第12話 初めての討伐

あれから数日、私は朝起きて山に食料と薪を拾いに、その後川に飲み水と魚を捕らえにいき昼から魔法の練習を行うという日々を過ごしていた。




土壁ウォールを覚えた日に、これを使えば魚を捕れるかもと思った私は、川の中にいくつもの土壁を発動し、それをつなげて囲いを作ると川上から魚を追い立て、初めて捕まえることに成功した。


調理法は母の料理を手伝っていたため知っていたのだが、包丁等調理道具はなにもなかったので私は新たに風刃ウィンドカッターという魔法を創造し、それを手にまとわせることで包丁の代わりとした。


今までキノコや山菜などの味気ない食事が続いていたため、久しぶりに食べるまともな食事は非常に感動したのを覚えている。




「さて、そろそろ山に本格的に入ってみようか!」




ここ数日山の浅瀬で採取していたのだが、いつも魔物など現れないような場所にもちょこちょこと姿が見えるようになっていた。


魔物の足跡や遠くに影が見えるとその場で採取を中止し、引き返していた。


山はかつてと見違えるくらい被害が出ていたため、魔物の生態系にも異常が見られているのだろうか。


とりあえず安全第一に考えながら、私は山の中に足を踏み入れた。




「やっぱりいつもと全然雰囲気が違うなぁ。」




いつもより少し入り込むだけで、禿げた森の木々の間から差し込む日の光が妙に恐ろしく感じた。


時折聞こえる鳥の鳴き声や何か小動物が近くを通過するたびに、体は大きく跳ね、いつまでたっても緊張は解けなかった。


そうして五分ほど慎重に歩幅を進めていると、前方約十M前に一匹の緑色の体をした子供のような魔物が目に入る。


何度か見たことのある魔物だが、この日はやけに緊張して口が渇いているのを感じた。


やはり初めて魔物を倒すことに緊張しているのだろうか。




(ゴブリン・・しめた!一匹だけだ。)




ゴブリンは数いる魔物の中でも最弱のFランクに分類されている魔物であり、魔物を倒すならまずゴブリンからといわれるくらいには弱い魔物だ。


弱い魔物に変わりはないのだが、かわりに彼らはずる賢さを持っているため集団で狩りをしたり仲間を呼ぶなどの策を有してくる。


そのため、たかがゴブリンと侮り突貫して囲まれて死亡してしまう新米冒険者が一定数いるのだ。




そういった知識を頭の中で思い出しながら、私は周囲をくまなく観察する。


もしちかくに仲間などいようものなら囲まれてゴブリンの餌になってしまう。


だが、いくら周囲を観察しても見えない仲間の姿に、どうやらこのゴブリンは一人で狩りをしていたのだと当たりを付けた私は、あらかじめ考えていた作戦を実行するためにわざと相手が気付くくらいの音を出しながら、ゴブリンの視界に入っていく。




「グギャ?ギャギャ!」




「・・・・!?」






予定通り私に気づいたゴブリンが、醜い声を出しながらこちらに向かってくる。


相対する魔物のこちらを獲物に見定めた視線に、私はトラウマを刺激され恐怖に体がすくむのをぐっとこらえ、村の方を向けて一目散に走りだした。




「ギャギャギャ!!グギャ!」




「はぁはぁ!、はぁ!」




うるさいくらいにはねる心臓に煩わしさを感じながら、追いつかれないように必死に走る。


思ったより早いゴブリンの足に焦りながら、私は無我夢中で走った。


そうして走ること二分ほど、体感ではもっと引き延ばされていた終わりがないと錯覚するほどの時間も仕掛けを作った地点が見えたことで、ようやく私は少し安堵した。




足首が隠れるほどの草の絨毯を私は慎重に走りぬけ、しばらくしたところで今度は体を反転させゴブリンの方へと向き直る。


所詮女の子供と舐めていたのか、ゴブリンはようやく諦めたと思った私に、走った勢いそのままに持っていた少し太い木の枝を私に叩きつけようと振りかぶる。


だが、そこでゴブリンは急に何かに足を取られたかのように勢いよく顔を地面にたたきつける。




「ギャ!?、、、ギャ~!」




自分が足をつまずくなどかけらも思っていないかのように体重を乗せて、枝を振りかぶっていたゴブリンは受け身など取れるわけもなく、盛大に顔をたたきつけ軽い脳震盪を起こしているようだった。


