第6話 初めての出会い
(暖かい、すごく落ち着く。)
妙に落ち着く感覚に心地よさを感じ、抗えない眠気に素直に従うようにラルーナは、いつの間につれてこられたのか、薄暗いどこか静謐な雰囲気が漂う、神殿のような場所の一室のこれまた高級そうなベッドに横になっていた。
いつまでも横になっていたいほどの名残惜しい気持ちを必死に抑え、現状の確認を優先するためにまだだるさの残る体を無理やり起こす。
「......どこ、ここ?」
眠たい目をこすりながら、考えてみるがどう考えてもこんなところにいる理由がわからない。
それどころか、思い出そうとすればするほど、吐き気を催すほどの濃厚な記憶がよみがえり、気分が悪くなった。
あれは本当に現実だったのか、自分はあの魔物に殺されたんじゃないのか、もしかすると最後の雷は外れて助かったのだろうか。そうであるならば、なんて悪運が強いんだろうか、家族を失い、友を失いすべてを失ったのに自分だけが生きているなんて。
そんなことあっていいはずがない、あんなに惨い殺され方をした村のみんなを差し置いて、自分だけがのうのうと生きているなんて、そんなことは絶対に許されない。
何より彼女はもう生きる活力が欠落していた。無理もないだろう,村の子供たちより多少は大人びていた彼女だが、実際はまだ八歳の子供である、成人と認められる十五歳にはまだあと七年もかかるれっきとした子供なのだ。これから時間をかけて培っていく経験が圧倒的に不足した、まだ一人で生きていくのも難しい幼子に、割り切って生きろと説いたところで、わかりましたと素直に通るわけもない。
「お母さん、、お父さん、、ぐすっ、、」
たとえ成人している大人でも耐えられないほどの濃すぎる経験は、幼い彼女が壊れてしまうには十分すぎた。
あの時魔物に殺されていればどれだけよかったか、早く楽になりたいと叫ぶ気持ちと一緒に、自分で命を終わらせることへの恐怖も重なる彼女の心は、二つの考えがぐるぐると頭の中を混ざり合っており、いつまでも結論が出せないでいた。
そんな彼女の胸中など知らないとばかりに、空気も読まず向かいのドアを勢いよく開け放ち、開口一番的外れなことを言い放つ妖精が現れる。
「やぁラルーナ会いたかったよ!ずいぶん待たせてしまってごめんね!なかなか面倒な仕事を急遽押し付けられてしまってさ!」
濡れ羽色の二対四枚の羽をもつ、全身が浅黒く焼けた美しい中世的な顔を持ったその妖精は、なおも空気を読むことなく、今のラルーナにとって特大の爆弾を落とす。
「あれ、元気がないね!どうしたんだい、君には笑顔がよく似合うのに!今の君の顔はまるで、大事な人をすべて失ったようなそんな絶望の顔を浮かべているよ!...っとと、今のはほんの妖精ジョークさ、そう睨まないでくれよ。ごめんね。」
わざとおちゃらけた雰囲気を出し、場を和ませようとしたのか妖精はすぐにラルーナの泣きそうな顔を見て訂正するが、八歳の子供に出すジョークにしては皮肉が効きすぎていた。
ラルーナに強く出ることはできないのか、妖精もすぐに謝罪し、すぐに顔色を窺いだす。
「本当にごめん、悲しませたいわけじゃなかったんだ。ただ君の笑顔が見たくてつい、、ひどいことを言ってしまったね。ごめんね。」
いきなり出てきて、自分のまだトラウマにもなっていない記憶をほじくり返されたラルーナは、またふさぎ込みそうになるのを制し、情報を獲得するために動く。
ここの辺りがラルーナが同年代と比べて大人びていると言われていた所以だろう。
自分は今何を優先するべきかちゃんとわかって動くことなんて、大人でも簡単にできることではない。
ただ真相は、ここが一体どこなのか、自分が気絶した後どうなったのか、ほかに生き残りはいなかったのかという好奇心が勝っただけなのだが。妖精が思いのほか反省していて、その本当に申し訳ないと思っている目を見て、溜飲がとっくに下がってるというのも理由の一つかもしれない。
それでももう一度同じ過ちを犯させないようにするために、釘だけはしっかりさしておくようにする。
「あなたは本当にひどい妖精だわ。妖精は自由奔放で他者の気持ちを重んじることはないって本で読んだことあるけど、本当なのね、私の今一番つらい過去をわざわざ掘り起こしてくるなんて。」
泣きそうになるのをぐっとこらえ、妖精に気丈にふるまって言葉を返す。
若干上ずっている声に、自分では気づかない振りをしながら返すこの言葉は、果たして妖精は気づいているのか、次にとった行動はラルーナには予想できない者だった。
「はは、だから君が好きなんだ...いつでも気丈にふるまい、他者に隙を見せないその振る舞いは君の長所でもあり、短所でもあるね。こんなときも、君は僕らを頼ってはくれないんだ、本当、嫌になっちゃうよ。」
妖精は私の言葉を聞いて、羽ばたいて扉の近くまで移動した後背を向けて、ラルーナには聞こえない声量で、そう独りごちる。
まるで嬉しそうな、ともすれば悲しそうにした顔を、決して彼女には見せないようにするために。
突然の妖精の行動に戸惑ったラルーナは、とりあえず今一番気になっていることを聞くために再度会話を試みる。
「あなたが私を助けてくれたの?」
「んー助けたっていうとちょっと語弊があるかもしれないけど、概ねその認識でも大丈夫だよ!君は僕が助けた。」
振り返ると先ほど浮かべていた顔をすぐさま笑顔に戻し、ラルーナの質問に若干の歯切れの悪さを含ませつつ、妖精はそう答える。
自分の考えが当たったことに一度安堵したラルーナは、次いで今一番聞きたい気になる質問を投げかけようとする、が、、
「あのー、その、えっと、、」
「ん?どうしたんだい?急に視線を泳がせちゃって。」
その言葉はいつまでたってもでてこない、怖いのだ、聞くのが。聞いてもし、自分が聞きたい言葉と違う言葉でも返ってこようもんならそれは現実になってしまう。
まだ、もしかしたらと、残っている希望が途絶えるのがたまらなくおそろしいのである。
それでも彼女は聞かずにはいられなかった、もしもの可能性にかけ、自分の願望が叶うことを優先してその質問を、意を決して投げかける。
「私のほかに生存者はいたの?」
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