第3話 突然の暴虐
あまりの轟音と揺れに目を瞑ってしまった私は、座っていることも出来ずに地面に体を打ちつけられた。
「きゃあ!」
「ラルーナ!うわぁ!!」
私に心配そうに声をかけてきたアルマの声も、轟音とその後に起きた嵐としか言い表しようがない突風に、すぐにかき消されて聞こえなくなった。
「ラ、、ナァ、、、て!」
奥からイザベラの必死な叫び声が微かに聞こえるが、もの凄い突風に飛ばされないように、必死で体を地面で丸めることしか出来ず、脅威が過ぎ去るのをただじっと待つことしかできなかった。
幸いだったのは、大木と重なるように座っていたことで、後ろから吹く突風と、時折飛んでくる何か生暖かい、固いような柔いような固形物の大半を遮っていてくれたことだろう。
私は何度も飛ばされそうになる体を、必死で草を、それどころか土を掴む勢いで握り込み、飛ばされまいと体を丸め大木に身を擦り寄せて行くことで耐えていた。
何時までそうしていたのか、経験したことの無い風の暴力が収まっていき、ようやく目と体を起こせるようになった私は体を起こしてその光景に絶句した。
「、、、に、、これっ、、、?」
何も無かった。文字通り何も。収穫するのが億劫になるほどの小麦畑も、生まれた時から住んでいる広くは無いが暖かかった家も、何より、さっきまで笑顔で話していた友人も母親も、、何も。
「お、母さ、ん?、マリー、、、??」
訳が分からず頭が真っ白になる。何も考えることも出来ず呆然とする。気づけば私は頭を抱えて膝を着いていた。
「なん、で、、何が、、起きた、、の?」
俯きぶつぶつと同じ言葉を繰り返す。恐怖で体は震えていた。
「どちゃっ。」
何かが叩きつけられる音がした。ばっと顔を上げ、落ちてきた物に縋った。誰かいるのか、生きていたのか、目をあらん限り開けながらその音の正体を注視した。
腕だった。それは誰かの腕だった。肩から無理やり裂かれたかのように背中側の皮膚が付いた腕だった。
「ひっ!!」勢いよく吸い込んだ息のせいで喉から高い音が鳴る。上手く呼吸が出来なかった。
「はっ、、、はっ、、はっ、、ひっ、、」
段々と苦しくなり、体が硬直していうことを聞かない、自分の左腕を握った右手が離れない。
呼吸がどんどん浅くなり、思考もまともに出来なくなった所で私は意識を手放した。
意識を手放す直前に私が見た最後の光景は、空でグルグルと円を描きながら回る黒い風と村の人と家の成れの果てだった。
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「ポツっ」頬に何かが当たる感触で目が覚めた。
体を起こした私は空に目を向ける、「がぁがぁ」と鳥の鳴き声がやけに耳障りだ。昼間の晴れ模様は何だったのか気づけば辺りはドンと曇っており、小雨がたちこめていた。
頭がぼやけて思考がまとまらない。何か思い出さなきゃいけないことがあるような気がするのに、記憶は鍵がかかったように開けない。
しばらく空を見ていた私はうわ言のように単語を呟く。
「空、、風、、黒い、、小麦、、マリー、、腕、、ア゛ア゛」
頭が割れそうだ、考えるのをやめてこのまま眠ってしまいたい、さっきから変な匂いもして気分も悪いし相変わらず鳥の耳障りな鳴き声が妙に私の気分を逆撫でる。
「匂い?」ふと気になり辺りを見回し、私は再び絶句する。
「っ、、!」
地獄だった。これを地獄と呼ばずして何と呼ぶのか。
私を中心に半径五百M(めとる)くらいに死体が、家の残骸が散らばっていた。五体満足の死体等なく、死体のどれもが腕、足、首、酷いものだとその全てが無くなっていた。その取れた四肢も辺りに散らばっており、地面は真っ赤に染まっていた。
「はっ!、、はっ、、はっ、はっ!!」
呼吸が上手くできない、何かがせりあがってくる、私は体の正直な反応に任せて地面に吐瀉物を撒き散らした。
「えっ、、うえっ、、うぉえ、、」
鳥の鳴き声が相変わらず頭から離れない。もはや耳はその機能を果たさず、ただ鳥の鳴き声だけを拾うものになっているかのような錯覚を受ける。
顔を上げて鳥を見る。二十C(せるち)くらいの真っ黒な体に真っ黒な嘴。目だけが真っ赤なのが暗闇に反射して妙に恐ろしく見えた。
何体もいるそいつらはあろうことか死体を貪っていた。落ちた腕を、溢れた臓物を食い漁っていた。まるで私に見せつけるかのように。
(なんで私だけ生き残ったのか)、(わからない)、(本当に生存者は私だけ?)、(わからない)終わらない自問自答を胸の中でずっと繰り返していた。
何もする気が起きず、ただ村の人達が啄まれてるのをじーっと見ていた時、
不意に、ソイツはやってきた。
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