第8話 妖精の密かな策略
話すことがまとまった妖精が切り出す。
「ラルーナは僕たち月の妖精がどうやって生まれるか知っているかい?」
突然聞かれたその質問に、ラルーナは思案する。
だが、いくら考えたところで何の答えも出るはずがなかった。
そもそも、世界中どこの学者に聞いたってその質問に完璧に答えられる者はいないだろう。
それほど、妖精という種族はなぞに包まれていた。
それでもラルーナは自分なりに考えて拙い答えを出す。
「わからない、魔力が濃いところで生まれる、、とか?」
「さすが賢いね!あながち間違いではないよ。何の属性も持たない下位精霊はそういった魔力が極端に濃くなった場所から生まれるからね!だけど僕たち上位精霊は違う。僕たちは人の願いや信仰から生まれるんだ。」
そういって妖精は、ほかの学者に話せば羨望を向けられるどころではないほどの貴重な話を語りだす。
「僕たち妖精は神の眷属だからね、月の妖精なら月の神の眷属、太陽の妖精なら、太陽の神の眷属という風にそれぞれ異なる主を仰いで仕えているんだ!その他にもまだ妖精の種類はいるんだけど、それはまた次の機会にね!今はあんまり関係ないから。」
全てが初耳な情報に、頭が混乱しそうになるのを感じつつ、必死に理解しようと努力する。
だが、腑に落ちないこともあった。その疑問をラルーナは素直にぶつける。
「願いや信仰で生まれるのは、、わかったけど、それならなんで私に、、、感謝しているの?私だって神頼みしたことくらい、、もちろん、あるけど、、」
その純真無垢な質問に微笑ましく思いながら、妖精は笑顔で答える。
「そう、妖精はさっき言った通り願いなどを通じて生まれるのだけど。月の妖精だけは違ってね、僕らは君たちの娯楽から生まれるんだ!」
「娯楽?、うーん、よく、わからない、。」
「あはは、詳しく言うなら娯楽を通じての楽しいって感情が大事なんだ!その感情が僕たちを生み出す原動力になるからね!」
妖精はさらに補足を加えて説明を続ける。
「もっと詳しく話すとね!その感情が充分に集まった時に僕たちは生まれるんだけどね!でもね、そこで生まれた僕たちには精神はあっても肉体がない中位精霊になるんだよ!一般的な中位精霊は一対二枚の羽をもった者のことを言うんだけど、僕たち月の妖精は・・・・って、ちゃんとついてこれてるかい??」
「うぅ、うーん、、たぶん、」
妖精が説明の途中にふとラルーナに顔を向けると、少女は頭から煙が出ているんじゃないかというくらい見事に混乱して目を回していた。
少し矢継ぎ早に説明しすぎたか。妖精は自分の配慮の足らなさに苦笑いしながら、謝罪する。
「ちょっとラルーナにはまだ難しすぎたね、ごめんよ僕の配慮が足らなかったよ。」
そういわれると子ども扱いされているみたいで少しムッとするラルーナだったが、事実である以上言い返すことはできなかった。
「君が聞きたいことだけ答える質問形式に戻そうか!ほかに何か聞きたいことはあるかい?」
「あなたを見ていれば、、私への態度が普通じゃないのが、、わかる、、。なんていうか、、好意が高すぎるというか、、それは、、どうして、、?」
「普通じゃない」という部分に軽くショックを受けたのを流しながら、妖精は少女の問いに答える。
「んー確かにラルーナのことが好きで好意が高いのは事実なんだけど、僕は普段からこういう態度だよ?」
自分では流したつもりでも、やはり心の中で引っかかっていたのか、一つ訂正を入れて自分の尊厳を守ってから妖精は続ける。
果たして本当に守れたかどうかはわからないが。
「僕、というか僕たち月の妖精がラルーナのことを好きなのはね、僕たちが君から作られたからなんだ!」
「私が、作った、、?」
妖精はようやく核心を突く答えをだすと、さらに続けて話し出す。
「そう、僕たちは生まれてから何十年、あるいは何百年とかけて星々を繋いで肉体を作っていくんだけどね、こうやって下から見る星は近いように見えるけど、実際は凄く離れていてね、肉体を得るには凄く時間がかかるんだよ、通常はね。」
