第13話 騎士との出会い

初めて魔物を狩った日、村に向かって戻っていると、遠くの方で土煙がたっているのが確認できた。


不思議に思いながら、アスラと村に戻るとそこには騎士のような姿をした男たちが二十人ほど隊列を組んで何か話し合っていた。


ついに来たかと私は緊張しながら、その人の群れに向かって歩き出す。


すると私に気づいたその中で周りよりも豪華なキラキラとした鎧をまとった人物が代表して話しかけてくる。




「失礼。お嬢さん、ここはアスラン村であっているだろうか?」




明らかに年下の私に対しても、丁寧な言葉づかいで話しかけてきた三十代後半のように見える男に私は答える。




「そうです、といっても今はその面影もありませんが・・・」




そう言って私は自嘲気味にそう答える。


すると男は、若干の遠慮を含ませてさらに質問を重ねてくる。




「君は、その、、この村の生き残りなのだろうか?」




まだまだ聞きたいことはあるだろうに、情報を小出しに出してくる騎士に、私は好感を覚えた。


きっとこの村・・アスラン村の惨劇をその目で見て、被害者の方が圧倒的に多く私の家族は生きていないかもしれない、そう思って言葉を選んで問いかけているのだろう・・残念ながら現実はその何倍も上を言っているのだが・・


そんなことを考えながら、騎士の顔を見ていると、訝しんだと思われたのか、騎士が名乗りを上げて目的を簡素に告げる。




「失礼!申し遅れた。私はここから一番近い町の領主であるユークリス・ショウマッハ伯爵所属の騎士団である。三日前に王都より下った勅命にて西の小村にて正体不明の魔物についての捜査に駆り出されたのだ。私の名前はアルフリッド・ジリーである。」




そう告げるアルフリッドは次にこちらに残酷な質問を投げかける。




「この村の代表、もしくは大人と話がしたいのだが今どこにいるのだろうか?」




アルフリッドからこのような質問が飛んできたことに対して、非難することはできない。


通常、よっぽどのことがない限り村が全滅するなんてことは起きない。


それこそ、規格外の魔物やよその国に奇襲を受けなければ、いくら小さい村だろうと全滅するようなことはなく誰かしらは生き延びるのだ。


それでも全滅するような事態があるとすれば、この国や村事態によっぽどの憎悪を持っていないととてもできないのだが、まさかそのような悪感情もないのに村一つ潰されたなんて、騎士についてから三十年近く経つアルフリッドにも経験のないことのため想像できないのも仕方のないこいえるだろう。




そんな残酷な質問にも、私はあらかじめ決めておいた定型文のようにその事実を伝える。




「村の生存者は・・・私だけです。他のみんなは魔物に殺されてしまいました。」




「っ!?」とアルフリッドだけでなく、他の騎士も息をのむのが聞こえてきた。


辺りが騒然とし、アルフリッドがその場を諫めようと声を張りだそうとしたところで、私は続けて答える。




「村のみんなは、あの・・狼の魔物に・・・殺されてしまいました。」




新たに飛び出した新情報に、アルフリッドはまずはこの子供の言うことを信じて少しでも情報を集めることを優先する。




「失礼。それは配慮の足らぬ質問を・・。良ければこの先に張ってある天幕にて詳しく聞いてもよろしいだろうか?」




気づけばまだ成人もしていないような子供の機嫌を窺いながら、アルフリッドは自らが寝泊まりするために設置させていた天幕にまだあどけなさの残る、だが言動の節々に大人のような妙に説得力を宿す子供を招き入れていた。




「それで、入って早々に申し訳ないのだが、、改めて確認するのだが、、本当にその、、生き残りは君一人なのだろうか?」




騎士としてもとても信じられないのだろう。


繰り返される質問に私は前回と同じような答えを返す。




「そうですね、私だけです。家も畑も、、家族も。全部あの魔物に奪われました。」




思い出すだけで憎悪が浮かび、表情が曇る私を見てアルフリッドも冗談ではないと思ったのか、信じられないといった顔を浮かべながら文字通り言葉を失っていた。


それでも調査としてきている以上、見つけたただ一人の生き残りに残酷な質問を続けねばならない。




「それは、、何と言ったらいいのか、、、すまない、、君の傷を掘り返してしまった。」




根が優しいい人間なのだろう、少女のことを思い何も切り出せなかったアルフリッドに私は、質問しやすくするように情報をだして続きを促した。




「村を襲ったあの魔物のその後はわかりません、、気を失っていたので、、ただ魔物とは顔を合わせているので特徴などはお伝えできると思います。」




「そ、そうか!すまないがその魔物の特徴と、どんな経緯で村がこうなったのかを教えてもらってもいいだろうか。思い出すのも辛いだろうが、よろしく頼む。」




そう言って軽く頭を下げる騎士に私は事の顛末を最初から説明した。




「はい。あれは私たちが小麦の収穫に勤しんでいた時でした・・・・・・・・・・そして目を覚ますと後には何も残っていなく、魔物も姿を消していました。」




この村で起こったすべて、もちろん妖精のことや魔物の名前などは省いてだが、を説明した私は知らずのうちに強く握っていたこぶしをほどくと肩を落として脱力する。


自分では克服して生き返らせるからと割り切っていたつもりでも、その魔物のことを語るときにはどうしても隠し切れない憎悪が瞳に浮かび体に力がはいった。




「そんな魔物は聞いたこともないな、、これは私だけで判断するにはことが大きすぎる、、か。」




そういうと騎士は部下を呼びつけ、伝言を頼むと部下は上の判断を仰ぐために馬で来た道を戻っていった。




「いや、助かったよ思ったよりも正確な情報が聞けて、調査もはかどりそうだ!私たちはこれからしばらく裏の山など周囲を探索した後に街に戻ることになると思うんだが、君はこれから、、その、、行く当てなどはあるのかな?」




