第19話 久しぶりの星詠み

シャウランの町にたどり着いたころには、もう日が傾き一番星が輝いていた。


出る時と一緒の門番だったこともあり覚えていてくれたのか、町に入るのに時間はかからなかった。




無事に済んだことに安堵しながら私は冒険者ギルド目指して歩を進める。


しばらく歩くと前に朝も見た一際大きな建物が目に入る。


迷うことなく到着した私は、中に入ろうと両開きの扉に手をかけてそれをやめた。




「てめー割り込んでんじゃねぇ!俺が先に並んでたんだよ!」




「なんだと!俺が先に並んでたんだ!お前がどっか行きやがれ!!」




「てめー上等だ!表出やがれ!」




「やったろうじゃねーか!!」




ギルドの中は人でごった返し、あちこちで喧嘩が起きていた。


今中に入ると間違いなく問題に巻き込まれると思った私はくるりと向きを変えると、行き先を宿へと変更する。


巻き込まれる前にそそくさと退散したのが功を奏したのか、私の背後では両開きの扉を蹴破って出てきた男たちが周りを威圧しながら言い合いをしていた。




「また冒険者ギルドの前で喧嘩だ、おい!行くぞ。」




「またですか。毎度毎度よくやりますねー、わかりました。」




たった今私の目の前を警備兵と思われる人たちが通り過ぎていったため捕まるのも時間の問題だろう。




「あれだけ人がいたんじゃいつまでかかるかわかんないし明日からは朝にした方がいいかもね。」




アスラに話かけながら、歩いているとやがて目当ての宿にたどり着く。


中に入るとちょうど晩飯の時間だからか昨日よりも多い人の数に憂鬱になりながら空いていたカウンターに腰を下ろす。




私を見つけたミランダが一目散に駆け寄ってきて、開口一番に無事を確認する。




「あんた無事に帰ってきたんだねぇ!よかったよかった!!今ご飯持ってくるからちょっと待っときな!」




そう言ってすぐさま厨房に入っていったミランダを見て苦笑する。




「一言もしゃべらせてくれなかったよ・・・」




あまりの勢いに言葉を放つ間もなかったことをアスラに言い訳しながら、料理の到着を待つ。


待っている間やることもないので魔法のことを考えていると、しばらくしてお盆いっぱいに料理を乗せたミランダがやってきた。




「はい、今日は私のおごりだよ!冷めないうちにいっぱい食べな!」




「えぇ!こんなにいっぱいいただけませんよ!」




「いいんだよ!今日はめでたい日なんだから!遠慮なんかいらないからしっかり食べな!」




そうやって有無を言わさず押し付けられる料理とミランダの圧に負け、私は礼を言ってそれを頂く。


顔は似つかないが、その雰囲気に少し母の面影を見た私は、懐かしみながらまずは皿いっぱいに乗ったステーキを頬張る。


口に入れた瞬間に広がる肉の油の甘味と、下処理のおかげか少しも獣臭さのない肉ははっきり言って絶品だった。


その幸せそうな顔を見たミランダはそれ以上何も言うことなく、満足そうな顔をして他の客の対応に戻っていった。




「はぁー美味しかったけど食べ過ぎたな、お腹がはちきれちゃいそう・・」




何とか全部完食した私は今部屋で苦しいお腹をさすりながらベッドに横になっていた。


ふと備え付けの窓に目を向けると、町全体を照らす明かりのせいで分かりにくいが夜空には星がきれいに輝いているのが見えた。




「見える星の数は少ないけど最近全然できてなかったし、ここなら光っててもあんまり気にならないよね。」




アスラに問いかけた質問は、ふるふると震えることで答えられる。


最初から期待はしてなかった私はそれを自分の都合のいいように解釈し、窓際に部屋にある椅子を持っていく。


そこに腰掛けると窓をあけて星を見る。


少し冷たくなってきた風に町から聞こえる喧騒が新鮮で、私はなぜだか気持ちが高ぶった。


村の外で眺めた大輪の星とはいくらか見劣りするものの、気持ちが充実しているときに見る星は、変わらず私の心を落ち着かせてくれた。




「あの子たちはゴブリン、あの子とあの子たちでアスラ!あはは!」




楽しくなってきた私は笑い声をあげながら星詠みを続ける。


仄かに淡い光を帯びてきたのを感じながら私は、夜が更けるまで久しぶりの趣味に没頭した。




翌朝昨日と同じ時間くらいに目を覚ました私は、またやってしまった寝坊に頭を抱える。




「あぁ昨日は星詠みに没頭しすぎちゃったよ・・・」




横を見るとアスラが相も変わらず私の周りを漂っていた。


いつ見ても私の周りを飛んでいる微精霊を見て、いつ寝てるんだろうと益体もないことを考えながら、私は急いで身なりを整え階段を下りる。




もはや私席になったカウンターの端に腰を下ろすとミランダが寄ってきているのを確認し、昨日のお礼を言う。




「おはようございます!昨日はごちそうさまでした!とてもおいしかったです!」




「おはよう!いいんだよ、あんたの美味しそうに食べれる顔を見れただけで主人も作ったかいがあるってもんさ!」




厨房で料理していたのはご主人だったようだ。


あんな美味しい料理が作れるんだから悪い人なわけがない、今度会ったら礼を言うことを決める。


そんなことを考えているとミランダが朝食をもってきてくれる。




「はい、今日は野菜と兎肉のスープだよ!」




味についてはもはや語ることもないだろう。


ただ、とてもおいしかったとだけ言っておく。




朝から美味しい食事をいただいた私は今日も冒険者ギルドに立ち寄る。


絡まれないように少し時間をずらしたのがよかったのかギルドの中はまばらに人がいるだけで空いていた。


今日は依頼を受けてみようと思い、依頼が張り出されているボードに足を向ける。


眺めてみると、あらかたはぎとられていたが何枚かは残っていた。


残っている依頼は、高ランクのものだけが受けられる依頼か、面倒くさそうないらいばかりだったが私はとある依頼の前で目が留まる。




「迷いネコの捜索?」





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迷いネコの捜索!     ランク問わず


うちの猫が数日前から行方不明で困っています!


商業区の方に住んでいるのでそこらはあらかた探したんですけど見つからず冒険者ギルドに捜索を依頼させていただきました。


見つけていただいた方には少ないですが報酬も用意していますので何卒よろしくお願いします。


背中に大きな丸い模様が二つあり全体的に白い特徴のある猫なので見つければすぐわかると思います。

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そう書かれた依頼を私ははがして受付に持っていく。


特に理由などないが、いずれ街の探索もしようと思っていた私は、この依頼をこなしながら街を歩き回れば一石二鳥なんじゃないかと思った。




それに村でかくれんぼをしていた時に見つけるのがうまかった私は、漠然とした自信があった。


よく幼馴染であるマリーとアルマに小言を言われたものだ。




そんなことを考えつつ自分の番が来た私は昨日も対応してもらったレイナに依頼書を渡す。




「おはようございます、この依頼受けたいんですけど・・」



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後書き


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