妖精が大事な話を、ラルーナにも分かるように少し陳腐な言葉で説明しているのを聞きながら、肝心のラルーナは話の途中に出てきたある言葉に意識を割いていた。
(星々を繋いで体を作るって、星遊びに似てる。でも、ということは、)
ラルーナが頭の中で何か別のことに意識を割き、そこでもうすでに答えにたどり着きかけているのを、その思案している表情で気づいた妖精は、今度はうまく説明できたことに安堵しながら、その答え合わせを行うためにさらに続けて語りだす。
「そうだよラルーナ、僕たちは君の星遊びのおかげで生まれることができたんだ!肉体どころか精神までもね!」
そうやって自信ありげに言い切った妖精に、ラルーナは自分が考えていたことをぴたりと言い当てられたことに驚愕した。そんなに顔に出ていただろうか、そんな風に思いながら、もしかして自分の考えていることが分かるのか、なんて飛躍したところまで思考が飛んで行ったところで、不意に星遊びをこの歳でまだやっていることを唐突にばらされたことに気づいて赤面する。
「凄く顔に出ているよラルーナ、、言っとくけどさすがの僕でも君の思考を読むことなんて出来っこないからね、、」
そういってジト目を向けてくる妖精だが、またぴたりと自分の考えていることを言い当てられたことで、半信半疑になりながらも本当に顔に出ているだけかもしれないと思うと、途端に恥ずかしくなり、さらに顔が熱を帯びる。
そんな顔だけで百面相しているラルーナを見て、妖精は吹き出すのをこらえながら、
「本当に君は素直でいい子だね、できればずっとその表情を見て楽しみたいところだけど今回はあまり時間もないからね、話を戻すとしよう!」
ラルーナとしてもこれ以上からかわれるのは本意ではないため、素直にうなずいて了承の意を示すと妖精に続きを促すように、顔をまじめに戻し黙って妖精が続きを話すのを待つ。
「んーといっても何を話そうかなぁ聞きたいこと、ある?」
急に投げやりになった妖精に戸惑うラルーナ、話を聞くつもりで黙っていたのにこうも早くこちらが話すことになるなんて想像もしていなかったために考えてなかった質問を必死にふりしぼる。
「私から、ていうか私のほ、、し、、あそびが生まれる助けになったのは、、わかったけど妖精って、、そんなに簡単に生まれるの?」
「ん?ちょっと待ってねラルーナ。君は何か勘違いしているよ。僕を作ったのは君一人だよ?君一人の力で僕は生まれたんだ!」
「えっ?そんなこと、、できるの?じゃあやっぱり、、妖精ってそんなに、簡単に増えるんだ。」
星遊びをしていることがばれているのがよほど恥ずかしいのかその部分をぼかして聞いた質問に、妖精はなぜか得意げにそう返す。
得意げにはしていたが、あまりにもあっけらかんとしていたため、その答え自体が大したことないと思い込み、ラルーナも同様に返す。
すると今までどこか自慢するように鼻を高くしていた妖精は、予想外の答えが飛んできたために体が傾き、地面にその小さな体をぶつけそうになる。
「とんでもない!!どうしてそうなるのさ!いいかい!僕たち上位精霊は数が少なく、とても貴重な存在なんだ!生まれるのだってさっき言ったじゃないか!何十年、下手をすれば何百年かかるって!」
ラルーナは思案する、どうにも言っていたような気はするが、あまり思い出せない。
どうして思い出せないのか、それはその話を妖精がしている途中に、星遊びのことを頭に思い浮かべて一人の世界に入っていたためであったが、それは妖精側にも多少の過失があったということで、痛み分けというところだろう。
「まったく、君には驚かせられるよ。そもそも一人で上位精霊を生み出すことができる星詠みの巫女がでてくるのだって数百年ぶりだっていうのに。」
聞きなれない単語が飛び出してきたことに、ラルーナは首をかしげ、質問する。
「星詠みの巫女?なに、それ?」
「そうだなぁ、君たちの世界には太陽の神フレイバル・ドーンを唯一神と崇める宗教国家があるだろう?なんだっけバルキア神聖国だっけ?全く太陽神なんて崇めてもいいことなんて一つもないだろうに殊勝なことだよね。っと話がそれた、昔は国なんて大規模なものじゃなく君たちの村みたいに小さい村がいくつもあってね、僕たちの主神、月の神を崇める人々も一定規模いたんだよ。」
