第17話  冒険者ギルドでの一悶着

目を覚ますと明るい光が窓から差し込んできており、普段よりもだいぶ寝過ごしてしまったのが分かった。


泣きはらしたおかげで幾分落ち着いた心と腫れあがった眼を伴い、昨晩抜いたせいで空腹を訴える胃袋に従い階段を下りて朝食を食べに行く。


私のすぐ頭の後ろには、最近忘れられがちのアスラもついてくる。




昨日も見た食堂には、ピークが過ぎているからか人もまばらになっており、テーブル席に数人が座って食事をしているだけだった。


カウンターに座った私は、厨房と食堂を行ったり来たりしている昨日の女将さんに挨拶をする。




「あら、おはよう!昨日は眠れたかい?って聞くまでもないかもしれないけどねぇ。」




暗に寝過ごしたことを茶化された私は顔が熱くなるのが分かった。


久しぶりのベッドに気が緩んだのか、普段はしない寝坊をしてしまった私はこれ以上茶化されないように話を進める。




「あの、まだ朝食って食べれますか?」




「あぁ大丈夫だよ!すぐ持ってくるから、これでも飲んで待っててよ。」




そう言って女将は果実水を私の前に置くと、厨房の方に入っていった。


一口飲むと果実の程よい酸味と甘さが口の中に広がり、寝起きの乾いた口の中を潤てくれた。


あっという間になくなった果実水のグラスを名残惜しそうに手で転がしていると女将さんが朝食をもってやってきた。




「はいこれ、今日の朝食のボアの煮込みスープにパンね。もう飲んだのかい?おかわり持ってこようか?」




そう言う女将さんに私は食い気味にお願いしますと答え、目の前から香ってくるスープの匂いに誘われるように口に運ぶ。


口に入れた瞬間にひろがる肉と野菜の甘さに、これでもかと入った噛み応えのあるボアの肉が私の空腹を満たしてくれる。


まともな料理など久しぶりの私は、吊り上がる頬など気にも留めずその幸せをかみしめた。


そうやって目の前の食事に舌鼓を打っていると、目の前に果実水が置かれる。




「ずいぶんと幸せそうに食べるねぇ!こっちまで腹が減ってくるよ。はい。これ果実水ね!お代は嬢ちゃんのその美味しそうに食べてくれる表情に免じて勘弁しとくよ。」




そう言って女将さんは嬉しそうに話しかけてくる。




「本当においしいです!久しぶりにこんな食事食べました!いいんですか?ありがとうございます!」




そういうと女将さんは少し複雑そうな表情を浮かべたがそれ以上踏み込んでは来なかった。


きっと一人で宿を利用している時点で色々と訳ありなのがわかったのだろう。




「いい遅れたけど私はこの星雲の宿の女将のミランダだよ、よろしくね!」




そう言って名乗った女将、ミランダに私も自己紹介をする。




「ラルーナといいます!しばらくお世話になります!」




そうやって軽い自己紹介をすまし、談笑しながら朝食を済ませると私は冒険者ギルドに行くために準備する。


冒険者になるには、ギルドに行き登録を済ませる必要がある。


その際にもらえるギルドカードがないと冒険者は名乗れないのだ。




それを発行してもらうために私は昨日アルフリッドに聞いたことを思い出しながら冒険者ギルドを目指して宿を出た。


ちなみに宿でミランダに冒険者になるためにこの町に来たといった時は、それはもう驚かれてこの宿で働かないかと誘われたが、丁重にお断りした。


私の意志の固さを感じて折れたミランダだったが、瞳には心配の色がありありと浮かんでいた。




そんな一件がありながら私は今冒険者ギルドの前でその大きさに飲まれていた。


通常の建物よりも倍は大きいその建物は、二階建てで周りにいる人たちも皆が防具に身を包み威圧感を放っていた。


何か依頼をしに来た一般人とでも思われているのか、観察するような視線を向けられながら私は意を決して中に飛び込む。


両開きの扉をあけ放ち中を物色すると、入って正面から右にかけてまず受付が数か所あり、今まさに依頼を受けようとしているのか何人かそこに並んで待っていた。


次に向かって右側は依頼が張り出されているボードとその奥側に椅子とテーブルが置かれており宿の食堂みたいになっており、そこでも数人座って酒を飲んだり食事をしたりする人がいた。




