第248話 パメラ・イン・難民村 前編

 難民村に着いた俺達はまず、リーダーのボドヴィッド中佐に会うべく集会所へ赴いた。


 中佐はマテウス達の件について事前に話を聞いていたらしく、渋々といった様子で彼らを受け入れていた。


 まあ、無理もない。


 国家反逆罪に問われていた罪人たちを受け入れろ――なんて、普通は嫌がるに決まっているからな。


 一応、マテウス達には交代で監視の兵士が付くから、何かあれば対処は出来るという事だったが、何かあってからでは遅い――というのが中佐の意見だった。


 この村には子供もいるし、そうでなくとも非戦闘員が圧倒的多数だから中佐達が不安になるのも理解出来なくはない。


「何かあったら、軍が責任を取ってくれるんでしょうな?」


 中佐の責めるような口調に、キルスティ大尉は毅然としてこう答えた。


「もちろんです。彼らにはここで問題を起こすようなら命の保証は無いと言い含めてありますし、実際に問題を起こしたらそのように対処致します――アイバさんが」


「俺かよっ」


 思わずキルスティ大尉にツッコミを入れてしまった。


「パメラ伍長がいるのですから、当然ですよね?」


「俺はパメラの保護者じゃないんだが」


「そんな事を言って、何か起きたら真っ先に駆け付けるんじゃないですか?」


 ……否定し切れない自分に軽く鬱だった。


「――というのは冗談として、監視役には魔法士もいますから、何かあればすぐに対処は出来ます、ご安心を」


「……ったく頼むぜ、大尉殿」


 ボドヴィッド中佐は後頭部をボリボリと掻きながら、苦笑していた。


 それからマテウス達は男女に別れてそれぞれにあてがわれた家へと連れて行かれた。


 とはいえ、今回女性としてここに来たのはパメラ一人だけだったから、彼女は監視員の女生と二人で過ごす事になる。


 監視員は独立魔法大隊所属の魔法士であるから、パメラからすれば元同僚という事になる。


 お互い複雑な心境だろうけど、そこはまあゼルデリアが復活するまでの間、我慢して貰うしかない。


 俺はパメラが住まう家を確認した後、クラスメイト達がいるテントへ向かって飛んで行った。


 キルスティ大尉はしばらく中佐と話があるとの事で、俺とは別行動となった。


 テントへ着くなり、俺に向けられた殺気を感じた。


 やれやれ、また八乙女妹か……


 ――などと考えていたら、割とガチな蹴りが飛んで来たので、俺は思わず腕でガードしていた。


「っ――?!」


 ガードしたはずの俺の腕は一瞬で崩され、すぐさま拳と蹴りの連撃が飛んで来る。


 一発一発のスピードが速い上に重過ぎて、とても捌き切れない。


 俺が反撃に出ようとすると、距離を取られて不発に終わる。


「――やぁ、さすがに奇襲でも倒せなかったか」


「お前、五龍……?!」


 俺を襲って来た相手、それは八乙女妹ではなく五龍だった。


「どういうつもりだよ? おかげで執事服が汚れちまったじゃねえか」


「久しぶりに思いっきり身体を動かしたくなってね。いつもは八乙女兄妹に相手をして貰っているんだけど、まだまだ手加減は必要だからね」


 八乙女兄が侍で妹が忍者だから、彼らの稽古がてら五龍が体術を教えているのだという。


「だからって、いきなり襲って来る必要は――」


 言いかけて、俺は五龍の本当の意図を察知した。


「『影封縛シャドウバインド』」


 俺は背後から迫って来る気配に対して魔法を放ち、ソイツの動きを封じてやる。


「ふぎー」


 後ろを振り向くと、やはり八乙女妹が俺に襲い掛かる恰好で固まっていた。


「五龍を囮にして俺を負かそうと思っていたみたいだが、残念だったな」


「ふ、ふふふー。そうでもないんだな、これがー」


 八乙女妹は不気味な笑みを浮かべてそう言っていた。


「――っ?!」


 俺は反射的に腰に差していたダガーを抜いて構えていた。


 キィン!


 金属と金属がぶつかり合う音が木霊する。


 八乙女妹の更に背後から迫っていたのは、何と八乙女兄であった。


 俺のダガーが、彼の放った剣撃を受け止めていたのだ。


「八乙女兄……お前まで一体、どういうつもりだ?」


「いやぁ、沙良に頼まれて仕方がなく……」


 沙良というは八乙女妹の名前だったか。


 八乙女兄は「仕方がなく」なんて言いながらも、俺に剣で斬りかかって来る。


 職業が侍とはいえ日本刀なんかないこの世界だから、彼が使っているのは普通のショートソードなのだが、八乙女兄も五龍に鍛えられただけあって中々良い筋をしている。


 だが、俺にはまだまだレベルが低い。


 ダガーで適当になしてやると、八乙女兄はあっさりと攻撃を諦めた。


「ごめん、沙良。僕では勝てないみたいだ」


「うぅー。お兄ちゃんの役立たずー」


 ヒドイ妹もいたもんだ。


 兄を利用するだけして、成果が上がらなかったら役立たずと罵るなんて。


 しかし、八乙女兄は慣れたものなのか、全く気にしている様子は無かった。


「お前達、こんな所で何をしているんだ」


 那岐先生が姿を現した。


 彼女は大体こういうタイミングで登場するよな。


 まるでトラブルに対して鼻が利く番犬のようである。


「――相羽、来ていたのか」


「あぁ。マリーに会いにな」


「そうか。お前も少しは保護者らしくなって来たじゃないか」


 那岐先生は生徒の成長を喜んでいるようにも見える。


「ちょうど良かった、相羽に少し話を聞きたいと思っていたんだ」


 俺から聞きたい話ねえ。


 大方クーデターの顛末と、今日連れて来られたマテウス達の素性についてだろうな。


「わかった。どこへ行けばいい?」


「そうだな。皆にも聞かせてやりたい話だから、テント前に集合しよう」


 那岐先生はそう言うと、さっさと歩き出してしまった。


 俺と五龍、八乙女兄も先生に続いて歩き出す。


「ちょっとー。私を置いていかないでよー」


 背後から八乙女妹の声が聞こえてきたが、無視する事にする。


 忍者なら自力で脱出してみせろ。

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