向かって歩を進めた。




しばらく歩くとギルドよりも大きな教会が目に入る。


太陽神を崇めるその教会は相変わらず白を基調としており、細部には太陽神を思い浮かべているのか橙色を使っており荘厳な雰囲気を放っていた。




私はその教会を睨みつける。


なぜだかわからないがあの教会を見ていると胸の奥がざわめき立った。


エリスに影響されているのだろうか、なぜだかここから早く立ち去りたくて仕方なかった。




原因もわからぬまま、私はその場で踵を返し聖区を後にする。


今後はあまり近づきたくないと思わせる場所だった。




なんの手がかりもないままにぶらぶらと歩き続け、きづけば日が頂点を少し過ぎたところにあり私は一旦昼食をとることに決め近くにあった出店で軽食を買い、歩きながらそれを口に放り込んでいく。




「やっぱり地道に聞き込みをしていくしかないかぁ。」




そんなことをアスラにごちりながら歩いていると裏道の方で怒号が聞こえてくる、


何か不穏な気配を感じ取り前の道を曲がって裏道を覗くと、細身の体に目元のあたりまで伸びた藍色の髪の青年が屈強なガタイをした男二人に取り囲まれていた。




「おらてめぇ!いつになったら金持ってくるんだ?お前の妹がどうなってもいいのか!?」




「すみません!お金は必ず用意しますので!もう少しだけ待ってください!お願いします!」




「馬鹿野郎が!そう言って何日経ったんだって聞いてんだよ!」




「俺たちもさぁ本当はこんなことしたくないんだぜ?お前が妹の病気治すためにどうしてもっていうから協力してあげようと思ってんのにさぁ、これじゃ気が変わっちまうかもしれないぜ?




「そんな!?お願いします、もう少しだけ待ってください!」




「何度も言わせんじゃねぇ!この馬鹿がっ!!」




そう言って青年は暴行を受けていた。


急所を殴られないように体を丸めて必死に耐えていた。


面倒ごとに顔をしかめてみていた私は警備隊を呼ぶか逡巡しながら見ていると、ふとその男らの奥の木箱に寝転がっているネコを見かける。


よく観察するとそのネコは白くて背中側に丸い模様が二つ付いていた。




「あーーーー!」




気づけば私は目の前の問題のことを忘れ叫んでいた。


突然背後から大きな声が聞こえた男たちは肩を跳ねさせ振りむくが、幼い少女一人というのを確認して露骨にほっとした表情を浮かべる。


そんなことなど知らない私は、視線をネコだけに固定し捕まえるべく走る。




そんなことなど知らない男たちは、突然少女が自分ら二人に突っ込んできたと思って慌てながら罵声を浴びせる。


殴られている青年は訳も分からずうろたえていた。




「なんだぁお前!邪魔すんじゃねぇ!」




「お前みたいな子供が俺らにかなうと思ってんのか?」




その罵声が聞こえてないかのようについに目の前まで来た少女に男たちは身構える。


しかし、少女は男たちをすり抜けて駆けていく。




「まーーーてーーー!!」




そう叫びながら消えた少女に、三人は何が起きたのかわからぬまま少女が消えた道を見ながら立ち尽くしていた。



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後書き


藍色の髪の男「あれ?これって助かるフラグじゃないの??」


直前まで迷って世界観壊れそうでこのセリフ入れるのやめました。笑



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