太陽神について話しているときの妖精は、呆れたようなその話題を出すのも嫌悪しているようなそんな雰囲気を醸していた。
昔に何かあったのだろうか、と言ってもラルーナが母と星遊びをしだしたのが二歳のころからなので、いつ生まれたのかはわからないが、妖精の言葉を信じるならまだ生まれて最長六年のはずなので、昔という言葉が正しいのかわからないが。
なぜかこの妖精を見ていると、とても矛盾を感じるのをラルーナは不思議に思った。
なんて言っていいのか上手く言語化できないが、子供のような無邪気さを感じたかと思えば、突然自分よりはるか年上の年長者を彷彿とさせるような雰囲気を纏う。
その気味の悪さが何とも言えない心地悪さを、子供ながらに感じ取っていた。
「聞いてるのかい!?ラルーナ!」
そんなことを考えていると、いつの間にか目の前で止まっている妖精にまた、ジト目を向けられているのに気付いた。
また心を読まれるかと身構えたが、何も言ってこない様子を見るにやっぱり自分の早とちりだったんだろう、と安心したラルーナは会話を続けるために話を戻す。
「ごめんちょっとぼーっとしてた。それで、それとその、、星々の使徒?はどう関係あるの?」
「星詠みの巫女だよ!!まったく、やっぱりちゃんと聞いていないんじゃないか!」
少々の小言は言われてしまったが、無事に話が戻ったことに安堵したラルーナは、今日初めての苦笑を見せる。
だんだんとどもっていた口調も鳴りを潜め、いつの間にか笑顔まで見せているという事実に、果たして少女は気づいているのか。
その笑顔を見た妖精は「まぁいいけどさ!」といってくるりと背を向け、不機嫌な様子を演出する。
ラルーナが見ている背の反対側では人に見られれば顔が引きつるほどの邪悪な笑みが浮かべられていたのだが、ラルーナの目には、残念ながら映ることはなかった。
「もういいや、時間もないしね、、次はないからね!」
くるりとこちらを振り向き話出した時には、恐ろしい笑みは完全になりを潜めており、子供のような、不機嫌さを隠しもしない、とっつきやすい雰囲気に戻っていた。一つ釘を刺してから妖精は続けて話す。
「昔に月の神を崇めていた人々はね、祈りをささげる代わりに星詠みという儀式を行うことで祈りの代わりとしていたんだ。君たちが今は星遊びと呼ぶその儀式をね。」
「星遊びが月の神様に祈りをささげる儀式・・?ってことは私はずっと月の神様に祈りを捧げていたってこと?」
母に教えてもらい、自分がずっと習慣にして続けていた遊びが儀式だったなんて言われてもラルーナにはいまいちピンとこなかった。
そもそも遊びのつもりでやっていたのだから、それは不敬に当たるのではないか、ラルーナはそんな的外れなことを考えていた。
「そうだね、まぁ実際は、祈りとかいう大それたものでもないんだ、今の人々は星遊びと呼んでいるけど言いえて妙だね、実際に星で遊ぶことで僕たちが生まれるための感情を集めていたんだから。」
その説明を聞いて、ラルーナはホッとする、今も昔も星遊びは変わってなくて、星で遊ぶことが大事になるのなら、不敬には当たらないことだろう。
「星詠みのことはわかった、それで星詠みの巫女っていうのはなんなの、?」
星遊びというより、星詠みといった方がまだ大人っぽくて恥ずかしさもまぎれる、といった理由からちゃっかり星詠みといい方を変えて尋ねるラルーナに、妖精は気づいていながらまた話がこじれるのを嫌い、あえてそこに触れなかった。
「星詠みの巫女ってのは巫子とも言ってね、やっぱり大人よりも子供の方が想像力は豊かだから、突飛な発想をよくするんだ。そして当然子供の方が楽しいって感情を多く出せるよね、だから巫子ってのは今風にいえば星遊びの上手い子供ってところかな!」
何か特別な能力とか力があるもののことと思っていたラルーナは、もったいぶった挙句子ども扱いされて終わったことに少し眉を下げる。