そう言って相変わらず遠慮がちに聞いてくる騎士に私は、予定していたことを頼み込む。




「いいえ。行く当てなどはありません、、ですので街に帰る際に同行させていただいてもよろしいでしょうか?」




「それはかまわないよ!どちらにしても君一人を置いていくわけにはいかないからね。」




そう言ってアルフリッドは少女の同行を歓迎する。


街にいけば孤児院などもあるし、その孤児院の子供たちのための働き場もある。


それに時間はかかるが身請けの申請を行えば、誰か引き取ってくれる人も現れるかもしれない。


まだ一人で生きていくには幼すぎる少女もそういったつもりで同行を願っているのだろう、そう思ったアルフリッドはここに残ると駄々をこねられるよりよっぽどマシだ、とそう思った。




「では、君の身元は私たちが保証しよう。町に帰るまでの食料や寝床も提供するから安心するといい。」




話がうまく運んだことに私は安堵し、胸をなでおろす。


思いのほか早く騎士団が来たことで、予定よりも早く街にたどり着けそうだ、と喜んだ。


といっても調査がどれくらいかかるのかわからないためまだそう思うのは早いと言わざる得ないのだが。


そんなことを思っていると騎士から疑問が投げかけられる。




「飯はどうしていたんだ?見たとこそこまでやつれているようには見えないのだが。」




その質問に私は、山や川で自給自足の生活をしていたことを打ち明ける。


すると騎士は驚いた顔をしながら、




「その歳で魔法が使えるのか!?話し方や落ち着き方といい君は本当に年相応には見えないな。私の息子にも見習ってほしいくらい、、、っと失礼。」




私を褒めている口ぶりは家族の話題が出たところで中断された。


家族を失った子供の前でする話ではなかったとでも思ったのだろうか。


そのどこまでもこちらを尊重する姿勢に笑顔を浮かべた私は、こちらも尊重するように話しかける。




「そんなに気を使わなくてもいいですよ。確かに耐えられないほどの苦痛でしたけど、おかげで・・・・・・・・・・・・・・・目的もできましたから。」




そう言って話を締めくくった私が騎士に顔を向けると、なぜか騎士の表情が強張っていた。


何かおかしいことでもいったのだろうか、そう思い首をかしげて思案していると、




「そ、そうか!それはよかった!今日は君のおかげで助かったよ!もう十分聞きたいことは聞けたので後は下がって休むといい。ご苦労だった。」




そう言って突然話を切り上げ、私は追い出されるように天幕を後にした。


何か大事な用でも思い出したのか、それともやっぱりおかしなことでも口走っただろうか、そんなことを考えながら私は自分に与えられた天幕の場所まで歩いて行った。










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ラルーナが去った天幕の中で、男は一人重い息を吐きだしていた。




「・・・・・・・ふぅううぅ。」




騎士として長い間活動してきた男は、それなりに荒事にも対応してきたし時には魔物の退治だって出向いてきた。


曲がりなりにも、小さいながら騎士団の団長を任されるほどの男だ。胆力だってそこらのやつには負けやしない、そう思っていた男だったが最後のラルーナが見せたニタァと頬が裂けるのではないかというほど吊り上がった顔を思い出し、また体が強張った。




あれは八歳の少女が見せる顔ではない、何を経験すればあんな恐ろしい表情が作れるのか、男は自分よりも遥かに歳下の少女に気圧されたという事実に衝撃を隠せなかった。


時おり兆候は見られていた。村で起こった悲劇を語るとき、特に魔物のことを話すときに見せる少女の表情はとても年相応には見えなかったのだが、最後の覚悟のこもったそれは別格だった。




その表情を見た瞬間に、体は悪寒に包まれ体感温度が五度は下がったのではないかというくらいすくみあがらされた。




「・・・・・・・・・・・彼女は一体・・・・」




そう呟いた男は、家族の顔を思い出し、この調査が無事に終われることだけを太陽神に願った。





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後書き


私事で恐縮なんですがこの度、なろう様の方で500pvを突破しましてありがたい限りです。

毎日ちょっとずつ増えていくそれを見てモチベーションにしていましたので切りのいい500という数字に感動しています。


これからもコツコツと頑張っていきますのでよろしくお願いします。


もしこの話が面白い!続きが気になると少しでも思っていただけましたらフォローと★での評価よろしくお願いします!、私のモチベーションに繋がります!

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