さらにその奥に階段があり、その上は話声は聞こえてくるが何があるのかはわからなかった。


そうやって粗方把握した私は前の人らに習ってその列に並んで自分の分を待った。


しばらく並んでいると前の人がいなくなり、ようやく自分の番がやってくる。


顔の整ったきれいな青の髪を後ろに流す受付嬢に呼ばれる。




「こんにちは!私は当ギルドの受付嬢、レイナと申します。本日は依頼の用件でしょうか?」




そう言ってレイナと名乗った女性はまさか冒険者登録とは思わないのか丁寧な口調で問うてきた。


だから私は間違いを正すようにここに来た目的を告げる。




「あの、冒険者登録に来たんですけど。」




そういった瞬間、レイナと後ろに並んでいた冒険者が驚いたように息をのんで静かになった後、比較的静かだったギルド全体が喧騒を帯びる。


初めに、私の後ろで自分の番を待っていた体の大きい下卑た表情を浮かべる斧を背負った男が、




「ギャハハハ!お嬢ちゃん本気かよ!その年で冒険者になるとか、冒険者は遊びじゃねーんだぜ!?」




次に、別の列に並んでいた、帯剣した髪を短く借り上げたその声を聴いた男が、




「ははは!まじかよ!こんなガキが来るなんて冒険者も舐められたもんだな!てめーなんかゴブリンの慰み者になっちまうぜ!」




さらにその騒ぎを聞きつけた奥の机で飲んでいた冒険者が、




「おい!ガキィ!ここはお前みたいな子供が来るとこじゃねぇんだよ!わかったら早く帰ってパパとママに今日あったことを話してよしよししてもらえよ!」




ギャハハハハ、と下卑た笑いがギルド全体を包み込み、レイナもこの場を収めようと「ちょっと皆さんお静かに!」等と叫んではいるが、効果はなかった。




この世界はろくでもないやつばっかりだ。


アルフリッドやまだあったばかりだが私のことを親身に心配してくれるミランダ、このようないい人がいる反面、感情の赴くままに動き他人の気持ちなど全く考慮しないこいつらのようなろくでもないやつも多くいる。




村を出てから数日でこれだけの人数にあっているのだからこの先が思いやられる、人と関わることに嫌気がさしてきた私は、もうここで全員殺してしまおうかと考え、心が黒く塗りたくられる。




その表情を見たレイナが「ひっ!?」と声を上げて椅子に倒れこむ。


その考えを実行しようと後ろに振り向き手をかざしたところで、




「そこまでじゃ!!ったく、朝っぱらから問題ばかり起こしよって、、貴様ら全員何をやっとるんじゃ!!!」




そう言ってレイナの奥から老人のような声がこの場を諫める。


振り向くとそこには、白のローブで全身を包み、禿げあがった頭とは対照的に腹のあたりにまで伸びた髭をさすりながらこちらを怒鳴る老人の姿があった。


レイナが驚いた顔でたった今怒鳴った老人を見て叫ぶ。




「ギルドマスター!?申し訳ありません、私の不手際で!」




その瞬間ギルドは先ほどまでとは違った喧騒に包まれる。




「ギルドマスター!?」




「やべぇずらかるぞ!」




「初めて見たぜ・・・」




まさかのこのギルド一番の存在の登場に、私は邪魔されたことに半ば睨むような視線でその老人を見る。


するとその老人は私の視線を軽く流しながら、




「お嬢さんもここはいったん矛を収めてくれんかのう?それにここは冒険者ギルド。ならず者集まるこの場所で起きた今日のこれは、いわば洗礼みたいなもんじゃ。」




そういわれて私は、周りがこれ以上の騒ぎが起きるのを嫌う空気に流され、手にまとわせていた魔力を解く。




「すまんのぅ。代わりと言ってはなんじゃが、ギルド登録にかかる銀貨一枚を免除させてもらおう、レイナ」




そう言ってレイナの方にギルドマスターが顔を向ければ、




「はい、!そのように進めさせていただきます!」




そういったレイナに優しそうにうなずいた後、今度はこちらを見て、辺りを見回す。




「まったくお前らは!こんな日が高いうちから小さい女の子を寄ってたかっていじめよって!!そんな暇があるならさっさとドラゴンの一匹や二匹仕留めてこんかぁ!!!!」




今日一番の怒声で放たれたその言葉に、冒険者たちは一目散に散り散りになっていく。


その様子を見たギルドマスターは最後に、「近頃の若いもんは・・・」とぼやきながら奥に戻っていった。




すっかり静かになったギルドと、その怒声に驚き固まっていた私にいち早く正気を取り戻したレイナが謝罪を口にする。




「先ほどは申し訳ありませんでした。それでは冒険者登録に移らせていただきます。」




「いえ、私も覚悟していたことですので、」




そういって、私は冒険者の説明を受ける。



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後書き


急な話ですが、タイトルを全部変更してみました。


これまで特に意味なくつけていたんですけど、ちょっとでもわかりやすくなればなと思い、思い切って全部変えてみました!


良くなっていれば幸いです。





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