第14話 村との別れ

あれから二週間の刻が過ぎた。


調査は予想以上に難航し、何の成果も上げられないまま時間だけが経過していた。


その間私は特に手伝えることもないので、魔法の練習に勤しんだり、魚を取ってきて騎士達に振る舞ったりして過ごしていた。


その間何人かは私に話しかけてきたのだが、皆気遣うような態度が隠しきれてなく、こちらとしても理解はしていたが、仲良くなるなんてことはなかった。




そうして今日も魔法の練習をするために、草原に赴こうとしていた私に、初日に天幕で話したアルフリッドから声をかけられる。




「おーい嬢ちゃん!すまないね、急に。王都からの連絡がきてね、何の発展もないもんで一度街に戻ることになったよ。明日の朝にここを発つから、一応それだけ伝えにね。」




初日には距離を感じていたこの騎士も日が経つにつれ、砕けた口調で話しかけてくれるようになった。


他の騎士とはそんなに話していないが、アルフリッドだけは毎日最低でも挨拶だけはする仲になっていた。


そうやって今も私のためにわざわざ話にきてくれた騎士に、私は感謝を伝える。




「分かりました。わざわざありがとうございます!準備しておきます。」




そう言うと、アルフリッドは笑顔を浮かべて頷いて何度かやり取りした後去っていった。




「そっか、もう今日が最後なんだ。」




ボソッと呟いたその言葉は、誰にも聞かれないまま消えていった。


周りを見渡すと、騎士の天幕ばかりで面影はないが、よく見ると建物の残骸やへし折られた木が所々に残っており、ここであった災厄を物語っていた。


何時か旅立つとはわかっていたが、いざその時を実感すると感慨深い気持ちになった。




そうして暫く、感傷に浸っていた私は、何も持っていくものもないため、気構え一つ心得て魔法の練習をする為に草原の方に走っていく。




「アスラの説明も考えていたのに、見える人いなかったね。」




草原に着いた私は、ある程度魔法を放った後休憩とばかりに草原に座り込み、相変わらずグルグルと私の周りを飛んでいる微精霊に話を振る。


私はまだ人生で精霊が見える人に会ったことがない。


冒険者の中には何人かいると昔父に聞いたことがある為、それなりの数が精霊を見れると思っていたのだが今回の騎士たちの中には残念ながら一人もいなかった。


どうしてそう思うのかと言うと、初日に天幕で話す時も、魚を焼いて配る時もアスラはずっと私の周りや騎士の目の前を飛んでいたのに、誰一人気づくことがなかったのだ。


さすがに目の前を飛んでいるのに気づかないというのは、見えていないということだろう。




「微精霊が見えるってことは私にも精霊魔法が使えるの?」




その問いにアスラはフルフルと震えるばかりで、何も答えない。


なぜか最初は理解出来ていた感情も、日が経つにつれわからなくなっていった。


何時か精霊魔法を使う人に会えたら聞いてみよう、と心に決める。




そうこうして過ごしているうちに、あっという間に夜になった。


私は皆がご飯を食べているのを遠巻きに眺めつつ、これからのことについて考える。


第一に魔力を集めることが急務なので、そのために何かと便利な冒険者になるつもりだ。


冒険者になるのは自己責任、そこから何が起こったとしてもそれも自己責任なので、年齢制限などがあるわけではない、そこだけは救いだった。




そして、私の宿敵・・ラーナガルン・・・敵うかはわからない、また殺されてしまうかもしれない、でも、村をこんな目に合わせたあいつのことを許すことなんてできない。


エリスも言っていた、もしかすれば、妖精の魔力があれば太刀打ちできるかもしれない。


だが、やっぱり今のままじゃ魔力も練度も想像力も、何もかも足りない。




今は力をつけてるべきだ、また違う村が襲われて私のようなものが出るかもしれない。


でも、焦って無駄に殺されるよりかはよっぽどいいと、目をつむるしかないだろう。




私は家族や村のみんなを生き返らせるまでは絶対に死ねない。


一度はみっともなく死にたくないという思いで、文字通り地べたを這いずり回ったのだ。


今度も命の危険が訪れれば、みっともなくあがいてみよう、そう思った。




村のみんなはコツコツと魔力を集めれば生き返るのだから、わざわざ危険を冒してあの災厄としか言いようがない魔物に挑むのは賢い選択ではないのかもしれない。


だからこれは、私のエゴ。


あの惨劇を、あの災厄を心に思い出すだけで、どうしようなく目の前が真っ黒に塗りつぶされる。


何もかもを放り出して、あれを討つことにしか脳がその思考リソースを割かなくなる。


憑りつかれているのではないかなんて馬鹿なことを考えてしまうほど私はラーナガルンに夢中になっていた。


ここ数日の魔法の練習もどうすればあの魔物に敵うのかを軸に考えていたため、大規模な魔法が自然と多くなっていった。


そのせいで、三、四発撃てば魔力がほぼ底をつくため、ここのところはまともに練習することさえできなかった。




「、、もっと魔力増えないかなー?」




そういって私は両手を天に振り上げ、背筋を伸ばしながら星を見る。


そういえば最近、星詠みしてないな、なんて考えながら更けていく夜とは対照的に爛々と輝きを増す星をしばらく見つめていた。




「早く星詠みしたいな、町に着いたら、誰にも見つからない場所探さなきゃ。」




体が光るという弊害のせいで、星詠みができないことに軽く眉を下げた私は、ちらほら天幕の中に入り就寝の準備を始めた騎士たちに習い、自分も貸し与えられた天幕の中に入っていった。




そして夜の主役が沈んでいき、朝の主役が爛々と輝きだしたころ私は馬の上に座っていた。




「振り落とされないようにしっかり掴まっているんだぞ!」




馬になど生まれてこの方乗ったことのない私は、緊張しながら前にいるアルフリッドの鎧にがっしり掴まり、かろうじて返事を返す。


その様子に微笑ましいものを見る顔をしたアルフリッドは、一度全体に号令をかけると先頭を走る。




思いのほか揺れる馬上に気持ち悪くなった私はほんの数十歩でギブアップした。




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後書き


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