「はは、不満気だね!子ども扱いは心外かな?でもね、時として子供は、大人を超えるよ。その思考の柔軟さは大人でも思いつかないような素晴らしい発想を思いつくんだ!だから僕ら月の妖精や神は、子供のことを大事に思っているよ。」
そういわれてしまえば何も言えなくなってしまうラルーナは、子供が大人を超えるというのを聞いて、機嫌を直しながら気になったことを質問する。
「じゃあ星詠みの巫女っていうのは村で一番星詠みがうまい子供が選ばれてなるものなの?」
「そうだね、そうやって村の長に決められて名乗るとか、自分で勝手に名乗っている子供もいたけど、本当の巫女は違うよ!そもそも本物の巫女っていうのはなかなか現れなくてね。現れても数十年に一度とか下手をすると百年単位であらわれないこともあったよ!」
「本物の巫女と偽物を見分けるにはどうするの?」
「偽物って、、もっと言い方があっただろう、いいんだけどさ間違いじゃないし、本物の巫女はね、作ってくれた恩に報いるために僕ら妖精から加護が与えられるんだ!」
「合ってるなら、いい。加護ってことは、何かの耐性を得られるとか?」
幼いころから英雄譚などを読んできたラルーナにとって加護というものは、よく出てくる定番のようなものだった。
だが、返ってきた妖精の言葉は今まで読んできた物語に出てくるどの加護とも違うものだった。
「加護というのにも色々あってね、ってそれはまた今度にしようか。僕たち月の妖精から送られる加護の効果は星詠みをした時に魔力が回復するというものなんだ!」
今まで話のスケールが大きくて凄さがあまりわかっていなかったがこれなら、まだ幼いラルーナにもそのすごさがよく分かった。
通常魔法を使う際に使用する魔力だが、当然自分の中から使用するわけなので使えば容量はどんどんなくなっていく。魔力を回復させるには休むことが一番なのだが、しっかりとした食事をとり、ぐっすり休んだ時と何も食べず座って休んでいた時の回復量は、全然違う。魔力を回復するには体のエネルギーを使うため、しっかりと休んだ方がいいのだ。
魔力の容量などにもよるが、使った魔力を回復させるには一晩ほどかかるといわれている。
魔力を回復させる手っ取り早い手段としてポーションを服用するなどもあるにはあるが、草を煎じて作られるため非常に苦いのだ。まだちっちゃいころ父が持っていたポーションを一口飲ませてもらったことがあったが苦すぎて飲めたものではなかった。晩御飯を食べてもまだ口の中に苦みが残っていたのだからどれほどのものかわかるだろう。
とにかく、そこまでしないと回復しない魔力を、星詠みを行うだけで回復できるのならば、破格と言っていい代物だった。
「星詠みをした時にってことは、夜だけってこと?」
「そうだね、星の見えない昼とか朝は使えないね、だけどそれを補っても余りある効果だよ?なんて言ったって送られる魔力は妖精の魔力だからね!」
思った通り夜にしか使えないのか、ラルーナは自分の考えが当たっていたことに納得しながらも、理由を聞けば当然か、と思う。
そのあとに妖精が言った言葉はラルーナには凄さが分からなかった。
「妖精の魔力だと人間の魔力と何か違うの?」
「全然違うよ!まず濃度が違う!僕ら妖精の魔力は濃いからね人の魔力で打つ魔法と妖精の魔力で打つ魔法とじゃ威力も効果も段違いだよ!」
それが本当なら凄いことだとラルーナは思った。
先に述べた通り魔法はイメージがすべてだ。
そのイメージした魔法より凄い魔法が打てるのならば、使いどころを見極めないと大変なことになりそうだ、とラルーナは思った。
「その加護を代々星詠みの巫女に授けているのなら、私にもその加護をくれるの?」
そう期待を込めて、問いかけると妖精はもったいぶったようにうなりながら難しい顔をした後こう切り出す。
「んーあげてもいいってかぜひともあげたいところなんだけど、、、、ラルーナ今死んでるんだよね、、」
「、、、、、、、、、、、、、えっ?」
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