この千載一遇の好機を逃さないために私は、急いで次の魔法の準備に取り掛かる。




「範囲は狭く、射程も短く、威力は高く。」




あらかじめ考えていた魔法の効果を確認するように素早く声に出しながら、私はいまだ転がり悶えているゴブリンへと魔法を放つ。




炎球ファイアーボール!!」




叫ぶように唱えた魔法は、狙い通りにゴブリンの方へと吸い込まれていく。


そうして比較的早い速度で飛んで行った魔法は、ゴブリンに当たると弾けるように膨らんだあと、相手の体が見えなくなるくらいの火柱を上げる。




「グギャギャギャ!!!ギャギャギャーー!!」




目の前で、焼かれる苦しみに激しく抵抗するように踊り狂っているゴブリンを私はただ茫然と見ていた。


しばらくして力尽きるように倒れたまま動かくなったそれを見ても、私はしばらく放心するようにその火が消えるまで動くことができなかった。




肉の焼ける嫌な臭いが立ち込め、ようやく正気に戻った私は、いまだうるさい心臓の音を無理やり落ち着けるように数度胸をたたき、その場に座り込む。




「やった、、倒せたよ、、お母さん、、」




もっと喜べると思っていたのだが、歓喜するよりも安堵するといった感情の方が強いことに苦笑しながら、私は気づいたら母に向かって報告していた。


エリスの所で生き返るのを待っているだろう母親は果たしてどう思っているのか。


よくやったと褒めていてくれたらいいなぁ等と思いながら、私は忘れないうちに魔物の魔力を集めることにした。




「えっと、どうするんだろう、これを近づければいいのかなぁ。」




収納魔法から魔玉を取り出した私は、ゴブリンだった黒焦げた死体に向かい魔玉をそれに近づける。


するとわずかに怪しい紫色に魔玉が光ったかと思うとゴブリンの死体はどんどん乾いていき、最終的には砂のようなさらさらとした物質になり風に流されて消えていった。




「こんなの絶対に他の人の前で使えないじゃない・・」




本来魔物を倒すと、素材や肉などの可食部位をはぎ取った後に、その場に放置してほかの魔物の餌にするか、魔物が集まるのを防ぐために焼き払うかが常識だった。


そんな中こんなに簡単に魔物の死体を処理できる魔玉なんて持って入れば、狙われるのは必然だと思った。


今後はもっと慎重にならないとなと思いながら、私はアスラに話しかける。




「今日は凄く精神的に疲れたから、いったん村に戻ろうか。」




ふよふよと私の周りを飛び回るアスラを連れて、私は村に戻った。








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そのころ、辺りを薄暗い闇に支配されている空間に、星々の煌めきが非常に映えた印象を抱く、どこか幻想的な空間に妖しく建っている、全体的に黒で構成されている神殿の一室で、月の妖精は一人呟く。




「フフッやっと初めての魔物を倒したのか。案外時間がかかりそうだ・・」




時間がかかることに不満でもあるかのような物言いだが、顔には隠し切れないほどの喜色が浮かんでいた。


部屋のステンドグラスに反射する星の輝きを一心にその身に受ける妖精、エリスは今度は声音さえも隠せないかのように半音上げながら、




「あはは!まだ早い!!まだ機は熟していないよ!もっと熟れてからじゃないと・・・・面白くないだろ・・?」




気が狂ったかのように叫んだあと、急に冷静になった妖精は、落ち着くようにと目を閉じ数度深呼吸を行う。




「はぁああー・・もっと僕を楽しませておくれ・・頼んだよ‥ラルーナ・・」






そう言って妖精はこれからの筋書きを考えるために、その一室を後にした。



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後書き


これだけ話数を重ねてようやく一体のゴブリンを倒せました。。

こんなに進みの遅い小説ってほかにあるんでしょうか。


もしこの話が面白い!続きが気になると少しでも思っていただけましたらフォローと★での評価よろしくお願いします!、私のモチベーションに繋がります!

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